「個人で情勢分析ができるのではないか」というアイデアの検証を行うため、サイズ感が手頃であり、縁のあった京都選挙区について2025年参院選挙の情勢分析を行いました。公選法の規定があるため、投票日まで非公開のレポートを作成し、内容をぼかしながら結果を提示します。レポートに関しては関係者に限り投票日前に共有可能です。
はじめに
筆者はこれまで、学生運動や市民運動の研究を通じて、野党共闘や野党系候補者の選挙戦術に関心を持ってきた。その延長として、2024年の東京都知事選挙に際しては、大規模なウェブアンケート調査を実施し、複数回にわたってその結果を公表してきた。
2024年東京都知事選挙後の政治・社会運動への意識調査:「野党共闘」の研究(10)
無党派層の政治・社会運動への意識調査:「野党共闘」の研究(11)
こうした取り組みの背景には、新聞・テレビ・ネットメディアといった既存の報道だけでは政治情勢を十分に把握できないという実感と共に、近年のウェブアンケートサービスの勃興に際して、比較的安価に大量のデータを取得することが可能となり、大手メディアではなく個人であってもスキルがあれば政治情勢について実証的調査が行えるのではないか、というアイデアがあった。今回は統計の勉強も兼ねて、このアイデアを検証してみようと思い立った。
そこで2025年の参議院選挙においても、都知事選挙と同様のアンケート調査を行うこととしたが、今回は選挙後の事後的分析ではなく、選挙戦の進行にあわせて調査を実施する「オンゴーイング型」の実証的試みとした。つまり、一個人が政治情勢をリアルタイムで把握・分析し、一定の妥当性を持った知見を導くことが、現在の情報環境においてどこまで可能なのかを探る試みである。ただし、以下に提示するように情勢に関する内容の公表は法的制限があるため、「オンゴーイング」としつつも、当該箇所は選挙後に公開し、その時点での分析の精度を事後に検討したい。
対象の選挙区についてであるが、そもそもアンケートが手軽になったとはいえ、質問項目が増えれば費用はかさむ。また、候補者数が極端に少ない選挙区では、構図が単純化され分析の自由度も制限される。さらにこれまでの野党共闘の研究の知見も生かせる方向が望ましいなどの条件も出てくる。
これら観点から、調査対象として選んだのが京都選挙区である。主要政党の多くが候補者を擁立しつつも、東京のように1政党が複数候補を擁立したり、候補者が乱立したりする構図ではないため、設問数を絞った現実的な設計が可能である。また、筆者自身が京都の大学に在籍・勤務していた経験があり、政治的な事情にもある程度通じている。地域の政治関係者とのつながりもあることから、考察を深めやすい点も利点といえる。
以上のような経緯で、公示直前ではあるが、京都選挙区に関するアンケート調査を実施することにした。公職選挙法の規定を踏まえ、以下に提示するQ1の内容(情勢に関する分析)は告示前の7月2日に概要を提示し、詳細を記載した本レポートについては投票後に公開することとする。他方で候補者陣営、メディア関係者、大学関係者(研究者) からの要請があれば、筆者の判断で投票日前に本レポートを共有することも可能としたい(連絡はウェブサイトのお問い合わせよりお願いしたい)。
その後は、公選法にかからない範囲での分析をしながら、選挙手法や政策面での議論を深める提案を現在進行形で行っていくことを目指す。
本調査では、東京都知事選挙の際にも利用したウェブアンケートサービス「Freeasy」を用いてデータ収集を行った。私の知る限り、Freeasyは業界でも最安値に近い価格帯でサービスを提供しており、個人での調査実施に適した環境が整っている。
なお、今回の調査費用は1000件回収見込みで税込22,000円であり、個人が行う調査としては手頃なものになっている。なお、本費用はすべて筆者個人の支出によるもので、大学等の研究費は使用していない。
アンケートは2024年6月30日18時から開始し、1000件の有効回答の取得を目標とした。回収にあたっては、年代(20代~70代以上:20-90歳まで)および性別(男性・女性)の計12セルに区分し、各セルにおいて50件以上の回答が得られるよう割付を設定した(末尾の表参照)。
この割付は、京都府の人口比率(世代・性別)を参考にしながらも、統計処理の安定性を重視し、各セルの最小値を50件とすることを優先した。とくに70代以上については、80代・90代の回答も想定し、他のセルの2倍以上の回収目標を設定したが、実際の回答者はほとんどが70代であった。
