はじめに
本稿は、公益財団法人明るい選挙推進協会が令和7年3月に公表した「第50回衆議院議員総選挙全国意識調査 ―調査結果の概要―」をもとに、投票行動と有権者の社会的属性との関係を実数ベースで再構成・分析したものである。
この調査は、令和6年10月に実施された第50回衆議院議員総選挙を対象に、満18歳以上の全国の有権者を無作為抽出して郵送配布・回収されたもので、回収率は55.2%(有効回答数1,681件)であった。
本稿では、特に報告書45ページの「表6-2 社会的属性と投票政党(比例代表選挙)」に着目した。この表では、性別・年代・学歴・職業・都市規模といった属性ごとに、各政党の得票率(%)が示されている。しかしながら、この形式では各政党の投票者がどのような属性構成を持つか――すなわち“投票層の内訳”は直接的には把握できない。たとえば「れいわ新選組の投票者における40代の割合」や「日本共産党の投票者のうち大卒は何人か」といった情報は、表の読み取りだけでは得られない。
そこで本稿では、提示された各属性の回答者数(「全体(件数)」)と各党の得票率(「全体割合)をもとに、属性ごとの推定投票者数を計算し(「計算実数」)、各政党投票者の内訳(「割合」)を実数ベースで復元した。これにより、各党がどの層から何票を得ているのか、また各党の支持基盤がどのような社会的属性に偏っているのかを、より具体的に明らかにすることが可能となる。
こうした試みは、単なる支持率の分布を超えた投票構造の把握につながるとともに、将来的な人口構造の変化(高齢化や都市部集中など)に応じた政党別のリスクや課題を予測する上でも、有効な手がかりを提供するものである。
結果
上記手続きに従い割り出し結果を表にまとめた。ここではそれに加えて、各党の内訳(「割合」-b値)から全体の内訳(「割合(期待値)-a値」)を引いてポイント差を導き出し、その差の絶対値が5%pt(ポイント)を超えたものに注目し、各党のそれぞれの属性における「強い」属性(期待値より5ポイント以上で構成比率が高い)と「弱い」属性(期待値より5ポイント以下で構成比率が低い)を割り出している。
(1)与党
自由民主党
自民党は、性別・年代・学歴・職業・居住規模のいずれでも±5ポイントを超える偏りが検出されず、あらゆる層から“平均的”に票を集めている。一方で、特定層に強固なロイヤルティを持たないため、争点設定や対抗勢力の局所的攻勢次第で浮動層が流出しやすい脆弱性も潜在的に抱える。
公明党
公明党は 80歳以上の高齢・60代・女性・想定的に低い学歴(小中卒・高卒)・非正規就労者・無職 に突出して強い。女性比率は全体平均比で+15.7pt、高卒+15.3pt、非正規+10.2pt、無職+7.3pt。70歳代が相対的に少ないことを考えると、低い学歴や非正規・無職への浸透は単なる世代構成だけでは説明できない部分があり、社会的に不安定な層を取り込んでいる可能性が示唆された。
ただしこの点については支持母体の「創価学会」の動向が絡んでおり、単純には分析がしにくいのも現状である。投票の再生産 が行えていないのは「学会2世、3世」への取り込み不足や純粋に信者の減少が背景にあるのだろうが、この点は宗教学的な観点からの分析が必須である。
(2)保守系野党
国民民主党
国民民主は 大都市在住者・若年/中年・男性・高学歴・正社員 に強さがある 。男性+9.3pt、18–39歳で+6.6〜10.5pt、大卒以上+14.0pt、正社員+11.1pt。大都市在住の比較的若い大卒会社員というのが投票者層のイメージであろう。都市型ホワイトカラーを中心とする“面”の拡大が進む一方、60代以上や女性・主婦層には食い込めていないことがわかる。
日本維新の会
維新は人口20万以上の都市で+6.9ptと、地理的に中核市規模の都市部にやや強いほかは、大きな属性偏りが見られなかった。無職層で−8.8ptと弱いことから、非就労・年金生活者への訴求が課題である。年齢・学歴別に見ても極端な山谷がなく、“地域党”の色彩が依然として強い。
参政党
参政党は 40-50代・男性・短大高専専門卒・自営業 で突出する。短大高専専門卒+17.6pt、自営業+17.9ptは全政党中でも最大級の差分で、実学志向の中堅事業者がコア得票層を形成している(コロナ禍の自粛で最もダメージを受けた飲食業やイベント業などの零細企業経営者のイメージと合致する)。女性・70代以上・大卒では大幅なマイナスが生じており、高齢・女性・高学歴票の取り込みが今後の成長課題となる。
日本保守党
日本保守党は男性・中年・都市在住の無職/非正規層を基盤とする。男性比率は全体平均を +30.8pt上回り、回答者の約8割を占め、ジェンダー差が極端。年代では40・50代が+10~17ptと突出。学歴は短大高専専門卒で+14.0ptと、中堅“実学系”が強い。職業別では無職・非正規が+22.7pt、派遣・契約も+5.4ptと高い。居住規模では大都市が+13.2pt、人口10万超の市も+5.7ptと都市依存型の色彩が濃い。
(3)リベラル系野党
立憲民主党
