1 はじめに
戸田市議選における「暴力事件」とされる事案の事実関係をまとめて以後、日本共産党員あるいは党所属地方議会議員より誹謗中傷とも取れるSNS投稿をされ始めました。
現在、共に党所属機関に組織的な対応をお願いしています。
その過程で気づいたことがあります。
2 日本共産党の組織原則と「行動の統一」
日本共産党は党規約で以下のことを明記しています。
第1章 日本共産党の名称、性格、組織原則
第三条 党は、党員の自発的な意思によって結ばれた自由な結社であり、民主集中制を組織の原則とする。その基本は、つぎのとおりである。
(二) 決定されたことは、みんなでその実行にあたる。行動の統一は、国民にたいする公党としての責任である。
第3章 組織と運営
第十七条 全党の行動の統一をはかるために、国際的・全国的な性質の問題については、個々の党組織と党員は、党の全国方針に反する意見を、勝手に発表することをしない。
地方的な性質の問題については、その地方の実情に応じて、都道府県機関と地区機関で自治的に処理する。
https://www.jcp.or.jp/web_jcp/html/Kiyaku/index.html
この2つの条文はいわゆる「民主集中制」における党員の「行動の統一」と呼ばれるものです。日本共産党員は機関決定された事項について「みんなでその実行にあたる」、そして「行動の統一は、国民にたいする公党としての責任」である。この「行動の統一」を図るため「国際的・全国的な性質の問題については、個々の党組織と党員は、党の全国方針に反する意見を、勝手に発表することをしない」、そして地方個々の問題については実情に応じて、「自治的に処理する」。
これに加えて、第2章第5条も重要になってきます。これが松竹伸幸氏を除名した根拠の1つとなっているのです。
松竹氏の一連の発言および行動は、党規約の「党内に派閥・分派はつくらない」(第3条4項)、「党の統一と団結に努力し、党に敵対する行為はおこなわない」(第5条2項)、「党の決定に反する意見を、勝手に発表することはしない」(第5条5項)という規定を踏みにじる重大な規律違反です。
https://www.jcp.or.jp/akahata/aik22/2023-02-07/2023020704_01_0.html
当該条文は以下の通りです。
第2章 党員
第四条 十八歳以上の日本国民で、党の綱領と規約を認める人は党員となることができる。党員は、党の組織にくわわって活動し、規定の党費を納める。
第五条 党員の権利と義務は、つぎのとおりである。
(五) 党の諸決定を自覚的に実行する。決定に同意できない場合は、自分の意見を保留することができる。その場合も、その決定を実行する。党の決定に反する意見を、勝手に発表することはしない。
https://www.jcp.or.jp/web_jcp/html/Kiyaku/index.html
日本共産党員は「党の決定に反する意見を、勝手に発表することはしない」のです。
ここまでをまとめると、日本共産党員は「国際的・全国的な性質の問題については、個々の党組織と党員は、党の全国方針に反する意見を、勝手に発表することをしない」、さらに「党の決定に反する意見を、勝手に発表することはしない」、なぜならこれら「行動の統一」は「国民にたいする公党としての責任」だからです。
3 SNS利用と「行動の統一」の罠
(1)「行動の統一」とSNS上の誹謗中傷
今回、日本共産党員あるいは党所属地方議会議員より誹謗中傷とも取れるSNS投稿の対象になりました。その中でふと思ったことがあります。
日本共産党関係者はSNSで頻繁に政治に関する見解を投稿しています。それらは党側に問題視されることはありません。つまり、これら投稿は規約を遵守して当然行われたと解されるわけです。
その場合、SNS上に溢れる日本共産党関係者による政治家や政党、政治団体、あるいは公人、果てはマンガ作品まで、それらへの、時に誹謗中傷とも取れる激しい非難・批判は「党の決定に反する意見」では当然「ない」わけです。それら対象を誹謗中傷することは「党の決定に反する」わけではないわけです。
