ジェイムズ・フェニモア・クーパー『モヒカン族の最後』

読書さとう

18世紀半ばの北米大陸での「フレンチアンドインディアン戦争」の時代の物語です。ちょうど欧州では「七年戦争」があり、英仏は世界中で戦争をしていました。北米でも互いに植民地をかけ、インディアンをそれぞれ味方につけて戦いました。インドでもそうでしたが、現地の土候軍を味方につけたフランス軍が最終的にはイギリスに敗北してインドを失いました、北米でも同じように、フランスは破れ、北米の植民地を失います(のちに米国が独立するときに、米国側だったフランスは英国から北米に少しの島を得るが。このミクロン島はいまのいまもフランスの領土である。またナポレオンの時代、フランスはミシシッピ以西をスペインから譲り受け、それをさらに米国に売却する)。

この時代に、イギリス軍の将軍の娘たちと、イギリス軍に協力するモヒカン族の酋長と、敵であるフランス軍およびそれに協力するヒューロン族との戦いを描いています。北米の大自然の中で描かれているドラマであり、すぐに読み終えないとならないような緊迫感があるのですが、よくよく考えると、なんでこのインディアンたちは、互いに争わなければならないのだろうかなんて思ってしまいます。

イギリスの勝利ののちに、イギリスはインディアン掃討戦をやりだします。世界最初といわれる生物細菌兵器が使われたのは、1763年に英軍がオタワ族に対して天然痘菌をつけた毛布を贈ったことだと言われています(ポンティアック戦争)。また米国が独立してからの米国大統領というのは、初代ワシントンをはじめ、みなインディアン討伐戦の英雄たちです。

19世紀前半にインディアン諸部族の大連邦を構想するテクムセというショーニー族の戦士が出て、カナダからメキシコ湾まで遊説してインディアン大連邦はできあがる寸前までいきますが、また米国白人たちは、これを不意に襲撃壊滅させます(これが大統領になったジャクソンです)。テクムセは米英戦争において、英軍に身を投じて(彼は英国に利用されるのは百も承知のことだったろう。ただ米国が憎かったのだ)、見事に米国軍をやぶります。だが、また英国は破れ、最後はテクムセは英軍将校の軍服を捨て、インディアン戦士の盛装で戦いに臨み、そして敵弾に倒れます

(だが彼の遺体は発見されなかった。まさしく将門や義経のようにいつか甦みがえるのだ)。

こんなテクムセではない、白人に利用される悲しいインディアンたちの物語が、この「モヒカン族の最後」です。昔のクリントン大統領の愛読書だということですから、読んでみるとそのインディアン感が分かるかもしれません。

それにしても、この物語では、やたらにインディアンが相手の頭の皮を剥いでしまうのだけれど、これって本当なのかな。頭の皮を剥ぐというのは、白人が最初にやりだしたというのが常識だとばかり思っていたものでしたが。

ハヤカワ文庫で、犬飼和雄の訳です。(1997.09.23)