AR支援ネットワーク通信(60) 「アクション・リサーチを支える人々(2)」
「アクション・リサーチを支える人々」の第2回は、広島県三次市の取り組みを紹介します。地域の仲間同志がメンターとして、お互いのリサーチを支えあっているすばらしい実践です。
「仲間がメンターとして、支えあうアクション・リサーチ」 三次市立八次中学校 教諭 角濱慶司
三次市でアクション・リサーチによる授業改善に取り組み始めてから今年で8年目になります。小規模で少しずつながら,今日まで実践を続けることができ,また昨年度には,「アクション・リサーチの会 三次」を立ち上げ,新たな展開での取組みを始めることができ,うれしく思っています。一方で,10月のAR全国大会に参加させていただき,各地の組織的で先進的な実践の中身を学ぶにつけ,これからに向けての多くの課題があることがわかりました。私たちは,「仲間がメンターとして支えあうAR」と題して発表 をしましたが,ここで改めて私たちのこれまでの歩みを振り返ってみたいと思います。
1 「支えあい」を強く意識することの大切さ
これまでの取組みの中で,「支えあい」を最も強く意識した時期は,はじめてARに取組み始めた頃だと思っています。市教委が主催する「三次市基礎学力定着プ ロジェクト英語部会」でARによる授業改善を研修の柱として動き出した頃のことです。当時は,市町村合併の前で,市内の中学校数は5校。佐野先生にご指導いただく機会は得たものの,だれもがARははじめてでした。月に1回行われる部会にそれぞれがレポートを持ち寄り,報告し,意見を交流しました。ARの内 容としては不十分なものでした。ただ,毎月報告を繰り返すことで,それぞれの授業改善に対して遠慮なく意見を述べ合い,だれかが課題を抱えて悩んでいれば,次の会にそのヒントを提供しようと,自分の授業で仲間の課題を意識した実践をしました。明確な「メンター」の存在はありませんでしたが,仲間の課題を 意識し,その課題を共有することで自分のリサーチを高めていこうとしました。互いに課題を意識しあい,支えあうことの大切さに気付いたことは今に生きています。
2 ARを継続することの難しさ
市町村合併により市内の中学校数が5校か ら12校に増えてしばらくは,ARの取組みの難しさに直面した時期でした。学校数の関係で,部会の定期的な開催が難しくない,互いに顔を合わせて,意見を述べ合うことが少なくなりました。「授業を改善したい」「生徒の実態を変えていきたい」という気持ちがあっても,悩みや課題,情報を共有することが少ない 中では,どうしても孤立感がありました。ARの理論と実践についての研修会や授業研究会は継続していましたが,リサーチの継続が難しく,ARの理念が選考し,実践がともなわない時期がしばらく続きました。
3 組織的な取組みを可能にするための具体的な動き
平 成21年1月に,自主編成グループとして「アクション・リサーチの会三次」を発足させました。ARの熱を取り戻したいと思いながらなかなか具体的な動きができない中,「メンター」を決めて組織として実践をするようにと佐野 先生からアドバイスをいただいたことが契機となりました。「自分一人では実践を継続することが難しい。」「くじけてしまう。」「仲間からアドバイスをもらったら元気になる。」「仲間の実践を聞くことでやる気が起き,継続しようとする意欲が保てる。」などの声が聞かれるようになりました。リサーチの成功例 はまだまだ少ないのですが,定期的に集まる,絵遠慮なく意見を言い合う,悩みや課題を相互に意識するなど,「支えあい」を強く意識できていた時期と同じような充実感を味わうことができるようになりました。
メンターとメンティーの関係をより明確にした実践をするために,現在のところ,次のような取組みを行っています。
○ビデオによる授業研究
・実際の授業の様子を見て,意見を出し合う。悩みを出し合う。授業改善の方向性をみんなで考える。
○メンターとメンティーのペアを決める。
○ペアは,メールや電話,同一校の場合は日々の情報交換を通して,相談しながらARを進めていく。
・会で話し合った方向性を元に,日々の実践を行う。
・メンティーは,フィールドノートをメンターに送る。
・メンターは,フィールドノートをもとにアドバイスを行う。
・メンターは,授業を見る機会を作り,授業観察を通してのアドバイスも行う。
○ARの会の際に,進捗状況や現在の様子,悩みを自分のペア以外のメンバーに相談する。
○以上のサイクルを継続する。
メンターとして仲間とともに授業改善に取り組むことは,これまでにないことであり,メンターにとっては,とても大きな刺激になっています。
メンタリングの明確な視点をもつことや方法を工夫することなど,メンターの力量アップはこれからの大きな課題ですが,次のようなことを意識して取り組んでいます。
○メンティーがやる気を継続できるよう,前向きにアドバイスすること。
○一人で取り組むARでは,ものの見方が狭くなりがちであるので,違う角度から授業改善のアドバイスができるよう意識すること。
○目指す生徒の姿を意識しながら,できるだけ具体的にアドバイスすること。
○少しでも改善があった場合には,ともに喜べる存在であること。
○実際に授業を見る機会をもつようにすること。
○メンター自身の自らの課題をもってARを行っていること。
まだ,1年に満たない取組みですが,やはり月1回集まって他のメンバーといっしょに考えることで,より幅広い支援ができるようになりました。また,メンターが実際に授業を見る機会を持つことで,具体的な支援ができやすくなりました。また授業のビデオ記録を撮り協 議することで,生徒の実態や変化がわかりやすくなったということを感じています。
メンターの受けながらARを行う環境を整えたことは,今後に生きてくるものと思っています。
10月のAR大会でも発表させていただきましたが,メンティーの感想と,ARの取組みの一部を最後に紹介させていただきます。
始めたばかりの取り組みですが,年度の終わりには報告集をまとめることで,成果を検証していきたいと思います。
【メンティーの感想】
アクション・リサーチを通して一番変化したことは,私の考え方や気持ちだと思います。このクラスの生徒は英語が苦手なので会話なんてできないと考えていました。しかし,アドバイスをいただきながら少しずつ授業のやり方を変えてみると,生徒はやればできるということがわかりました。生徒の力はこんなもんだと低 く決めつけていた自分を発見することができました。
また,メンターとのやり取りやアクション・リサーチの会は,私に取って悩みを相談したり,アドバイスをいただいたりして,一人ではないんだという安心感を得ました。そして,日々の授業を変えていくことの喜びや楽しみを感じさせてくれる源となっています。
【三次市の取り組みの概要】
(配信日 2010/12/01)