名前:ミレン
性別:女
ポジション:街の子供
性能:HP42/知3/技7
スキル:
飢えたる者の守り/1/9/1
小さな三叉槍/7/0/1
しかえしのパイ/21/0/9 封印防御無視
プラン:
1:相手が何も構えていなければ「飢えたる者の守り」。
2:相手の残りウェイトが10以上なら「しかえしのパイ」。
3:相手の攻撃力が9以下なら「飢えたる者の守り」。
4:相手の防御力が1以上なら「しかえしのパイ」。
5:相手の防御力が0なら「小さな三叉槍」。
6:さもなくば「飢えたる者の守り」。
設定:
大昔にいた、ヘレンという名前の戦闘狂のエルフの女性。
偶然にも保存されていた彼女の精神が、紆余曲折を経て一人の女性の娘として現代にリロードされたもの。
「いつの間に産んだ?!」「誰の子?!」と母親は知人に総ツッコミ食らっていたが、父親と実年齢は不明。たぶん見かけよりずっと幼い。
外見は5、6歳児相当。金髪に緑の瞳の女の子。街外れの廃墟の塔で、母親と二人暮らしをしている。
ミニなヘレン、ということで通称はミレン。
【ある日のミレンの日記】
あるひ おかあさんが あたまにパイをくっつけて かえってきた。
「いやぁ、やられたやられた」って おかあさんはわらってた。わらってたけど ぼろぼろだった。
このひと じぶんになにかおこっても おきらくというか どうでもよさそうというか そんなところがあるので しんぱい。
なのでここは むすめのわたしが ひとはだぬぐことにする。
おかあさんのかわりに 「かいとう へる・らいおっと」に ふくしゅー するの。
そうして街を駆け回っていたらばったり怪盗と出くわしたので、とりあえずパイを投げたいミレンだった。
【スキルについて】
飢えたる者の守り:お鍋を兜に、鍋のフタを盾にする。持ち出したのがバレるとお母さんに怒られる。
小さな三叉槍:フォークである。人に刺したのがバレるとお母さんに怒られる。
しかえしのパイ:お手製のパイを相手めがけて思いっきりぶん投げる。食べ物を粗末にすると、お母さんに凄く怒られる。
オーナー :ルート
ツイッターID:ruto43
母の仇 Written by N.M
「あなたが、かいとう へる・らいおっとね! おかーさんのかたき!」
その日、怪盗が出会ったのは、鍋と蓋で武装した金髪緑眼の少女だった。
さすがに本気か冗談かわからない少女相手に全力叩きこむのも大人気ないと思い、
とりあえず鍋を抑えて視界をふさぐ。仮面はいやらしい笑みを浮かべている。
「うあっ! かいとうめ! ひきょうだぞ!」
「あ、の、なぁ。俺ぁ喧嘩売りすぎて誰が恨み買ったかわかんねーの」
「おかーさんにパイぶつけたのあなたでしょ」
「あんなの俺にとっちゃ挨拶代わりだしいちいち覚えてねーよ。お前のおかんは誰だよ」
「そふぃあ」
「あぁ、『螺旋階段』の?」
「そう」
「確かにぶつけたことがあるな…ん?」
彼女の右手に目をやると、パイを持っている。仇討ちとしてぶつけるつもりだったのだろうか。
「そのパイで俺を討とうって? 面白い」
どうやら本気らしい。ならばこちらも本気を出さざるをえない。
抑えていた鍋から手を離し、マントの下からパイを取り出す。
仮面から表情が消える。
数歩下がってパイを構える。
「いいか、1,2の3だ。いいな?」
「わかった」
「それ、1,2の」
「「さん!」」」
ミレンの投げたパイが怪盗の面に叩きつけられると同時に、
少女の顔面に、ありえないほどの速度で掬い上げるようにパイを叩きつけ、そのまま放り投げた。
少女の向かう先は螺旋階段。
***
「やれやれだぜ」
懐から布を取り出し、顔や仮面についたパイを拭う。
「まったく、俺も人気者になったもんだな!」
幕間:母娘の団欒 Written By ルート
その日、ミレンの母ことソフィアは外で洗濯物を干していた。
天気は快晴、日差しも風も程好く、これは絶好の洗濯日和…と思っていたら、ひゅるるるる、と空から娘が降ってきた。
「おっとと」
干していたシーツを広げて落ちてくる娘ことミレンを受け止める。
