スタニスワフ・レム『ソラリスの陽のもとに』

読書さとう

これはハヤカワ文庫で、私は1992年に読んでいたと思います。飯田規和の訳でした。 星そのものに意思があると考えられる惑星ソラリスが舞台です。そこに至った宇宙船では異常なことが起きています。各自乗組員には、そこにいるはずのない各自の妻や恋人が存在しています。そんなことは物理的におきるはずがないのだから、それらの存在は各自の心を読んだこのソラリスが作り出したもののようです。 これは私たちが見る夢の世界でも、誰もが自在にできるか否かは別にしてもか同じようなことができているかと思います、だがこのソラリスでは本人以外の人間も現実に目にすることができてしまうのです。これはソラリス自身が高度な脳をもった存在であり、各乗組員たちの意識を汲み上げて実際にそれを物質化してしまっているのです。人間たちのひとりひとりを調査しているかのようです。ソラリスは海で囲まれた惑星であり、ソラリス上に浮んでいる宇宙船には、いつもこのソラリスの海が見えています。この海こそが意思をもっているようなのです。 しかしもうひとつ考えられるのは、これは遠い宇宙空間に浮んだ狭いロケットの中が舞台でもあるわけです。その中での各自乗組員が見る妄想こそがこのことの真実なのかもしれません。ひとりの乗組員は狂って自殺してしまっています。 問題は、狭い空間の中での各自の妄想であることと、いやソラリスの海こそが高度な生命体だということが、このSF上の宇宙空間では同じことかもしれないと私は思ってしまうところです。この著者はポーランドの作家であり、この作品がそのロシア語版からの翻訳です。まだまだソ連邦が健在のときのSF作品です。そうしたことから思ったのは、社会主義国家こそがひとつの強烈な意思であり、そのなかに生きる各個人が見ていることはただの妄想でもあり、また国家が作り出してしまった現実でもあったのかもしれないということもまた考えてしまいました。