前回の通信では、導入段階のムード作りに用いるwarm-up や、ARに関る活動例を紹介しました。ただ、私自身が欠席をしてしまったので、「ARとは何か?」という部分の導入ができませんでした。そこで今回は、そこに焦点を当てた活動を中心に説明します。
1.自己紹介
前回、受講者が取り組んだGetting to know each other の質問に答える形で、私が英語で自己紹介をしました。英語嫌いの高校生だったこと、不真面目な大学生だったが、英語劇をやることで英語に興味を持ち始めたこと、その理由は「英語はコミュニケーションの手段だ」と、はじめて認識したことなどをユーモアを交えて話しました。研修の責任者が、自分と英語やARとの接点を語ることで、受講者との相互理解を深めることが大切です。
2. アクション・リサーチの教育論(講義)
今、話題になっている「学力世界一のフィンランド教育」の特徴を話し、底流にある「社会構成主義」の発想を説明しました。特に、実践的な教員養成が重視され、教育実習が500時間に及び、ポートフォリオやアクション・リサーチを用いた「授業力」や「授業改善力」の育成が体系的に行われている。教員養成システムが貧弱な日本では、現職でのARの実践は不可欠だ。ARを、単なる技術論としてではなく、教師の認識の問題と捕らえて欲しい強く要望しました。
3. アクション・リサーチの実践の紹介(ビデオの視聴)
『アクション・リサーチのすすめ』(pp.149-189)にある宇喜多教諭のリサーチの概略を説明し、事前調査でのOral Interview Test の様子と、事後調査のそれをビデオで見て、生徒のperformance をいくつかの視点(話し方の流暢さ、語数、発音、態度の変化など)で比較することで、ARの効果を話し合いました。ARへの認識が深まった。
4. Q and A Time
ARについて疑問を自由に発言してもらいました。質問のいくつかを紹介します。
Q:「やる気を伸ばす」という問題は調査できるか?
A: できる。まず、「やる気がない」と判断した、生徒の具体的な行動を列挙する。たとえば、音読の声が小さい、宿題をやってこない、質問に答えないなど。この中で、一番、効果の現れやすい行動を選び、それを生む理由を探り、解消する手段を講じて働きかけ、効果が見えたら、次の問題行動に対応するという方法をとる。
Q: リサーチ・クエスチョン(RQ)と仮説の違いが分からない。
A: RQは、解決したい問題を疑問文の形にしたもので、通常、クラスの実状を出発点とし、どのように変って欲しいかを到達目標に設定して、そこに至る大まかなルートを指す。登山に例えれば、現在位置と山頂を明示したのち、どのルートから登ったら目標に到達できそうかという見通しを疑問文にしたものである。一方、仮説は、その道筋を占めす具体的な対策で、登山に例えれば、ポイントごとのベース・キャンプに当たる。それをひとつずつクリアすることで、一歩ずつ頂上に近づくことになる。
Q:「リスニングの力を伸ばす」ことをテーマにしたいが、授業では単語も文法もリィーデングもしなければならない。リスニングだけに時間を掛けるわけにはいかない。
A: あるテーマを選んでも、他の授業活動も必要である。だから、ある意味では、リサーチするということは、テーマの解決に関る時間を可能な限り確保し、その使い方を工夫することだとも言える。逆に、何を省略して時間を生み出すかが問われることになる。
5. グループ・ディスカッション
「氷山モデル」(資料参照 )でプロセスを説明した後、グループに分かれて、「コミュニケーション活動では元気のよいクラスだが、期末テスト、特に、書くことの点数が他のクラスより低い。他のクラスなみの点数を取らせるにはどうすればよいか」というモデル課題の事前調査、RQ, 仮説の設定を話し合わせた。その結果を「アクション・リサーチによる授業改善(チャート)」(資料参照 )に記入させ、グループの代表が全体に発表した。その後、次の視点から自分たちの計画を見直すように注意を促した。
*事前調査では、期末テストの内容と成績の分布を再度調査し、どの問題で躓いているのか確認する。たとえば、テストの「書くテスト」はどのようなものなのか?
*期末テストに対応できる授業、時間配分をしているか。「書く」時間の確保は?
*RQでは、「正確さ」を重視しながら、「楽しさ」も確保するように配慮しているか?
*仮説は実現しやすいものから、発展的なものへと繋がっているか。
*仮説が実現すればRQの疑問文に答えることができるか。
6. 「ミニ・アクション・リサーチ」についての相互助言
各自が、1週間か2週間で解決が可能だと思われるごく平易な問題を選び、グループに報告し、それに対して互いに解決の方策をアドバイスした。
7. まとめ
アクション・リサーチは難しいものではなく、日頃の授業の工夫で取り組めるのだということを理解し、和気藹々とした雰囲気の中で、活発な意見の交換が行われるようになった。「今日からアクション・リサーチの開始だ」という気分が盛り上がった。
(配信日 2008/11/01)