ぼふんっ、とシーツの上で跳ねてから、ミレンはひょこりとパイまみれの顔を上げた。
「……おかあさん」
「おかえり、ヘレン」
「ただいま」
「お鍋とフォーク、勝手に持ち出したでしょ。ご飯作れなくて困るんだからね」
「…ごめんなさい」
「それから、台所を使った後は、ちゃんと片付けなさい。いいね?」
「はぁい」
「ん、分かったならよろしい」
こくん、と頷くミレンの頭を、ソフィアはわしゃわしゃと撫でる。
もっと怒られると思っていたミレンはきょとんとする。
「…おこらないの?かってに かいとう に あいにいったことは」
「私の事で怒ってくれたんでしょ?じゃあ、怒れないよ」
むぎゅ、とソフィアに抱きしめられて、優しく頭を撫でられる。
こうされるとミレンは何もできずに、ぽわぽわと胸の奥があったかくなるのだった。
※
「ふー、極楽極楽」
「ごくらくー」
その後、パイで汚れた身体を洗いに、ミレンとソフィアはヘレン教会でお風呂を借りていた。
教会も怪盗の被害で慌しかったり、金髪の女の子がふっ飛んできたりもしたが、まだパイの欠片がくっついたミレンを見るとすぐに浴場へ通してもらえた。
母娘で洗いっこしてから、湯船でゆっくりと温まる。
「でもヘレン、危ないからもう怪盗に会いにいっちゃだめだよ?」
「えー」
「えーじゃないの。というかまだ勝負挑むつもりだったの」
呆れ顔でミレンを膝に乗せるソフィアを、ミレンはじっと見る。
「つぎは おまんじゅうなげつけようと おもったのに」
「どこを見て言ってるのどこを」
「……じゃあまた パイ?」
「だからどこを見て言ってるの」
娘にはもう少し食べ物の大切さを知ってもらおうと、その後暫しお説教モードになるソフィアであった。
幕間:願うは一時の狂宴を Written by ルート
「やっぱり あのかめん だとおもうの」
「ひっぺがす?」
「というより ぶっこわしてみたい?」
「素顔は気になるよね、まぁ」
『螺旋階段』で晩御飯の仕度をしながら、ミレンとソフィアは作戦会議を行う。
結局リベンジを諦めなかったミレンと、結局心配でついていくことにしたソフィア。やるならできる限りの事をしておこう、ということで開かれた緊急会議だった。
「いかりのこぶしに たびびととがくしゃはたおれ」
「灼熱の虎も、捕縛の騎士も裁かれて」
「きしのまぼろしは てんごくへ。けんぶのなかで けんしはたおれ」
「復讐の妄念は届かずに。完全超悪に、物語の少女は敗れ」
「くろきさむらいの すがおはあばかれ。ゆめくいのいとは やみにのまれ」
「飢えた仮面が喰いつくす。彫像の想いは届かない」
「たんていのすいりはとだえて。かのかいとうは なにものなるや」
※
街で集めた怪盗の行動の記録。その中でも特筆に値する戦闘記録を繋ぎあわせ、解析する。
怪盗の能力を。彼が操る仮面の技を。勝利のために必要なものを。
「…つるぎがいる。もっとはやく、もっとふかく、あいてにとどく つるぎが」
骨董屋の品から装備を選びつつ、ミレンは呟く。
「難しい注文をつけるねぇ……それじゃ、これはどう?」
娘の訴えに応え、ソフィアは自らの胸に手を当てる。心臓の位置に精霊の光が集まる。
迸る純白の光はやがて細く収束し、一振りの剣の形を取る。
「……えーでるわいす」
「劣化コピーだけどね。オーバースペックなオリジナルより使いやすいかも」
柄や鞘、刀身に至るまで純白のその剣を、ソフィアはミレンに手渡す。
幼子の体躯には大きい剣を、彼女は自分の手足のように軽々と振りまわす。
それも当前か。その剣は遠い昔に、彼女自身が作ったものなのだから。
「…うん。これなら、いけそう」
「それなら良かった。でも、無茶はだめだからね」
「わかってる。これは、あそびだもの」
復讐は失敗した。だから、それはもう終わったこと。
ここからは、ミレン個人の趣味嗜好に基づく行動だ。
たたかいたい。
つよくて きみょうで ゆかいで おかしな あの かいとうと。
いつかおわる このばかさわぎに まくをひくまえに もうすこし。
じゅんすいに このたたかいを たのしんでみたい。
