名前:司書
性別:なし
ポジション:
性能:
HP114/知1/技4
スキル:
・長い長い詠唱/76/0/22 防御無視
プラン:
長い長い詠唱する。
設定:
ー
書庫に向かって悪戦苦闘したのち、ようやっと役人様から言い付けられていたものを見つけた。私同様に埃まみれである。
半フィクションの児童書だと聞く。
ひょっこりと地下階段から身体を押し上げて出てくると本を棚に立て掛けた。
「拝借」
途端に誰かそれを受け取った。
阿呆である。あまりにむごい。
人を唐突に無謀な戦いに追い込んで、どうしようというのか。
それでただでさえ惨めな私の給金をますます減らそうという心づもりなのだ。
あんまりだ。
それでわんわん泣きながら詠唱をはじめた。
オーナー :eika
戦闘結果(By N.M)
そもそもマリアは何故特定の書物が盗まれたと知れたのか。膨大な蔵書のただ一つが盗られた、と。
その晩、マリアは夜遅くまで作業をしていた。休憩がてら本でも読もうと、宿直の司書の一人――名前は忘れた――に取ってくるよう頼んでいた。
だが戻ってくるのが遅いので調べたところ、この有様であった。
戦闘は至極単調なものだった。司書が詠唱を開始したのを見て発動前に矢を雨あられと浴びせたのだ。
マリアは本の方に気を取られていたため司書の発見が半日ほど遅れたがそれはご愛嬌。かくして本は盗まれたのだ。
名前:司書
性別:なし
ポジション:リリオット図書館
性能:
HP114/知1(-3 +3)/技4
スキル:
・相応にくどくどした詠唱/52/0/18 防御無視 凍結
プラン:
相応にくどくどした詠唱する。
設定:
──
えー、誰もが理由の債務者であります。
ゆえ、己が債務を果たす為に「成すべし」と闊歩を強いられ、看病むなしく給金は死ぬのです。
葬儀には精神の借金取りがやってきた。
そして自分の懐には債務者の呼び名すら持ち合わせが無い事を親切に教わったのだ。
ああ私は己を含めた誰もがあえて覚えようとする人物ではなかった。
便宜上なにがしかを名乗りはするが、どうせは空気を吐き出すのに等しい。
ふと灯り、ふと消えゆく。
くすんくすん。
「どうせ明日にはクビだ!」
私は再び埃の深海へと潜っていった。
無名の役であれ私も海賊船リリオット図書館の一員なのである。
海底の隠れ家には上司の財宝が眠っているのを密かに知っているのだぞ。
無断で禁書棚を拐えば通常ただでは済むまいが、最愛の人質は既に天国にいる。
今度わんわんと泣くのは誰かを悪徳利用者に教えてやるのだ。
私の──お借りした──力でねじ伏せ、
なにくわぬ顔でそいつと出勤。元通りの所へと本を立て掛け、オヤと見つめる上司にこれ見よがしとやるのだ。
「ええ私が取り返したんです。些細な仕事でしたよ。私の名に興味がおありですね? 構いませんよ。私の名は……!」
前々々々~♪(リリオットで流行った歌の鼻歌)
──
千夜むこう。金属に命を宿す魔導師が居た。
魔導師は劇場型犯罪集団の一員で、
f予算から怪物を創造しリリオットを襲わせた。
怪物はある少女剣士によって退治され、残骸はセブンハウスによって回収された。
しかし既に財貨の一部は各組織によって密かに回収されていた。
それは単純に富としての価値もあったが、セブンハウス、ソウルスミス、ヘレン教は
精霊生物技術に目をつけ、財貨に残留した金属術の魔法陣を応用しようと解析・研究を行っていた。
信仰の成す業か、人体実験の実施など研究手段を厭わなかったヘレン教が技術の完成に最も近い所に居た。これはセブンハウスとソウルスミスにとって都合の悪い話だった。
大国グラウフラルとの関係が悪化しつつある今、弱体化したセブンハウスはヘレン教に頼らざるを得なくなるだろう。それはリリオットのパワーバランス変化を意味する。
とすれば結構な賄賂を支払ってセブンハウスと癒着していたソウルスミスはヘレン教とも握手しなくてはならないばかりか、