立憲は 70代以上・男性・無職層 に厚い得票を得る(70代+8.6pt、80代以上+5.3pt、無職+9.3pt)。全年代で見ても高齢化とともに得票率が高まっており、無職層への浸透などは年代効果が主要因と考えられる。40代では−7.4ptと弱く、現役世代への訴求力不足が顕著であり、支持団体の1つが労組である労働者の党としては投票者の実態が追いついていない。むしろ、「団塊の世代以上」の党として世代政党と化している。
日本共産党
日本共産党は 高齢・女性・主婦・高卒層 が支持基盤(女性+19.8pt、70代+19.3pt、高卒+6.9pt)である。低学歴優位の大半は高齢構成の反映ではないかと考えられる(40代以上で得票が比例していくため)。男性・大卒・40-50代では大きくマイナスとなり、世代継承の遅滞が顕著となっている。また、世代効果の影響もあり、自営業者や正社員への食い込みが弱く、非正規でも+4.9ptと弱さが見られる。立憲と同じく労働者の党というよりも高齢者の党となっている。
れいわ新選組
れいわは 40代・男性・短大高専専門卒・大卒・正社員 に強い(40代+18.1pt、短大高専卒+12.6pt、大卒+6.0pt、正社員+17.1pt)。主婦・高齢層ではマイナスが大きく、労働現役世代の改革志向に特化した反面、シニア層へは浸透していない。
考察
(1)三つの類型
ここまでの分析をもとに政党をおおむね三つの類型に整理した。
1. 均質取得型(自民・維新)
人口構造と類似した比率で票を得る。裾野は広いが岩盤は薄く、争点次第で大きく振れる。
2. 高齢・女性型(公明・共産・立憲)
高齢・低学歴・非正規・主婦層に強み。世代継承と高学歴層への浸透が長期課題。
3. 若中年・男性型(国民・れいわ・参政)
若-中年男性ホワイトカラーや実学系学歴、自営業・正社員に強い。女性・高齢・非就労層へのケアが拡大の鍵。
*派生類型(日本保守党)
都市在住の中年男性・非正規/無職をコアとする保守勢力。女性・高齢者・地方での支持が乏しく、既存③型とは異なるニッチ市場を占める。いわゆる「ネット保守」の一種の可能性がある。
今後の選挙戦略を展望すると、
公明・共産・立憲は「現役×高学歴」層への足場づくり、
国民・れいわ・参政は「高齢・女性・主婦」層へ向けたメッセージの補強、
自民・維新は浮動層を継続的に囲い込むテーマ設定
保守:女性・高齢・地方票の掘り起こしと正規雇用層への訴求
がそれぞれの拡大シナリオとなる。こうした多極化した投票構造を前提に、政党は単一属性ではなく複合的なライフコース視点で政策を訴求する必要があるだろう。
(2)「リベラルの余命」をめぐる野党間の戦略
リベラル系野党のうち、立憲民主党と日本共産党は高齢者に投票者が偏っており(70歳以上 :回答全体33.3%に対して、立憲47.3%、共産56.7%)、かつての日本社会党と共産党がともに「労働者の党」から「高齢者の党」に変貌していることを示している。
両党が国会論戦における「スキャンダル」闘争で活躍するのは、両党の投票者が現役から離れ、ワイドショーでの政治スキャンダルを社会的関心の中心に据える高齢層であることを考えると頷ける。また、両党が強くコミットした、いわゆる「アイデンティティ・ポリティクス」(ジェンダーや人種、LBGTQの権利擁護や反差別)や「反安保法制」での団結、「国民連合政府」構想の焼き増しの「野党共闘」への熱狂は、投票者が「団塊の世代」を中心とした高齢層であることを考えると、「昭和のアクティビズム」「保革対決」のリバイバルとも言える。
このような「高齢票」への傾倒は両党にとって将来的なジリ貧を示している。計算上、投票に新規参入する世代で爆発的な「リベラルブーム」が起きない限り、投票者は自然減少していくことが明瞭である。両党にとっては明確な「余命」を突きつけられている状況である。必然的に現役世代の票を求めて、自民党や国民民主党、日本維新の会のような保守系政党の票を奪う「保守化戦略」か、れいわ新選組の得票を奪う「反れいわ戦略」を取るしかなくなる。
すでに立憲民主党は野田佳彦氏が代表になり、保守化戦略をとっているがその成果が今回の調査結果であるから、それでも十分ではないということになる。参院選を見越して「消費減税」を立憲民主党、日本共産党は政策に掲げるが、これはれいわ新選組のお株を奪うための「反れいわ戦略」の一環とも取れる。
このような「余命宣告」が頭にチラつく両党に対して、れいわ新選組・国民民主党はどこまで対応すればいいのか。れいわ新選組にしてみれば、現状の政策に追加して高齢層および女性層へアピールできる政策を提案できれば立憲=共産党の票を大きく奪うことになるだろう。国民民主党としてみれば、現状の支持層が重視していない政策ブロックでリベラル寄りの立場をとれば立憲票を奪えるだろう。
とはいえ、国民民主党やれいわ新選組にしてみれば、現状を10年程度維持するための基盤固めのため、地方議員を中心とした地域組織建設に労力を割く方が重要であろう。立憲民主党や日本共産党といった「リベラル」、「革新」、あるいは「オールドレフト」は自然衰退する運命だからである。逆に言えば、よりトリッキーで非正攻法的な戦略をとらないといけないのは立憲民主党や日本共産党であり、それら政党は取り巻きの市民運動家たちとともに以後の10年はかなり「荒れた」政治戦略を取り続けるだろう。
公開日:2025年5月3日
原稿作成にChatGPTを用いました