戦いを求めて少女は笑う。母はそんな娘を優しく抱きしめる。
戦うことを、純粋に楽しめる。そんな久しく無い出来事に、未練の少女は笑うのだった。
名前:ミレンの果てのソフィア
性別:女
ポジション:街の母娘
性能:HP70/知5/技5
スキル:
精霊マント/0/75/10
乱舞・烈/5/0/1
紅い糸/20/0/10 封印防御無視
未練の果て/25/0/8 炎熱
乱舞・流/1/6/1
プラン:
1:相手が何も構えていなければ「乱舞・流」。
2:相手の残りウェイトが11以上なら「紅い糸」。
3:相手の残りウェイトが9以上なら「未練の果て」。
4:相手が防御無視、回復でなく、攻撃力が自分の現在HP以上なら「精霊マント」。
5:相手の防御力が1以上なら「紅い糸」。
6:相手の防御力が0なら「乱舞・烈」。
7:さもなくば「乱舞・流」。
設定:
リリオットの街外れで骨董屋『螺旋階段』を営む女性と、その娘。
金髪に翠の瞳を持つ似たもの母娘。お互いのことは世界でベスト3に入るくらいに好き。
怪盗に放り投げられた娘のミレンは、リベンジのために母親を引っ張り出してきた。
子供のケンカに親が出るって大人げないよね、と思いつつ 、ついていっちゃう過保護なソフィアだった。
基本的にソフィアは武器だけ貸して戦いはミレンに任せる。危なくなったら飛び出して代わりにダメージを受ける。
HP70とはソフィアのHPである。ソフィアが倒れたらミレンは母を引っ張ってとてとて逃げ帰る。
ソフィアは平和になったこの街に訪れた、怪盗の騒動を楽しんでいる。
それはまるで、終わってしまった物語の続きが訪れたようで。
ミレンは母の気持ちに気付いている。
母が嬉しいならそれはいいことだし、自分は戦う口実があるので嬉しい。
つまるところ、この母娘は怪盗が嫌いではなかった。
けれど、祭りはいつか終わるのだ。
それなら祭りの幕引きは、自分達の手で、終わらせてみたい。
【スキルについて】
乱 舞・流:ナイフによる手数重視の攻撃。隙ができた瞬間に連続して切りつける。
乱舞・烈:ナイフによる手数重視の攻撃。身軽なステップで翻弄しつつ、防御が甘いところを切る。
精霊マント:マントに身を包んだソフィアがミレンをかばう。
紅い糸:敵意持つ者の戦闘能力を拘束する糸。
未練の果て:使い手の過去を追憶させる剣、エーデルワイスのレプリカを精霊から生み出す。追憶にかける時間が長ければ長いほど、剣の威力は増す。
オーナー:ルート
母娘の絆 Written by N.M
「で、一人ひとりじゃかなわないってんで親子でか?」
怪盗の目の前には金髪翠眼の親子。ミレンとソフィア。
「つぎは たおす」
ミレンはナイフを構える。食事用のではない、一般的に戦闘に用いられる短剣だ。
「ガキに刃物持たせて戦わすとかどういう教育だよ」
「甘く見ない方がいいかもしれませんよ? それに、ミレンでは受け切れそうになかったらかばいますし」
「ほー? 大した親子愛だな? 砕くけど」
ミレンに向かって針を投げる。
「おそい」
ナイフで針を弾き落とす。
「少しはやるようだな?」
今度はソフィアに向かって針を投げる。
刃が空を切る音。そして、弾かれる針。
「このぐらい、よゆう」
「ならば、その余裕、いつまで持つかな!?」
針の連打。
しかし、ミレンは一つ一つ確実にはじき返す。
子供の姿とは言え、あの戦乙女ヘレンそのものである。
闘いを楽しむ者にとって、このぐらいどうということはないのだ。
結局、痺れを切らしたのは怪盗の方だった。
「茶番は終わりだ」
拳を掲げ、力を集約する。
「させません」
ソフィアがミレンを庇うように立ちはだかる。
「安心しろ、親子ともどもぶっ飛ばしてやるよ!」
怪盗の拳が振り下ろされるその刹那、ミレンが死角から飛び出した。
その手には白く輝く剣、エーデルワイス。そのレプリカ。
レプリカとはいえ、怪盗を斬るに十分な威力となっていた。
不意の一閃に、怪盗はなすすべもなく、斬り捨てられた。
You Defeated the Enemy!!
