「野党共闘」の研究

「市民連合」に関する基本的理解

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1 はじめに

   2024年の東京都知事選挙が迫る中、市民連合について興味関心を持つ方が増えてきました。これまでの調査をもとに私の認識を示したいと思います(これまでの調査について詳しくは、以下のレポート及び記事を参照ください)。

2   「市民連合」とは何か?

 「市民連合」は「安保法制の廃止と立憲主義の回復を求める市民連合」を正式名称とする東京都選挙管理委員会管轄の政治団体です(2016年政治団体として登録)。全国組織のように見えますが、実は東京中心の組織です。全国に「**市民連合」と名乗る組織はありますが、それらの連絡、調整、あるいは政策的リードを市民連合が行っているという印象です。以下で示す市民連合の規約ではこれら全国の組織との関係は明確ではありません。

    全国の市民連合は政党色が強い場合もあれば、(組織に属さない)ノンセクトの活動家が中心の場合もあります。前者については、すでに解散しましたが「関西市民連合」(安保法制の廃止と立憲主義の回復を求める関西市民連合)の会計責任者「湊隆介」は2023年の大阪市議会議員選挙で日本共産党から立候補し落選しています。また、代表者の「塩田潤」は「SEALDs関西」で活動していましたが、その前は日本共産党の指導を受ける日本民主青年同盟で名前が見られます

    市民連合の発足のきっかけは2015年の安保法制反対運動です。「2015年安保」の際、前面に出ていた「SEALDs」などの若者集団、「安保関連法に反対するママの会」などの母親集団が加入する団体と思われがちですが、それらの人々が一部残っているケースもありますが、市民連合の根幹は「総がかり行動」(戦争させない・9条壊すな!総がかり行動実行委員会)という団体です。

 ネットではよく「市民連合=共産党」と括られ批判されることも多いですが、実際は、


・「旧社会党を支えていた自治労(全日本自治団体労働組合:全国の地方公務員の労組の集まり)等の旧総評(日本労働組合総評議会)系労組+関係団体」

・「日本共産党の影響下と理解される全労連(全国労働組合総連合)という労働組合の集まり」、

    犬猿の仲である両者を取り持つ、

・「ノンセクトの活動家組織に属さない無所属であるがゆるやかにグループを形成うる)」


という3者の集合体だと理解できます。この集合体が「総がかり行動」というわけです。

 後に示すように現在、市民連合の資金のほとんどは「総がかり行動」による事実上の献金に寄っています。

 このような「旧社会党」+「日本共産党」、その間を埋める「ノンセクトの活動家」という図式ができたのは「2015年安保」ではなく2011年の「反原発デモ」の頃です。反原発活動家で「首都圏反原発連合」を率いた1人のミサオ・レッドウルフは以下のように述べています

 

そもそも、2012年に私が平和フォーラム(連合・総評系)のさようなら原発と、全労連や民医連が事務局をしていた共産党系の原発をなくす会、長年敵対していたこの2者の労組に声をかけ、脱原発の共闘を実現。くっつけるのは大変でしたが、この2者と反原連で数回大行動を主催。その後、憲法改正問題が言われるようになり、反原連除く2者が立ち上げたのが総がかり。反原連はそれとは別に複数団体に声をかけ、安倍政権No実行委を立ち上げ。脱原発では脱原発運動が土台を築いた野党共闘を引き続き主張。そうするうちに、市民連合が発足。事務局は当初、脱原発運動で反原連が繋いだ2者が担っていました。が、2者を繋いだ私達には声がけもありませんでしたが。ざっくりですが、こんな経緯です。

 

 「2011年反原発デモ」で登場した中年世代のノンセクト運動家たちに対して、現在市民連合に関与しているノンセクトの運動家たちは「1970年安保」前後に学生であった高齢な人たちであり、東京を中心に長年、コネクションを築き上げてきた人々です。

  「2011年反原発デモ」で参入してきた比較的新しい世代が構築した「共闘」関係をベテラン活動家が奪い、中年世代の活動家をパージ=放逐した、というのは言い過ぎですが、そのようなニュアンスで理解してもおかしくはないでしょう。

  「市民連合」の問題点

 「市民連合」については、組織としていくつかの問題点が指摘できます。

 1つは公的組織としての自己開示の不足です。市民連合は役員や組織構成を公にしておらず、政治団体であることも一般には明示していません。

    問い合わせに対しても不親切であり、私の場合はなぜか詰問され、文章での返答を行わず、電話に誘導するなど、不可解で恐怖を与える対応をしています(詳しくはレポート②)。

問い合わせメールを黙殺されウェブに質問を公開した後の返答。質問に答えず、素性を探りながら、マウントを取り電話口に誘導する不可解な行動

 2つ目はコンプライアンス、特に資金集めの方法です。市民連合は高利益率の政治資金パーティーを行い、チケットのほとんどを「総がかり行動」が購入しています(以下、表はレポート③より)。