他方でこの論理が通るなら「党の決定がなされていない」限りにおいて、誹謗中傷をしても党として問題はないように思えます。しかしながら、日本共産党には「党綱領」や「政策」「これまでの中央委員会総会決定」が存在し、党員はそれらを参照しながら「党の決定がなされていない」範囲においても、自身の見解を党の姿勢に沿わせる努力をしないといけないでしょう。なぜなら「行動の統一は、国民にたいする公党としての責任」だからです。となると、誰かへの誹謗中傷は「党の決定がなされていない」範囲であっても、基本的な理念とある程度一致する必要が出てきます。
では、SNS上であるアカウントが実名かつ日本共産党員や日本共産党所属議員を名乗って、社会的に問題のある投稿を行なっている場合どうなるでしょうか。党規約を考えれば、この行動は「行動の統一」のもと、「党の決定に反する意見」の投稿ではないし、党の基本方針とも齟齬がないものとなるでしょうし、当該アカウントが党組織に処分されていないなら、それは日本共産党の方針に沿ったものと解されてもおかしくありません。
しかしながら、それは「社会的に問題のある投稿」である以上、公党がそのような方針を出して党関係者が実行するなど到底考えられません。
(2)SNS推奨と「罠」
もしそのような投稿を市民が見かけたらどういうことができるでしょうか。それは私が今回したように党組織に問い合わせをすることです。
一般的に言って国政政党は国民の代表者で構成されているため、そして、政党や政治団体はその公益性から税制上の優遇措置を受けているため、市民に対しての説明責任を負うでしょう。まして日本共産党は党規約に「行動の統一は、国民にたいする公党としての責任」としている以上、問い合わせには誠意をもって回答するのが当然の責任となるでしょう。
他方で日本共産党は党員によるSNSの利用を推奨しています。
多くの党員がSNS投稿を行うなら、確率論的に「社会的に問題のある投稿」は増えてしまいます。そしてそれに応じて問い合わせも増加することが想定できます。SNS利用推奨は党としての説明責任と表裏一体であり、そのためのリソースを各地の党組織は割かないといけません。
1つ1つの問い合わせに対して誠実に回答する必要があり、さらに党方針から外れていれば規約違反として処分しないといけません。SNS利用推奨は「党規約違反の投稿」発生確率を高め、対外的な説明責任とともに、内部でのガバナンス、つまり、処分のためのリソースを必要とします。もしそうしなければ、党規約違反が横行し民主集中制を維持できなくなるからです。
SNS利用推奨は高齢化が進む日本共産党にとってはリソースの節約と効果的な運動が見込める最良の解決策のように見えます。しかし、SNS利用推奨は「行動の統一」を掲げる党にとって組織的リソースをとんでもなく食い散らかすものなのです。このように「行動の統一」と相性の悪い「SNS利用」を揃えると、思っていたこととは全く逆の一種の「罠」のような状態が生じるのです。
(3)誹謗中傷と組織犯罪の疑い
ここまではあくまでも市民の目線から見てきました。それでは誹謗中傷など「攻撃」された側から見るとどうでしょうか。
私が示したように日本共産党員及び党所属議員からの誹謗中傷などの攻撃は「行動の統一」のもと、組織的に行われた可能性が生じます。一般的な政党なら「個人の責任に任せている」と回答できることでも、「行動の統一」を掲げている日本共産党は一人一人の行動が党の方針に従っているというのが党規約上、当然のことなので、それが個人の行為であっても組織的なものなのではないかと疑われても仕方ないのです。
例えば、ある党員が敵対政党の候補者にSNS上で誹謗中傷などの不法行為をした場合、それは「行動の統一」のもと、党ぐるみで行われた組織犯罪である可能性が当然、第三者からは疑われるのです。
党の組織防衛のためにはこれら問い合わせには適切に回答する必要があり、それができなければ、組織犯罪の可能性のもと、刑事告訴/告発される危険性が生じます。
(4)「SNSに強い党」と組織の責任