エンディング:ミレン Written by ルート
悪役の最後というのは、存外あっけないものも多い。
時間をかけて相手の性能を予測し、技を見切り、策を巡らせても、決着がつくのは一瞬だったりする。
ミレンと怪盗の戦いもそう。2度戦い、そしてそのどちらも一撃で勝負はついた。
違ったのは、勝者と敗者が入れ替わった事くらいだ。
「………♪」
「満足そうだね、ヘレン」
『螺旋階段』に戻ってきて、ホットミルクで一息つくミレンに、ソフィアはそう声をかける。
そう、それでもミレンは満足だった。たっぷりと遊び終えた後の子供そのものの様子で、実に機嫌良くニコニコと笑って頷く。
分かりやすい子だなぁ、とソフィアは苦笑しつつも、自分用の紅茶を用意して、椅子に座る。
そして、ことん、テーブルの上に一枚の仮面を置く。怪盗が被っていた、あの奇妙な仮面を。
倒れた怪盗は死なない程度に手当てして公騎士団に引き渡したのだが、この仮面だけは持ってきていたのだ。
「で、問題はこの仮面なんだけど」
「どうでもいい。こわしちゃおう?」
「いや、ちょっと待って。どうもマズい代物っぽいし、ちょっと調べさせて」
ソフィアは骨董屋だ。自然、こういう奇妙な物品への嗅覚は研ぎ澄まされる。
彼女は再び、自らの内より一振りの剣を取り出す。今度はレプリカではない、オリジナルのエーデルワイスを。
「……せいっ」
十分に追憶を行い、眩く純白に輝く刃を、仮面へと降り下ろす。
ぱきん、と軽い音を立てて、仮面は真っ二つに砕かれ……そして、その記憶が。
仮面に秘められた悪意が。
仮面を作り出したものの思いが。
仮面を構成する情報の奔流が、ソフィアの魂に逆流した。
※
「誰もが憎い。人々が憎い。世界が憎い。全てが憎い。」
遠いどこかで、誰かが呟いていた。
それは物語だ。悪を成す物語の一端だ。
「怒れ。憎め。苦しめ。悲しめ」
怪盗の仮面がどうやって生まれ、そして何を成してきたのか。その記憶をソフィアは獲得した。
膨大な他者の記憶を入力しても、彼女の自我が崩壊しないのは、以前にも経験があったからか。
英雄というものの正体はどいつもこいつもこんなものかと、魔王を倒した英雄の記憶の中で、ソフィアは苦笑する。
誰よりも怒りと、憎しみと、苦しみと、悲しみに満ちた記憶の中で。
「その心が起こす影響一つ一つは小さいだろう」
それはそうだろう。怪盗のように絶大なエフェクトを及ぼせる程の悪意は、誰にでも抱けるものじゃない。
「だが、十なら? 百なら? 千なら? 万なら?」
けれど、悪意は伝播する。怪盗からその被害者へ、被害者からその知人へ、そして噂を聞いた無関係な人々にまで……
それがもし、怪盗の狙い通りだったとしたら?
「巨悪は準備がかかる。故に潰される」
だから、何度潰されてもいいように、怪盗が念入りにこの仮面に悪意を篭めていたとしたら?