    この構図は立憲民主党の江田憲司議員が国会で提示した通り「事実上の企業団体献金=寄付」です。市民連合の場合、企業団体からの寄付が禁止されていますから、このマネースキームは政治資金規正法の趣旨に背く脱法的なものだと断じられても仕方ありません(少なくとも江田の基準に従えば「違法」になる)。

野党が批判していた自民党のパーティーよりも高い利益率が並ぶ
2018年以降は全て「総がかり行動」がパー券を購入

  また、その開催が確認できたパーティーについても(日付が誤記であるなら。詳しくはレポート⑥参照)、YouTubeで無料配信された講演会であり、「対価性」という観点から見ても問題でしょう。(政治資金パーティーにはなんらかの対価が必要。以下の画像)。この事例はこの団体が政治資金規正法を脱法的に用いて、資金を集めたり移動させていたりすることが示唆されます(「対価性」の問題は日本共産党の田村智子が岸田総理を批判する文脈で提示している)。

中野晃一による講演は提示資料もない簡素な「情勢分析」

 3つ目は組織ガバナンスの問題です。運営に近い関係者への接触で、市民連合が政治団体であること、代表者や会計責任者がいること、規約があること、会員制であること、組織の内部で大きなお金が動いていることなど、内部でも周知されていないことが判明しています。

    東京都選挙管理委員会提出の規約は同委員会提示の作成例を流用したお粗末なものであり、実態を十分に反映したものではありませんでした。

左が市民連合の規約。右の東京都選挙管理委員会の作成例とほとんど同じ

 4つ目に独立性の問題です。各野党へ事実上の政策及び選挙調整を斡旋する市民連合においては高い独立性が一般的に求められると思われますが、規約にはその旨、触れられておらず、私の調査では社民党から直接的間接的な資金提供が明らかになっています。

    また、FLASHの取材に日本共産党は金銭の流入は否定していますが、市民連合の関係団体へ同党が資金援助していることは明瞭であり、間接的に市民連合の活動をサポートしていることは事実です。特定の政党から運営に関して直接的間接的支援を受けた場合、特定政党に有利なように市民連合の意思決定が偏ってしまう可能性やそのように受け取られかねない懸念が生じてしまでしょう(詳細はレポート③を参照)

「立憲民主党」や「国民民主党」、「れいわ新選組」からの資金の流れは確認できない

  「小田川流出メール」と元SEALDsへの金銭支援の疑い

 公開したレポートで興味を引いたものに2016年の発足当時、「総がかり行動」の(そして、当時の全労連議長の)小田川義和が関係者に送ったメールです(以下の図)。

 このメールは、2016年の発足時から上にあげた「政治資金パーティー」を脱法的に用いた資金集め・移動の方法が考案され、市民連合の原資にすることを宣言されていること、さらに表向きは寄付で成り立っている組織としているにも関わらず最初から特定団体の支援を前提としていること、それを「企業団体献金を批判する日本共産党と強い繋がりのある全労連」の当時のトップが提案していることなど、衝撃のものでした。

 また、この小田川の提案への政治学者山口二郎の返信から、当時のマネースキームが小田川と自治労の元幹部福山真劫によるものであることが示唆されていること、一連のマネースキームを政治学者山口二郎、中野晃一、教育学者で東大名誉教授の佐藤学(最初の会計責任者)が承認している、そもそもパーティー券を購入する側がパーティーを企画していること、つまり、政治資金パーティーという枠組みを利用して資金を移動させる意図のもと、パーティーが予定されたことが示されました。

   この野党が批判するマネースキームを自治労の元幹部と全労連のトップが提案し、日本を代表する学者たちがそれを良しとするというのは、彼らの政治的な見識と倫理観に対して大きな疑問を投げかけるものです。

 また、市民連合の一連の資金が元SEALDs及び後継団体のメンバーへの資金提供に使われていた疑いがある点も注意が必要です。関係者への取材と資料提供により、元SEALDs及び後継団体の若手活動家が一時期、市民連合事務局で活動していたことがわかっています。市民連合にはこれまで人件費の支出があるため、これら若手活動家への資金援助が行われていた可能性が示唆されます。

小田川が関係者に送ったメール。宛名は佐藤学(当時の会計責任者)、山口二郎、中野晃一
山口の返信。「福山」は「福山真劫」と思われる

小田川さん

 

フライヤーの印刷では、大変お世話になりました

今夜の立憲デモクラシー講座で配布し、宣伝できました。

 

26日のパーティの件

いつものことで変わり映えしませんが、私でよければ講演します

 

資金管理の方法については、小田川さん、福山さん等の判断に任せます

 

これから選挙に向けて、応援依頼が増えてくると思われます

活動資金の確保も重要だと思いますので、よろしくお願いします

5  結局何が問題なのか?

