はじめに
先日公開したレポート「日本共産党のXデー:2023年財務危機の実相」について、読者の方からいくつか示唆に富むご意見をいただきました。その中から主な論点を取り上げ、私なりの考察を述べてみたいと思います。
組織のダウンサイジング
ある方から日本共産党は「党のダウンサイジングは党改革を考える上では以前からの課題だった」とご指摘がありました。議員と労組(外部組織)の政党であった社民党のケースと違って(党勢縮小とともに組織自体が小さくなる)、日本共産党の場合、党官僚機構は議員数や党員数とは関係なく維持されるので財政のためには人為的に縮小させないと突然の破綻に陥る可能性があるということです。
これは非常に重要な視点です。冷静に考えると、1980年代以降、党勢の拡大は実質的に停止していました。しかし、その「最大風速」を前提として全国のインフラ──党中央のビルや地区委員会事務所、専従職員体制──が整備されてしまったのです。
さらに、革命党としての性格を堅持しようとした結果、「専従職員」主体の組織作りが行われ、一方で民主集中制のもと他党派を内部に抱えるような柔軟性を持つことができず、純粋な活動家を軸とする運営が維持されました。平成以降の総選挙での小選挙区制の導入により「選挙区での当選が難しい」という状況が常態化したため、有力な候補者が集まらず、党職員がそのまま候補となる構図が広まりました。
結果として、「党職員=候補者」という状況が定着し、その候補者たちもまた純粋で献身的ではあっても、政治家としての魅力や多様性を欠く存在になってしまいました。そして恐ろしいことに彼ら彼女らの背後にはほとんどの党員が存在を知らないであろう「党官僚」が存在し、党の実権を握っているという不透明な組織構図が生まれてしまいました。当然ながらこれら組織構造を維持のためには、莫大な資金が必要になります。
このような構図の根源は、1980年代における組織判断──ユーロコミュニズムの勃興の中での民主集中制の堅持にありました。私見では、宮本顕治体制のもとでようやく党内抗争を終結させ、権力を集中できたタイミングであったため、組織改革は現実的に困難だったと考えます。歴史的経緯を踏まえれば、それは致し方ない判断だったとはいえ、ある時点での方向転換は必要であり、それを先送りし続けたことが現在の困難に繋がっているのだと思います。その背景には、1980年代の体制維持抗争で活躍した若手を次代のホープとして担ぎ上げたことにあるでしょうが、この点については、いずれ別稿で詳述したいと考えています。
「しんぶん赤旗」の購読料は妥当なのか?
レポートをまとめながら、そもそも赤旗の購読料「日刊紙:3,497円」「日曜版:990円」「セット:4,487円」が高いのではないかという思いを抱きました。
赤旗には通信社の配信記事が含まれており、外形的には一般紙と変わらぬ体裁を保っていますが、その多くが党の活動報告や方針の紹介など、いわば「自画自賛」に近い内容で占められています。国際面などにはかつて独自性がありましたが、現在ではネットニュースの方が即時性にも多様性にも勝り、テレビ欄も地デジの普及によりテレビ画面で確認できるようになりました。したがって、今の赤旗を購読しているのは、党の強いファン層か、政界関係者・政治ウォッチャーに限定されつつあります。
かつては、新聞を日常的に購読する文化があり、また、テレビ欄が目当てで赤旗を取る家庭も少なくなかったでしょう。赤旗は、他紙より安価で、最低限の一般記事もあるという位置付けで一定の存在感がありました。しかし、現在ではその立ち位置が揺らいでおり、もはや風前の灯となっていると言わざるを得ません。
そのような中で、特に「日刊紙」の事業的魅力は著しく下がっており、多くの方が指摘するように事実上の「廃刊」になるのは必至である一方、事業収益が全体の8割である日本共産党の財政においてはこの問題は中期的な組織のあり方を抜きには語れないでしょう。
松竹伸幸氏の「News レッズ」構想について
「赤旗の危機に対して代替を試みる動きではないか」として、松竹伸幸氏による新メディア構想「News レッズ」についてご紹介のコメントをいただきました。