もしヘレン教が他所に精霊労働力を売り始めれば完全に出遅れ、その商品価値はだだ下がりとなってしまうだろう。
2組織は早速策を講じ、例の犯罪集団残党による襲撃を演出して公益法人清掃美化機構の清掃員をヘレン教の研究施設へと送り込んだ。
抜かりなく事は運び、技術は奪われ、施設は燃えた。再研究の手がかりになりそうなものも残らなかった。
そしてそれこそがヘレン教の狙いだった。
噂を流して2組織を煽り、ダミーの施設を破壊させる。そこに置かれた研究成果もそれなりに整ってはいるが、巧妙にでたらめが練り込まれており、肝心なところで大して役にたたないものばかりになっている。
それでも最低限の説得力は持たせているから2組織は暫く精霊生物技術が自分たちだけのものであると安心するだろう。
ヘレン教には精霊生物技術を活かすもっと「崇高な」目的があった。それに比べて目先のリリオット乗っ取りやら何やらはとるに足らぬものだった。少しの間だけ誰にも自分達の邪魔をさせない。それだけが大事だった。
──
夕暮れ、ダミー施設に1体の子供の姿をした精霊生物が眠っていた。昨日まで慌ただしかった人々が急にいなくなり、1人遊びに飽きて横たわっている所だった。
それは精霊生物の試作品にして「とるに足らん」と見放された失敗作だった。
服を着た見た目は人間に見えるが 、臓器や骨の形は皮膚越しでもおかしいと解る。頭が悪すぎ、論理的思考が不得意で、共感能力が無く、頻繁に無意識の状態になり、いろいろ妙な癖を抱えていた。労働資源からはほど遠そうだ。
それは本来ならばセブンハウス、ソウルスミスに拐われるはずだった。
もし拐われていたら、臆病者の彼らは精霊生物を人として扱ったろうか。怪しいものだ。
良くて一生モルモット。実際には間も無く解剖といった所だろう。だが、どちらにもならなかった。
襲撃のごたごたの最中、白い粗末なローブを着た男によってそれは連れ出されていた。施設の焼け跡にはそれの衣服と得体知れずの肉塊が残っていたから、ヘレン教もまだそれが生きているとは思いもよらなかったろう。
ローブの男はそれに金属術を操った魔導師と同じ名前を与えた。
姿も性格もあまりにかけ離れている。それには相応しくない名だったが、愛を渇望するところはだけは同じと言えた。
それには数年間の生活と教育が与えられ、やがて孤児院へと預けられた。
数年後、それは孤児院を出てあれこれと働き始めた。
何処でも失敗続きだったが、行き詰まると何者かが手引きするように不思議と次の道が開けた。
こうして職場を転々とし、一先ずはリリオット図書館へ収まった。
誰もが理由の債務者である。
自分の理由を探すには、この町の物語を収集するこの職場こそがうってつけかもしれない。
それはそう思った。
オーナー:eika
エンディング:By eika
間合いを取るために逃げたり追ったり。
(鬼ごっこのように!)
あまりに道具頼りの戦いだった。
さりとて相応にくどくどとした詠唱はようやくセーターのように結ばれて、それで戦いは充分だった。苦痛の禁術が泥棒を呪った。相応に私は傷にまみれていた。
さあ泥棒が倒れている。彼が私の名札となるのだ。
私はそいつに歩み寄っていった。勝利の傲慢と、不慮の逆転の幻と両方が私の両足を揺さぶった。
「えい、この泥棒め」
もっと強い言葉が妥当であろう。
「この泥棒野郎め!」
それで奴が起き上がろうものなら逃げ出す心積もりですらあったが、彼はくたくたと顔をこちらへと向けただけだった。
「へん。起き上がれないか。世間を騒がせやがって。思い知ったならよく覚えておくが良い。私はリリオット図書館一期待を受けた司書にして、新聞見出しの英雄。ヴィジャ──」
途端に奴の瞳が疲れを忘れたように驚きで輝いた。まじまじと見つめられているのを感じる。
「──えっと、何処かで?」
──
(ああ私に名は無い!)
