これまでコロナ禍の大学をめぐり注目されていた「中退(退学)・休学の増加」が本当にあったのかを検証してきました。これまでの知見をまとめながら、「コロナ禍の退学・休学」の実態及び背景に迫っていきます。
2 調査の知見
文科省からの情報提供によって、同省が2020-2022年度に行った全国の大学を対象にした調査結果(対象は2019-2022年度の中退・休学)が明らかになりました。その結果についてはA-n-I/33でまとめていますが結論としては、
・ 「大学・短大」においてオンライン授業開始の2020年度に「中退が増えた」という事実はない。
・2021年度を底にして2022年度、対面授業に戻るにつれ中退・休学は底打ちないしは、上昇した可能性がある。
ということになります。
さらにA-n-I/34では文科省「学校基本調査」に記載された「その年の5月1日現在の休学者数」をもとに、コロナ禍以降を含めた大学・短大の1990年以降の休学率長期トレンドを調査しました。
結果は、
・1990年以降、大学・短大ともに休学率は⻑期上昇トレンドである。
・大学休学率はコロナ直後の 2020年に大きな下落を記録し、その後、上昇している。
・休学率の下落と上昇についてはコロナ禍での就職スケジュールの遅れと一時的な経済危機=就職難があったと考えられる。つまり、「就職留年」が休学率を一時的に下げ、そして上昇された可能性がある。
ということになります。
A-n-I/35では私が行った独自アンケートから以下の知見が得られました。
・2020年度については他の年と比較して、想定される退学・休学理由である「進路関係」、「授業関係」、「心理人間関係」、「コロナ関係」、そしてその他の項目と幅広く低下した。
・その背景としては、コロナ禍による国際的な移動の停止による留学減少、一時的な経済不況、国内での移動制限などによる進路変更の鈍化、フルオンラインで学校への帰属意識や授業への関与度が下がり教学上のミスマッチや学校由来の心理人間トラブルが顕著にならなかったこと、感染状況が限定的でワクチン普及前でコロナ関係のトラブルが起きにくかったこと、移動制限や受診控えで病気や怪我が減ったことなどが考えられる。
・退学・休学理由についての自由記述をもとにした追加調査では、退学・休学理由についてコロナ禍への言及回答が2割にも満たず、さらに「コロナ禍のオンライン授業のため退学・休学に追い詰められた可哀想な大学生」というケースに絞れば5%を超える程度と少数になっている。
3 知見の総合
これらの知見をまとめてみます。
まず、2020年、学生を取り巻く環境は一気に変化しました。就活における選考スケジュールの遅延、海外への渡航禁止、一時的な経済不況、国内での移動制限、フルオンラインの学校生活、移動制限や病院への受診控え・・・。これらはそれぞれ就職留年、留学、進路変更、大学・短大の教育への不適応や人間関係のトラブル、怪我や病気を抑制し、それら由来の退学や休学を減らすことになったと考えられます。
2021年以降、日常が戻るにつれ(あるいは非日常が延長するにつれ)、抑制されていた退学・休学要因が復活し(あるいは新たに惹起し)、退学や休学が年度初期の5月段階、あるいは年度全体を通じて増えていく、あるいは復活していく傾向が生まれたというわけです。
メディアや学生団体が喧伝したような「コロナ禍のオンライン授業のため退学・休学に追い詰められた可哀想な大学生」も全体で言えば僅かであったのです。
端的に言えば、コロナ禍の非日常の中で日常的にあった退学や休学の要因が一時的になくなり(今回は想定できなかった要因だけが残り)、大学生の退学・休学が減ったということでしょう。それは「コロナ禍の非日常」が学生の退学や休学を促す決定的な要因にならなかったことと合わせて「コロナ禍の大学」を考える上で重要な知見となります。
4 おわりに
まとめてしまうと、あまりにもあっけない内容です。
オンライン授業だから退学する学生、キャンパスに行けないから休学する学生によってコロナ禍、大学の退学・休学が急増する・・・そのようなことは起きなかったし、あったとしても極めて稀だった。むしろ、コロナ禍の非日常が通常の退学・休学要因を排除して、それらを減らしてしまったという、ある意味で皮肉な結末だったわけです。
2024年2月23日 公開
本ウェブサイト掲載の内容は蒲生諒太の個人研究成果です。所属機関等の公式見解ではございません。