まず前提として、「News レッズ」と「しんぶん赤旗」との間には、そもそもの設計思想において明確な方向性の違いがあると考えます。赤旗が担ってきた役割の一つにして非常に重要な点としては、配達や集金を通じて、党と(日本共産党風に言えば)「大衆」との接触機会をつくるという地上的な運動構造にありました。その意味で、新聞という媒体形態以上に、それが機能してきた「組織的接点」としての役割は重要だったと言えます。一方で、松竹氏が想定している「News レッズ」は、Web上の情報発信メディアであり、接触の回路はネット上で完結する構造になります。
氏の構想では「より本格的なもの」として、独自のWebシステムの構築が想定されており、そのために資金や技術スタッフを要する方向に進んでいます。これについては、より現実的なスタートとして、有志とともに共同のYouTubeチャンネルを立ち上げ、noteなどの既存サービスを併用しながら、簡易な課金・応援システム(例えばメンバーシップ制度や定期購読)を設ける方が運用コストも低く、展開可能性も高いように思われます。
赤旗日刊紙がもし休刊となった場合、当然ながら大規模な人材流出(とくに記者職)も予想されます。その一部が「News レッズ」のような新メディアの受け皿になることは自然な流れであると思います。まずは低コストで回し始め、収益が安定してきた段階で徐々に制作投資を増やすという段階的な戦略が望ましいように感じます。
なお、赤旗も2025年4月から公式のYouTubeチャンネルを開設しており、今後の展開が注視されます。
ところで赤旗については別の観点から指摘をしたいです。赤旗が持つ機能については先に示したように党員と「大衆」との接点が第一にあったというのが私の基本的な見解です。それをもとに考えると、2024年の総選挙でも多くの人が勘違いしていたと思うのですが、赤旗という媒体の評価が、そのまま日本共産党という政党の信任に直結するのかはかなり微妙じゃないかなと感じます。権力者の不正を暴く調査報道が評価されたとしても、「だからその党に投票しよう」とは必ずしもならないと思います。例えるならば、「週刊文春の調査報道が鋭いから、株式会社 文藝春秋が政党を作ればいい」と考えるような倒錯に近いと感じます。
重要なのは党と人々との接点であり、それが快いものでない限り、党勢の拡大は望めないでしょう。そのツールとして「赤旗」が機能したとしても、党自体が大衆から距離を取られる人々を重用すればするほどに、「大衆」から見て党との接触は忌避されることになるでしょう。
党員制度とJCPサポーター制度の矛盾
最後に、レポートをまとめながら気づいた点です。日本共産党に入党すると「実収入の1%の党費+赤旗購読」というかなり高額な負担が必要になります。加えて、寄付の要請もあります。それだけでなく、支部会議参加が必須であり、日本共産党関連団体への参加が暗に求められると、生活そのものが党へ「フルコミットメント」するように求められます。それにもかかわらず、意思決定はトップダウン的であり、支部会議での議論でガス抜きはできても自分の意見が党に反映されるという実感が得にくい構造になっています。
一方で、様々な場面で問題になっている「JCPサポーター」制度は登録無料で、赤旗の購読義務もありません。「赤旗まつり」は2014年を最後に事実上、停止され、「JCPサポーターまつり」といった新たなイベントが中央主導で企画されるなど、JCPサポーター向けの施策が拡充されています。また、「YouTuber小池晃」のように中央の広報活動にJCPサポーターが直接提案ができるなど、党員であるよりも意思決定の中核に近い印象さえあります。
一般的にはファンの中でもコア層ほど特典やアクセスが増えるのが自然ですが、日本共産党の構造ではむしろ逆転しています。組織的に入党のインセンティブを下げているのは奇妙な感じがします。ネット上でJCPサポーターとしてSNS投稿するだけで党に貢献しているような気持ちになる層が増え、中央がそれを取り上げ、引き上げていけば、そもそも入党する必要は正直感じられません。
既存支持者を軽視して新規層に寄せすぎた結果、内部的に「損をしている」層が拡大している印象を受けます。このような構造は、中央の合理性からは説明できても、組織維持の観点からは深刻な矛盾を抱えていると言えるでしょう。ここにある矛盾は結局、どこかの段階で解消に向かうでしょう。
以上、コメントを踏まえた私の補足的見解でした。
公開日:2025年5月23日
原稿作成にChatGPTを用いました