例え仮面が砕かれても、伝播した悪意は消えないのだから。
「人の心が澱み、荒み、限界に達した時」
増殖し、複製され、拡大していく悪意が、行き場を無くしたとき、どうなるのか。
きっと、その時……生まれるのだ。
「全ては自壊する」
新しい、悪意の仮面が。
※
「きっと、仮面はひとつじゃない。怪盗も一人じゃない」
「へぇ」
「仮面の怪盗が悪を成し、それによって生まれた人々の悪意が、新しい仮面を作る」
「そりゃ面白い」
「その仮面を被った者は、新しい怪盗になる。その怪盗が悪を成せば、また悪意が生まれ、仮面が生まれる。そうして、無限に増殖していく」
「なるほどね。けどそんな情報は、オレの中には無かったハズだぜ?」
「あなたの情報から推測した、ただの仮説だからね」
「そうかい。しかしそうなると、俺もまたオリジナルの仮面とは違うって可能性もあるんじゃないか?」
「そうかもね。でもそれはどうでもいいことだよ」
「へぇ?」
「本物と偽物の仮面を区別することはできない。仮面の持つ機能はほぼ完全に同一だし、何よりも、一つ一つの仮面を生み出した悪意は、紛れも無く本物だから」
「………」
「仮面を生みだすに足る、いずれ劣らぬ強烈な悪意が、一つ一つの仮面に篭められている。その意味で、全ての仮面はオリジナルだとも言える。
全ての仮面は誕生の経緯が違い、過去も現在も未来も異なり、正体すら違うかもしれないし、最後は異なる末路を迎える。
その全てが、偽物じゃない、本物の記憶だよ。それを見分けるなんてできない」
「……なるほどねぇ。よく考えたもんだが、そいつを証明する方法はここにはねぇ」
「そうだね。それでいいと思うよ」
「あん?」
「異なる仮面があって、異なる物語があるなら、私とヘレンの戦いも、物語の一つなんだから。
例え的外れでも、矛盾していても、全てが本物なら、何も問題はないじゃない」
「前向きだねぇ」
「後ろ向きに生きてると、娘に情けない顔を見せちゃうからね。格好いい背中を見せないと」
「美しい親子愛だこって。ご高説賜ったところで、俺はそろそろ消えるぜ」
「うん。もう二度と出てくるな」
「どうだかねぇ」
強く、強く、自分の意識を集中させる。自分はソフィアだと認識する。
癇に障る笑い声を最後に、怪盗の思念は掻き消えた。
※
「……おかあさん だいじょうぶ?」
意識が戻ると、ソフィアの顔をミレンが心配そうに覗き込んでいた。
大丈夫、と軽く頭を撫でてやってから、ソフィアは自分が見聞きし考えたことを娘に語る。
「そんな訳で、私の予想が正しいなら、この街にはまだ仮面の怪盗が他にもいるわけで…」
「じゃあ さがさないと いけないね。すぐいこう いますぐ いこう?」
「……張り切ってるねヘレン。そんなに怪盗と戦うの楽しいんだ」
「うん」
すてきな笑顔だった。
まぁ、一度勝ててるし、多分また同じ対処法で勝てるかな…と、再びエーデルワイスのレプリカを作りながらソフィアは考える。
「まぁ、放置しておくわけにもいかないしね。私から離れて勝手に戦いに行っちゃだめだよ、ヘレン」
「しんぱいしょう」
「お母さんだもの」
剣を手に、いそいそと外に向かうミレンの後を、ソフィアは追う。
地は悪意に満ち、今もどこかで巨悪が蠢いているかもしれない、そんな時でも、空は変わらず青い。
この空の下で、今もどこかにいるはずの友人達を思う。
それから視線を戻し、金髪を煌めかせ、ぱたぱたと駆け出す愛娘を見つめる。
「……やっぱり、無理だよねぇ」
悪意で世界を滅するなんて、どうやったって絵空事だ。
一片の良心なくして、怪盗の仮面が完成しなかったように。人は弱くて臆病だから、どうしたって悪に染まりきれやしない。
そう思えたからこそ、ソフィアは笑って、ミレンの後を追う。
※
この先の物語に、きっと世界の命運なんてかかってない。
いつかどこかで語られるかもしれないし、結局語られずじまいかもしれない。
けれど、一組の母娘の物語は、この先もどこかで続いている。それはきっと、まだない話。
おしまい。