コロナ禍以後の大学中退・休学率の推移:

2023年度データ公表に際して

A-n-I/44

illustration by ChatGPT

1 はじめに

今回、文科省が2024年(令和6年)6月28日に、令和5年度(2023年度)の大学等の中退・休学状況を発表しました。

令和5年度 学生の中途退学者・休学者数の調査結果について


 私たちはこれまで「コロナ禍の大学休退学」問題について、文科省発表データのモニター、独自アンケートの調査等を通して、その全体像を探ってきました。


コロナ禍の大学中退はどうなったのか

「コロナ禍の大学中退」結論  

コロナ以後の「休学増加」、そして、「就職留年」

「コロナ禍の中退・休学」その全容


 上記調査の結果をまとめると以下のとおりです(「コロナ禍の中退・休学」その全容 より)。


 まず、2020年、学生を取り巻く環境は一気に変化しました。就活における選考スケジュールの遅延、海外への渡航禁止、一時的な経済不況、国内での移動制限、フルオンラインの学校生活、移動制限や病院への受診控え・・・。これらはそれぞれ就職留年、留学、進路変更、大学・短大の教育への不適応や人間関係のトラブル、怪我や病気を抑制し、それら由来の退学や休学を減らすことになったと考えられます。

 2021年以降、日常が戻るにつれ(あるいは非日常が延長するにつれ)、抑制されていた退学・休学要因が復活し(あるいは新たに惹起し)、退学や休学が年度初期の5月段階、あるいは年度全体を通じて増えていく、あるいは復活していく傾向が生まれたというわけです。

 メディアや学生団体が喧伝したような「コロナ禍のオンライン授業のため退学・休学に追い詰められた可哀想な大学生」も全体で言えば僅かであったのです。

 端的に言えば、コロナ禍の非日常の中で日常的にあった退学や休学の要因が一時的になくなり(今回は想定できなかった要因だけが残り)、大学生の退学・休学が減ったということでしょう。それは「コロナ禍の非日常」が学生の退学や休学を促す決定的な要因にならなかったことと合わせて「コロナ禍の大学」を考える上で重要な知見となります。


この知見を踏まえ、新しく発表されたデータについて以下、検討していきます。

2 大学・短期大学の中退率

 大学・短期大学の中退率(学生数に占める中退者数の割合)は2.10%と前年の1.94%から上昇しています。

中期的なトレンドを見ると、大学・短期大学の中退率推移は以下のようになります。

 

令和1年(2019) 2.41%

令和2年(2020) 1.83%  -0.58P

令和3年(2021) 1.79%  -0.04P

令和4年(2022)  1.94% +0.15P

令和5年(2023) 2.10% +0.16P

 

 2020年度のコロナ禍以降、中退率は減少し、2021年度で底を打ち、コロナ禍以前の水準に向かって上昇しています。

2022年度の中退理由としては「転学等」17.8%、「学生生活不適応・就学意欲低下」16.8%、「就職・起業等」14.2%、前年度比でそれぞれ0.8ポイント、0.8ポイントの上昇、±0の変化なしです。2023年度の中退率については「転学・進路変更等」が4.2ポイント増の22.0%と最も高く、ついで「学生生活不適応・就学意欲低下」の16.5%ですがこちらは-0.3ポイントと減少しています。さらに「就職・起業等」14.4%と続きますがこちらも0.2ポイント増加です。後者2項目の上下については誤差の範囲ではないかとも考えられますから、「転学・進路変更等」の上昇が大きく寄与した可能性があります(項目の表現に変化があったことに注意:2022年度「転学」→2023年度「転学・進路変更等」。また2022年度「心神耗弱・疾患」→2023年度「精神疾患」)。

 2021->2022年度の理由構成は変化せず、2022->2023年度では進路関係が増加していますが2021->2023年度の上昇トレンドを説明する共通ファクターが見られません中退理由から背景を考えるのは難しそうです。

3 大学・短期大学の休学率

大学・短期大学の休学率(学生数に占める休学者の割合)は2.68%と前年の2.03%から上昇しています。

中期的なトレンドを見ると、大学・短期大学の休学率推移は以下のようになります。

 

令和1年(2019)   2.15%

令和2年(2020) 1.91%(-0.24P

令和3年(2021)  1.88%(-0.03P

令和4年(2022)  2.03%(+0.15P

令和5年(2023) 2.68%(+0.65P

 

 中退率と同じく2020年度のコロナ禍以降、休学率は減少し、2021年度で底を打ち、上昇する中で2023年度急上昇し、コロナ禍以前の水準を超えてしまいました。

 当該年度5月1日付休学率については2023年度においてコロナ以前の水準を上回っている旨、レポートA-n-I/34 で報告していますが年度全体での傾向でもそれが確認されたということになります。

 2022年度の休学理由としては「心神衰弱・疾患」13.1%、「海外留学」11.9%、「経済的困窮」11.7%、前年度比でそれぞれ2.3ポイント、5.8ポイントの上昇、2.2ポイントの減少となっています。

2023年度の中退率については「海外留学」13.7%、「精神疾患」12.6%、「経済的困窮」11.9%で、それぞれ1.8ポイントの上昇、0.5ポイントの減少、0.2ポイントの上昇となっています。

2021->2023年度の理由構成を見ると、「海外留学」の上昇が大きく、コロナ禍以降の国境間移動の活発化が反映していると思われます。

2023年度文科省が注意を向けているものとして「転学・進路変更等」の理由があり、これは8.1%と前年度比3.5ポイントの上昇となっています。加えて、文科省が指摘していないものですが「就職・起業等」について2022年度4.5%が2023年度で6.0%と1.5ポイントの上昇となっています。

4 考察

 上記データが示す最も大きいことは、コロナ禍の2021年度を底に、中退率はコロナ禍以前の水準に向かって、休学率はコロナ禍以前を超えた水準に上昇しているということです。

 背景をそれぞれ考えてみましょう。

 中退率については、理由項目について特段の変化はなく、これまでの分析を踏まえて単純に対面授業による「キャンパス不適応」というネガティブ要素、起業や就職、転学等の大きな進路展開ができる環境要因の復活など、良くも悪くも「いつもの日常」に戻った結果と思われます。

休学率については、2023年5月段階ではすでにコロナ禍以前を超えた上昇を観測していました(A-n-I/34参照)。2023年度末に確認された休学率の大きな上昇については、「コロナ禍以前を上回る水準の5月1日段階の休学」に「それ以後のコロナ禍以前の水準の休学」が上乗せされたものだと理解することができるでしょう。前者の背景には「就職留年」があるのではないかと考えられました。2023年度については「海外留学」の上昇もあり、「それ以後のコロナ禍以前の水準の休学」も上昇したのではないかと思われます。

5 おわりに

   中退率及び休学率の推移について、今後の注意点としては、中退率・休学率ともに上昇はひと段落するのかということになるでしょう。それは良くも悪くもコロナ禍の影響が落ち着くことを意味します。

   中退率について言えば、現在の上昇トレンドのままなら2025年には2019年、コロナ禍以前の水準に完全に達します。上昇トレンドの継続、コロナ以前の水準に達して以後の推移に注意が必要でしょう。

 休学率については、特に5月1日段階での休学率については景気・雇用状況の落ち着きとともに2年程度の範囲で落ち着くのが通例でした(A-n-I/34)。今回も同様のトレンドになるのか注意が必要です。

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2024年711

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