 市民連合の問題を政党の視点から考えてみます。

 立憲民主党としては(レポート⑤や週刊FLASHで示した自治労の問題とも関わるのですが)自民党の政治とカネを追求するあまり、あと先考えず政治資金の問題点を指摘する傾向があります。特に自党のメンバーや自党のメンバーを支援する団体も行なっているお金の集め方・移動のさせ方を「違法」と断ずることで、自らの首を自らで絞めている状況です。上に示した市民連合の政治資金の問題点は立憲民主党の江田憲司の示した基準によって浮き彫りにされるものであり、同党が「違法」と断じたスキームで資金集め・移動をする市民連合との関係に同党がどのように整合性を持たせるのか、難しい局面になっています。

 日本共産党としては先の立憲民主党と同様の問題点もありますが、何よりも「共闘」のウイングを広げてしまうことで己に課した厳格な「企業団体献金をもらわない」という基準が関係団体を含めた「野党共闘」全体で崩壊してしまう問題が大きいでしょう。企業で言えば、極めて高いコンプライアンスコードを採用していた会社が、関連会社で不祥事が起きたからといって「関連会社だから関係ない」とは言えないという状況です。孤立主義であれば守れていた純潔性は彼らの好む「本気の共闘」の中で汚されてしまうのです。

 両者の視点から市民連合を見てみると、野党共闘を推進する同団体が野党共闘の足を引っ張るという皮肉な状況を生み出していることが見えてきます。

すでにレポート⑤で分析しているように同団体のマネースキームは自治労内で共有されたものと一致しており、人脈的にも自治労コネクションからこのアイデアが流入したものと考えるのが自然です。自治労にしても市民連合にしても、極めて事務的な処理として一連のスキームを運用しています。役所や官僚の世界における、ある意味で「頭のいいやり方」として法の穴をついている印象があり、そして、意図的に組織的に公然と法の趣旨を骨抜きにするやり方は自民党の「政治とカネ」の問題とは別種の悪質性が感じられます。

これまで自治労における「政治とカネ」の問題を指摘し批判してきたのは日本共産党ですが、野党共闘によって自治労的なものへの批判的監視が効かなくなったということも言えるでしょう。野党共闘以来、日本共産党による自治労批判も鳴りを潜めています。ここでも皮肉な構図が見えてきます。

 これらのことは野党共闘に関与する団体、個人のガバナンス能力やコンプライアンス意識への疑問を投げかけます。政権奪取を目指すものとしてはやはり不足している点が多く、政府批判を行う野党としてもその整合性が取れておらず、「(組織として、組織人として)大丈夫だろうか?」と心配になってしまいます。

 「2011年反原発デモ」以降、社会運動や政治運動のイメージ刷新に多くの人が労力を割いてきましたが(首都圏反原発連合は会計等を公開するなど、透明化を進めていました)、この10年で一般社会がガバナンス強化とコンプライアンス意識向上に取り組む中で社会運動や政治運動が取り残されていった感が否めません。市民連合と関係する野党については、今一度、自らの足元を見つめ、組織改革に取り組む必要があるでしょう。

補足 「市民」と「ノンセクトの活動家」

 「2015年安保」の際は、従来の活動家ではない「市民」がデモに参加したというは本当かと聞かれることがあります。日本共産党もよく「市民との共闘」と言い、従来の活動家との連携とは異なることをアピールします。

市民連合は「2015年安保」がきっかけで生まれましたがその組織的な座組は当時の国会前でもほぼ同じと言えるでしょう。

これまでの調査で得られた「2015年安保」についてのざっくりした私の理解は「旧社会党」+「日本共産党」+「ベテランのノンセクト活動家」がステージを用意し、そこに「若者」、「母親」、「学者」等、メディア受けする「顔」をそのステージに上げたというものです。この人々の中には組織に属する活動家も紛れていた一方で、一定数、それまで運動に関わってこなかった「市民」がいたことは事実でしょう。

しかし、その多くは運動の場から離れ、残った活動家は「新しい世代のノンセクトの活動家」となっていると言えるでしょう。そもそも「普通の市民」が組織に属さないまま、長期間一定の頻度で社会運動、政治運動に参加するなら、当然、そこでノウハウを得て、独特の雰囲気を見に纏い、人的ネットワークを構築することになるわけで、そうなるともはや「普通の市民」ではない何か、言うなれば「ノンセクトの活動家」(特定の党派組織に属さないがグループくらいは形成する無所属の活動家)になってしまうわけです。

この視点はとても重要です。SNSで毎日、政治的な投稿を行う人、定期的にデモなどに参加する人、大学に属する研究者なのに政治集会に頻繁に出入りし特定政治団体の応援ばかりする人・・・それら特定の党派組織に属さないけど、社会運動に濃厚にコミットする人々を「ノンセクトの活動家」と括ってしまうと理解がしやすくなります。

「ノンセクトの活動家」はノンセクト=無所属であるが故に一枚岩ではなく、(各党派が組織的に行うように)互いに運動内で覇権を争う、少なくとも牽制しあうことがあります。この中で、個人であるがゆえに大きなものに依って立つ方が安定性して活動できますから、属さないけど共闘する=友好関係を結ぶ「推しの政治組織」を探す傾向が出てくるかもしれません。

このような視点で日本共産党のいう「市民との共闘」を理解すると、「(日本共産党に属していない、あるいは特定の組織の命令で動いているわけではないノンセクトでかつ、日本共産党を推してくれる)市民(運動活動家)との共闘」というわけです。

公開日:2024年6月8

6月9日一部追記