3.7. 校内研修3日目:歌とチャンツの指導

小学校外国語活動通信(7) 「校内研修3回目:歌とチャンツの指導」 横浜国立大学名誉教授 佐野正之

■振り返り

1. 学習指導要領について

ペアで理解の確認をしましょう。資料やポートフォリオを見ても構いません。

*指導要領では英語活動の目標を3点挙げていましたが、それはなんですか?

*これは従来の総合的学習の中の英語活動と全く違うものですか?

*では、中学校で行っている英語教育を小学校からはじめなさいということですか?

(話しあいの後で、次のように解説して確認する。)

解説:学習指導要領で示してある外国語活動の目標は、言語・文化の体験的理解、コミュニケーションに積極的な態度の育成、英語の音声や表現に慣れ親しむということでした。この目標は、従来の英語活動の発想を生かして、児童の気付きや体験を核にしたコミュニケーション活動を行うことで、中学校や高校に繋がる英語教育の「素地」を育成することを狙ったものだといえるでしょう。ですから、学習が中心の英語授業ではありません。

2.挨拶について

*「挨拶」を教室で実践してみることが宿題となっていましたが、どうでしたか?

上手く行った点、困った点、質問や意見やアドバイスなどをペアで話しあいましょう。

*授業の中での「挨拶」の一番大切な役割はなんですか?(話し合い後)

解説:英語で挨拶を交わす意義は、互いに相手の様子に関心を示すことで「さあ、これから仲良く英語の勉強を始めましょう」と伝えることで、教室に友好的なムードを作ることです。「英語のスイッチ・オン!」の合図とも言えます。どんな工夫が可能ですか?

*それでは、私が先生役で挨拶をします。まず、私との挨拶の後、動き回ってペアを変え、握手やハイタッチや肩たたきなど動作も工夫し、5人と挨拶を交わしなさい。(実施後に)今、どんな感じですか。クラスのムードに変化はありましたか。

*では、歌とチャンツの勉強を始めます。最初にペアでレクチャーを読みましょう。

■佐野先生のミニ・レクチャー:言葉のリズムは文化の香り

前回は初対面の挨拶の中に、日本語と英語の文化の差が隠れていると話しました。今日のテーマは歌とチャンツです。両方ともムードを盛り上げ、発音練習になるばかりでなく、文化を体験させることにもなります。たとえば言語のリズムです。言語にはそれぞれ独特のリズムがあります。では、英語のリズム練習をしましょう。太字の文字は強く、長く発音し、その他は弱く早く後の強い音につなげて発音します。さあ、一緒に発音しましょう。

A B C D

An A a B a C a D

An A and a B and a C and a D

An A and then a B and then a C and then a D

理想的に言うと、最初の列の発音に必要な時間と、最後の列の発音にかかる時間は大体同じくなるとされています。ですから、最初の列のA, B, C, Dではそれぞれの間に少し間をおいて発音すると同時に、2列目以降の、a, and a, and then a は、その間の間に収まるように、一つの音のようにつなげて軽く発音するのがコツです。だから、最後の列では、「アンゼンア」を全部まとめて軽く、早く発音しなければなりません。それでは、ペアで繰り返し練習してください。では、どなたかにやってもらいましょう。Any volunteers? (2-3人にやってもらった後で)Excellent! すばらしいですね。英語らしく発音するコツは、この強弱のリズムを大切にすることです。ところで、この英語のリズムは何をするときのリズムに似ていますか?ダンス?もそうですね。他に?ラップ?それもそうです。実は乗馬のリズムだといわれています。パカパカと走る馬のリズムです。

それでは、最後の列を日本語式に発音したらどうなるでしょうか。「あんえー、あんどぜんあびー、あんどぜんあしー、あんどぜんあでー」となります。最後の列の発音には最初の列の発音の3倍はかかるでしょう。一つ一つの音が同じ長さ、同じ強さで発音されるからです。それに大切な音では、音調を高くして発音します。そうすると、日本語のリズムにはどのような動きがありますか。ペアで相談しなさい。アイデアがありましたか?では、身体の動きで表すと、能の歩く動きに高さを加えたものに似てきます。これは、水田を歩く動きからきているという説があります。すると、牧畜民の馬のリズムと水田を歩く日本語のリズムは、実は、どちらもそれぞれの生活に根があるといえます。

こうした知識を子どもたちに教える必要は全くありません。ただ、教師としては発音のような機械的とも思えるところにも、文化が隠れているんだということを心にとめておくことが必要です。「言語や文化を体験的に理解させる」という指導要領の目標も、最も基礎的なレベルでは、リズムを大切に指導することで達成可能なのです。

では、このレクチャーから学んだことや意見や感想を話し合いましょう。

■演習

1.歌詞の発音練習

それでは、歌詞でリズムを考えてみましょう。誰もが知っている誕生日のときの歌は、実は学校の先生が生徒たちに挨拶するときの歌として誕生したと言われています。次の歌詞だったら、どこを強く発音しますか。

Good morning to you, good morning to you.

Good morning, dear children , Good morning to you.