ここまで見てきて感じるのは2025年、第4回中央委員会総会(4中総)において掲げられた「SNSに強い党」という日本共産党の方針は実務上、かなり問題のあるものだということです。党員のSNS投稿が増えれば増えるほど確率的に不適切な投稿は増加するでしょう。市民は常にそれが党の方針によって行われているのかと疑うし、それらSNS投稿に誹謗中傷的なものが混じれば党による組織犯罪の嫌疑をかけられても仕方ないからです。
しかし、党はこの方針を突き通すでしょう。党にとって目障りな言説や調査を公開するものや党組織への批判を行うものはSNS上でリンチにあうことが増えるでしょうが、それを抑制するための組織的リソースは党にどの程度あるのでしょうか。攻撃の方針を出すことは簡単でも、それを抑制させることは極めて難しいのです。
このことを多くの人たちは気づいていません。それは党に不当に扱われ攻撃されたと思っている、あるいは表明している政治活動家や研究者、党員、党議員も皆そうです。彼ら彼女らは党に尋ねているのでしょうか。投稿をプリントアウトした束を党機関に持っていって「これら投稿は党の方針に従ったものか」と問うことは誰にでもできるのです。
それら1つ1つの投稿は世界中の人々に発信されたものであり、発信者の責任は計り知れないことを日本共産党員は気づいているのでしょうか。そして、それを推奨した「行動の統一」を掲げる党の組織的責任の重さにも。
4 おわりに:党が直面する脅威
ここまでの議論を見て、注意深い人は私が示す先にある「脅威」に気づくでしょう。
戸田市議会議員選挙にトップ当選したあの「狡猾」で「底知れぬ」男が、党中央委員会に正式に「日本共産党が『行動の統一』を掲げるなら、あの日、自分たちの陣営に一人突っ込んできた党員による有形力の行使は党の方針だったのか」と尋ねたならどうなるでしょうか。
党中央が「はい」と言った瞬間、党には強制捜査が入るでしょう。「いいえ」と言った瞬間、当該党員は規約違反となるでしょう。しかし、規約違反を行った党員をなぜ、党幹部は庇い、その行動を讃えたのかという疑問が生じます。
あの男がそれを尋ねたとき、党幹部は何と応えるでしょうか。
彼の手札には文字通り「ジョーカー」があるのです。
<追記>
ある方がSNS上で党の手引きと思われるものを提示されていました。そこには「つねに相手をリスペクトする精神で、党内外を問わず特定の個人への攻撃、とげとげしい言葉や人格批判などは行わないように注意しましょう」とあります。これは党員や党所属議員による誹謗中傷に対して党が関与しないという宣言に見えますが、あくまでも侮辱相当行為に対するものであり、名誉毀損の構成要件について予防するものではありません。また、対象が組織であるなら業務妨害の予防線にもなり得ません。詰まるとこと、これは表現に対するブレーキであり、行為に対する抑止ではないからです。
また、「個人の見解です」と党員及び党所属議員がプロフィール欄等に記入してSNS投稿を行えば良いのかということですが、「行動の統一」を掲げる日本共産党において政治的な見解について個人が好き勝手に見解を世界中に発信することは理論的に考えて不可能でしょう。そもそもそれが可能なら松竹伸幸氏の除名はなんだったのかとなります。
では、党所属を隠してSNS上で誹謗中傷を行えばいいかと言えば、誹謗中傷を行う以上、不法行為が成立するわけでその個人が特定され身元が調べられ党所属が明らかになれば「身元を隠蔽し党にとって邪魔な個人や団体を攻撃していた」となりますから悪質性は明瞭ですし、党側が隠蔽の指示を出していたのかなど疑念が湧くでしょう。
結局なところ、日本共産党員や日本共産党所属議員については言論の自由は大幅に制限されることになります。しかしそれは仕方ないと思います。「行動の統一は、国民にたいする公党としての責任」なのですから。この一文を掲げる以上、日本共産党は自組織に都合のいいように「表現の自由」を用いて、党員や党所属議員のSNS発信を擁護することなどできません。
公開日:2025年2月18日
2025年2月19日追記
原稿作成にChatGPTを用いました