私は物語の主役にはなれない。
舞台裏の暗がりから、誰かにスポットライトがあたっているのをただ見つめるだけだった。
誰もが物語の主役でありながら、
物語たらしめられる主役は一冊限りである。
それは誰かが不誠実である結果ではない。
誰もが誠実であり、より誠実なエキストラに名が与えられるのだ。
だからこそ私は名を欲した。
毛布に対するように世界にうずまる役を欲し、仕事や友人や給金を欲し、実を言うと愛を欲した。
だから奴の言葉にも耳を傾けた。
奴は「ヴィジャ」という私の名を、その役名を、私の名の理由を知っているらしいのだった。
私は子供のようにせがんだ。
理由を逃さないように奴を思い切りふんじばって、いくらでも耳を近づけてみせた。
奴は生きるのを諦めた老人が思い出を語るように、あるいは私の名が奴に取り付けられていた錠の鍵であったかのように、懐かしむ瞳をもって答えてみせた。
町に来たとき外から見えた時計塔の話。大仕事と最果ての話。魂なき犠牲者と血の香りの話。白髪のサムライの話。舞台端農家の寓話。舞台端の人々の話。余生を捨て舞台裏を設立した話。狂気じみた独善的救済のため、真なる観測のため、お伽噺の死のため、儚くも幸福な望みを叶えるため、ヘレン教の陰謀のため、小さな愛のための劇場版犯罪集団の話。大誤算の話。それにより多くの死者が出た話。〝首謀者〟が消えた──自殺した。殺された。エルフに連れてかれた。匿われている。町を出た。最初から居なかったなどと言われている──話。本泥棒の役割の話。私に名を与えたのが誰であったかという話。そして私が何者かという話──。
「しかし、お前は私の知るヴィジャではない」
男はパタンと本を閉じるように言い放った。
「そうだ。私の見たヴィジャはお前のような間抜けとはまるで違った。お前は我々の物語の続きであっても友人ではない。お前は私に昔の親友達の幻影を見せる1本のマッチ棒ではあったが、私はそれ以上にお前を知らない。それでおしまいだ。さあ、これで話は全てお前にやってしまったぞ。あとは好きに名乗るが良い!」
私はこの名の主によって生まれ、この名の友人によって名を与えられたのだという。
私はてっきり自分を「空白の闇に放り出された子供」だと考えていたのに。
実際には私は千夜むこうにあった物語の続きなのだという。
今まで考えもしない事だった。
街が生きているとは!
街の物語は互いに影響を与え合い、育み合い、食い合い、死に、生まれる。
私に暴力を働くケチな泥棒でしかなかった者が、実は私以上に私を知る、我が親の親友だという。
私は奴をしっかり捕まえていたロープをほどきにかかった。固く結ばれたロープが「おい、こいつは犯罪者なんだぞ」と強く身を固めて抵抗したが無視した。
「逃げないとでも?」
「どうぞ、何処へでも」
私は先程奴の手からもぎ取った本を再び奴の手に押し込んだ。
奴は体をまだ満足に動かせない様子で本をぺたぺたと抱き寄せた。
「解らん。何故だ?」
何故かと問われれば、第一に私の病的な脅迫観念のせいと言えた。
誰もが理由の負債をもってこの世に生まれ
る。だが私の失敗作の脳は私が大負債者であると強く信じており、人一倍不合理に「かくあらねばならぬ」のだった。
それを踏まえて、奴は私の同族であった。
舞台隅の暗がりから飛び出し、今まさに役名を果たさんと、過去の債務を果たさんと舞台に躍り出た奴は、疑いようもなくもう1人の私なのであった。
そして奴は思い出の対価に私の理由を支払い、その取引は公明正大かつ敬意あるものと言えた。ここに今まさに債務を果す理由があった。本を渡さねばなるまい。奴を逃がしてやらねばなるまい。
私は答えた。
「ありがとう。出会ってくれて、話してくれて。貴方の語る物語は私にとって給金より、上司よりも価値ある時間だった。──私は今晩リリオットと決別し、出ていくことにするよ。貴方も好きにすると良い。けれどもその代わりに、私が出てゆく事だけは決して邪魔しないと約束して欲しい」
「最果てに誓って」
私はその場を歩き去った。
途中、振り替えると空白に放り出されたようにただ道だけが落ちていた。
私はリリオットでの数少ない知り合い──酒場とか炭鉱とかにいる──に挨拶しに向かいながら、その先のページを胸に描いていた。
リリオットを出たらどうしようか!
きっと遠くの街へ行こう。
気に入らなければもっと遠くの街へ行こう。
そこで農家にでもなって、農業仲間を見つけて、オニオンかアイスプラントを育てよう。
たとえ街がきな臭くなったとしても、私達だけは微笑み合う農家で居続ければ良い。
千夜むこう。街が私達を忘れ去る時でさえ、私達は「実は自分達こそ主役であった」と知っているのだから。
本当は私は──私達は──そんな物語をこそ、一番楽しんでいたのかもしれない。
債務を降ろした心で、そう思った。