と太字の音節を強めに発音します。するとこの歌は、弱い音節の次に強く発音する音節がきていることが分かります。本来は前置詞のto などは弱く、短く発音するのが普通なのですが、ここでは一人一人の子どもと対面して、「今度はあなたにご挨拶を、今度はあなたにご挨拶を」と相手を変えて歌っているからなのでしょう。身体の動きも加えながら一緒に歌ってみましょう。(練習)では、次の歌はどうでしょうか。

Hello, hello, hello, how are you?

I’m fine, I’m fine, I hope that you are too.

Hello の発音はhello でもhelloでどちらもありますが、弱強のリズムを考えて後を強める発音がよいでしょう。メロディーは付けずに単語の発音練習をしてから歌の練習をしましょう。(練習後)それでは、私の後について、一区切りずつメロディーも付けて歌ってみましょう。では、通して歌ってみましょう。最初の行はこのグループ、2行目はこのグループで歌って挨拶しているように歌いましょう。今度は動作も工夫しながら、ペアで挨拶の交換となるように歌いましょう。ペアを交換して練習しましょう。

『英語ノート 1』のLesson 2(p.11) にHello Song の動作が示されています。ペアで相談しながら、歌とあわせてできるか区切りごとにゆっくりとやってみましょう。(練習して実演させたのちに)歌は身振りを付けることで一層教室のムードが盛り上がります。しかし、高学年になると身体表現に抵抗があり、動作を嫌がる児童も出てきます。その場合は、「自分が一番気持よく歌えるように歌おう」と指示して、動作の無理強いはしません。

2.歌の指導手順

歌の指導に決まった手順があるわけではありません。ただ、「ABCの歌」のように歌によっては微妙に歌詞が違ったり、いろいろな歌い方があるものが結構あります。児童は自分の知っているバージョンと異なると、まごつくことがあるので対策が必要です。

1) 歌全体を歌ってやったり、CDで聞かせたりします。意味の解説はしません。

2) 2回目は児童に「この歌を知っている人は一緒に歌ってください」と依頼し、どの程度の児童が知っているか、それは同じversion か確認します。

3) 教師の用意したものと異なる場合は、その子に発表の機会を与え、その後、「今回は先生のバーションでゆくから協力してね」と頼みます。

4) 短い歌なら、一行ずつ、あるいは区切りごとに、絵や動作で意味の理解を図りながら、繰り返し歌って口真似で歌わせます。CDを使ってもよいのですが、できれば教師の歌をモデルにさせたいものです。途中で自然に意味の解説も日本語できるからです。

5) 英語の歌詞を示さないのが原則ですが、見せて思い出す手がかりとさせてもよいでしょう。ただ、その場合でも逐語訳は避けます。こうした習慣が日本語と英語が一対一の対応をすると誤った認識を与えてしまう恐れがあるからです。

6) かなり歌えるようになったら、CDの後について繰り返し歌わせます。ペアやグループ活動や動作を加えるなどで練習に変化をつけることも大切です。

7) 一度の練習で覚えさせようとはせずに、同じ歌を何回も、日を置いて繰り返します。45 分の授業なら、少なくとも2回は全員で歌を楽しむ機会を設定したいものです。

3. チャンツの指導手順

チャンツはアメリカのCarolyn Graham という人が移民の子にアメリカ英語の話し言葉を教えるために開発した手法で、Jazz Chant と呼ばれています。繰り返しの多い語句を、ジャズのリズムに合わせて、歌うのではなく語るのが特徴で、多くの場合は対話形式をとります。考え方は歌の場合と同じで、リズムを大切に強弱をつけて楽しく発音させます。たとえば、『英語ノート1』Lesson 1 『指導資料』に出ているHello Chant なら

男性: Hello. Hello. My name is Ken.

女性 Hi. Hi. My name is Mai. Nice to meet you.

男性 Nice to meet you, too.

となります。ただ、nice to meet you は「ないす(た)みーちゅう」のように音変化を起こして、まるで一つの単語のように発音されますから注意が必要です。練習ではもちろん、個人名を自分の名前に変更して、いろいろなペアで練習し、仲間作りに役立てます。対話をする相手が増えるほど、クラスのムードが改善される可能性が高まります。

次のチャンツを練習し、CDを聞いてから、もう一度練習し、ペア・ワークをしよう。

Ken; Hello. Hello. My name is Ken.

What’s your name? What’s your name?

Yumi: My name is Yumi. Nice to meet you.

Ken; Nice to meet you, too.

■振り返り

1)「言語の音は文化だ」と話しましたが、日本語の場合はどうでしょうか。たとえば、標準語で話す場合と故郷の方言で話す場合にどんな違いを感じがしますか。

2) 「英語の正しいリズムや発音」を強調しすぎることのマイナス面はないでしょうか。

3) 外国語活動で発音の指導をするときに、最も大切にしなければならないのは、リズムでしょうか、それともはっきりした声で発音することでしょうか。

4) 次回までに、挨拶とあわせて歌とチャンツを試み、感想をまとめてきてください。

5) 今日の研修で最も興味を持ったことは何ですか。ポートフォリオに今日の感想も忘れずに書いておいてください。

(配信日 2009/09/01)