7月1日夜の時点で、70代以上の女性を除くすべてのセルで目標件数に達した。しかし、70代以上女性の回収はモニター母集団の構成上、進行が著しく遅かったため、7月2日に予定していた情勢公開に間に合わせるため、この時点までに回収されたデータをもとに分析を行うこととした。そのため、「70代以上女性」について回収できたのは71件であった。
回答データの整合性を確保するため、各候補者への投票意向を尋ねた設問において、すべての候補者に「投票したい」と回答したケースを不誠実回答とみなし、スクリーニングを実施した。その結果、70代以上の女性で1件のみ該当があり、当該1件を除外した940件を分析対象とした。
また、全体の情勢判断にあたっては、サンプル構成と京都府の実人口構成の乖離を補正するため、ウェイトバック法を用いた。基準としては、令和2年(2020年)10月の国勢調査データをもとに、令和6年(2024年)10月現在の京都府における世代・性別別の人口構成比を推定し、それに基づいてウェイト値を算出。実測値に対して補正を加えることで、より実態に近い分析を試みた。
質問内容は以下のようになっている。
Q1 2025年7月の参院選挙において、以下の立候補予定者について、あなたはどの程度、投票したいか、投票したくないか、教えてください
(投票したい/やや投票したい/どちらとも言えない /あまり投票したくない/投票したくない)
西田昌司(自民・現職)/山本和嘉子(立憲・新人)/新実彰平(維新・新人)/倉林明子(共産・現職)/酒井常雄(国民・新人)/西郷南海子(れいわ・新人)/谷口青人(参政・新人)/二之湯真士(無所属・新人)/木村嘉孝(NHK・新人)
Q2 以下の項目について、あなた自身はどの程度当てはまるか、当てはまらないか、教えてください
(当てはまる/やや当てはまる/どちらとも言えない/あまり当てはまらない/当てはまらない)
投票では景気・物価対策を重視する/投票では社会保障政策を重視する/投票では少子化対策を重視する/投票では外交や安全保障を重視する/投票では政治とカネの問題を重視する/投票ではいわゆる「外国人問題」・オーバーツーリズム対策を重視する/投票では選択的夫婦別への賛否を重視する/投票では北陸新幹線延伸問題を重視する/投票先を考える上でSNS情報を重視する/私は普段、選挙には必ずいく
結果
以下の内容は公選法に触れない範囲で結果をぼかして書く。
・ウェイトバック処理の結果、ある新人候補が先行し、続いて2人の有力候補が続き、そのすぐ後を他の候補が横並びの中位グループを形成、1名の候補が支持の伸び悩み。新興政党の候補者も中位グループに入っており、情勢次第では当選圏内に入る可能性はある・・・という構図が浮かび上がる。
・基本的には、知名度順の並びになっているため、選挙期間を通じ候補者やその政策が浸透すると情勢は変動する可能性が高い。
・また、明確に投票希望を示した割合は各候補高くなく、「どちらとも言えない」=態度未定がかなりある。
・クラスター分析の結果から、中道保守候補、革新候補はそれぞれ互いに近似候補間で競い合いを演じていることが明確になっている(曖昧層ではイデオロギー別とは一概には言えない動きも)。一方でトップ候補は独自性が強く、支持が剥落した場合、その票がどこに流れるかは不透明(中道保守寄りとは考えられる)。
詳細なレポートは選挙後に公開する。ただし、候補者陣営、メディア関係者、大学関係者(研究者)からの要請があれば、筆者の判断で投票日前に本レポートを共有する意向はある(連絡はウェブサイトのお問い合わせより)。
なお、本調査はオンラインアンケートサービスを用いて実施されており、サンプルは人口構成に基づいてウェイト補正されているが、そもそもネット調査に特有のバイアスが存在する可能性がある。たとえば、政治意識の高い層、ネットを駆使できるだけのリテラシーを持った層が過剰に代表されている可能性が否定できない。そのため、本結果は有権者全体の正確な縮図ではない点は注意したい。
なお、雑感であるが、新興政党のうち、保守系で陰謀論と親和性が高いと言われる党については京都の状況を鑑み、東京選挙区での議席獲得の可能性があるのではないかと個人的には考えていることをここでに書き残しておきたい。
公開日:2025年7月2日
原稿作成にChatGPTを用いました