1.
ギィィィィィッ。
長らく使われていなかった扉が、軋みをあげながら開く。
「ハアッ、ハァッ……」
僅かに出来た隙間に息を切らせて飛び込む少女。彼女の名はトリア。
開いた扉にもたれかかるように体重をかけ、入り口を閉ざした。
彼女が何故このようなことになっているか、それはまた別の機会に語られることもあるだろう。
トリアは周囲を見回した。1階は大広間となっているようだ。
壁の数箇所のくぼみに魔法的な光が灯っている。
にもかかわらず、人の気配はなく、静まり返っている。
「おじゃましまぁす……」
今更な事を呟きつつ、トリアは慎重に歩を進める。
床をよく見ると、焦げ跡や刃物を打ち付けたような跡、不自然に盛り上がった場所などがあった。
まるでそこで誰かしらが超常的な力を使って戦ったような……。
「なんなの、これ……」
戦争のごとき惨状から目をそらすと、刃の部分に更に刃を生やしたような、奇怪な剣を見つけた。
トリアは恐る恐る剣を拾い上げるが、何も起こらない。
刀身には呪術めいた紋様が刻まれているが、年若き少女には意味のわからないものであった。
ゴトッ、と上方から音がする。
トリアが上を向くと、回転しながら落ちてくる一冊の本。
それは鈍い打撃音とともに、彼女の額にぶつかった。
そのまま後ろに倒れ、しりもちを付く。
「いったたぁ~……、何よ、もう……」
彼女は今しがたぶつかった本を手に取り、本の題名を確認する。
【剣と魔法の正しい使い方:現代語版】
トリアは惹かれるように本の頁を開いていく……。
2.
「『……かくして、調停解決の手段として、剣と魔法を使った決闘が行われるようになった。その歴史は古く』……うーん、長そうだから飛ばそうっと」
トリアはそこらに転がっている椅子を起こして座り、本を捲っていった。
「『魔法も剣技も然したることはない。望めば使えるのだ』、ねぇ……」
世界は火・水・風・地・剣の5つの属性に溢れ、その力を引き出すことで常ならざる力を引き出すことが出来るのだ、と記されていた。
「『爆撃(イラプション)……。火の力を爆発させ、敵にダメージを与える魔法』……」
その発現方法も一通りではなく、爆発する火の玉を投げたり、敵の近くで爆発を起こしたり、イフリータル・バーン!!といいながらナニしてもいいのである。
「といっても魔法は魔法でしょ? そんな簡単に『ばくげきぃ~』とかできるわけが」
トリアが適当に手を振りながら呟くと、ボン! と振ってた掌から爆炎が出た。
「……え?」
自分の掌を見つめる。特に焦げたり火傷してたりはしないが、そこに熱量があったことを示すかのように温かさが残っている。
「……こんなの、誰でもポンポン撃てたらそれこそとんでもないじゃない!!」
文句を言いながらトリアはページを繰る。
『ただし何事も万能とはいかない。どこぞの万能人でもない限り』
『より多く属性を引き出そうとすれば使える技術のリソースは減り、同じ威力の攻撃でもより致命的になるだろう』
『より多彩な魔法や剣技を使いこなそうとすれば、一度に引き出せる属性は減ってしまい、本末転倒になるであろう』
3.
『戦は水物である。状況が変化したらそれに対応できなければそこに待つのは敗北の二文字』
『属性を引き出すのは手足を動かすのと同じ。神経の反射があれば、同じ時間内により多くの行動が取れるであろう』
『また知恵があれば対応の幅は広まるであろう』
『状況に応じた属性を引き出す、状況に応じた技を使う、状況に応じて相手の行動を待ち受ける』
『戦は水物である。迷えば死。己の対応方法を練り、信じ、動くことである』
「…相手が斬りかかってくるなら防御して、傷を負ったら回復して……」
かくして、トリアは戦う力を身につけた。
だが彼女は知らなかった。
ここが、朽ちてなお戦場となる、星見の塔トーナメントの会場であることを!!