小学校外国語活動 (9) 「校内研修第5回目:対話」 横浜国立大学名誉教授 佐野正之
■はじめに
この稿では対話練習を取り上げます。「英語を話す」という活動も大きく分けると人の対面して、いわば1対1で行う対話と、演説のようにまとまりのある長い話しを大勢に向かって話すスピーチがあります。しかし、後者は前者の発展した形と考えられるので、外国語活動では対話が中心になります。対話はリスニングの活動と裏表一体となって現れるのですが、ここではその中で「話すこと」を中心に説明します。
1.振り返り
1) 外国語活動では発話を中心にするよりも、input を中心に活動を考えるべきだと説明しましたが、その理由を3つ挙げてください。
ヒント:聞けないと会話ができない、 (2) 習得の順序から聞くほうが先、(3) 心理的負担が少なくてすむ
2) 英語を話すことが苦手な担任がリスニング活動重視の進め方をするときには、どのような場面で活動を設定することができるか話しあいましょう。
ヒント:ALTの活用、 TPRの利用、 CDの利用、 歌やゲームの指導、 決まった教室英語の使用、 挨拶に一工夫など
3) 「話す活動」と「聞く活動」は相互に相容れないわけではありません。むしろ「聞く活動」の発展として「話す活動」を考えることができます。具体的にはどのような進め方をすればそれが可能になるでしょうか。意見交換しなさい。
ヒント:具体的な方法は後に書いてあります。でも、自分で考えることが大切ですから、自由な意見交換をしましょう。
2.佐野先生のミニ・レクチャー:対話活動
次ぎのレクチャーをペアで音読し、振り返りの視点を中心に読んだことについて話しあいましょう。
日本の英語教育では受験英語の影響もあって、英文を日本語に和訳する「読むこと」や、その逆に日本語を英語に英訳する「書くこと」が勉強の中心になっていますが、これは生きた言語の学習としては非常にいびつな形です。なぜかというと、英語を日本語に訳したところで、また、日本語を英語に訳したところで、本当に英語を読んだり書いたりすることにはならないからです。日本語に直しても、さっぱり意味の通じない文章になったり、訳した英語が場面にふさわしくない表現になったりすることが多いからです。さらに、「読むこと」「書くこと」は。本来は「聞くこと」「話すこと」の発展としてあるはずです。「書き言葉」が生まれるのは言語の発展の歴史ではごく最近のできごとであり、いまだに「書き言葉」を持たない言語さえあるのです。ですから、言語の本質はあくまでも音声であり、「読むこと」や「書くこと」ではなく、「聞くこと」と「話すこと」こそ、言語学習の中心でなければならないのです。それができる能力こそ、実社会で生きるコミュニケーション能力の基礎だからです。では、「コミュニケーション」とはどのような働きをするのでしょうか。
Communication(コミュニケーション)の語源はcommunity(共同体) にあります。共同体というのは、村や町の地域社会もそうですが、会社も学校も家族も一つの共同体です。共同体は、ただ、偶然何人かの人が集まっているわけではありません。意識するかしないは別にして、共同体に固有の目的があり、目的達成のためにルールや秩序があります。当然、それぞれの共同体の維持のためにはコミュニケーションが必要となってきて、それが言語の発生に深く関ってきたことはすでに一度説明しました。別の言い方をすれば、人はコミュニテイーを維持・発展させるために言語を使用してきたのです。
共同体の例として会社を挙げて考えてみましょう。会社は通常、利益を上げ、その利益を会社で働く人達に分配するという目的とルールを持っています。また、そのために大切なのは、会社のビジネスのための言葉の使用です。対外的な交渉をしたり、商取引をしたり、利益を分配するための約束事を交わしたりするためのコミュニケーションが重要になります。これをtransactional function (業務上の言葉の働き)と呼びます。当然、この言葉の働きの場合は、正確な情報が重要になり、言葉使いもより高度な正確さが求められることになります。しかし、会社の存続には、もう一つの言葉の働きも欠かせません。
それは、interactional function(人間関係上の言葉の働き) と呼ばれているものです。人間関係を良好に保つために言葉を使用し、仲間意識を高めるために、また、相手によい印象を与えるために言葉を使うことだともいえます。その代表的なものが挨拶や自己紹介や誉め言葉です。日常会話の多くは、そこで交わされる情報が大切というよりは、仲間意識を高めるための言葉の働きが中心です。ここでは、正確な言葉遣いよりは、相手によい印象を与えることが大切なのですから、非言語的コミュニケーションの手段、たとえば、smileや eye-contactや 態度や声の明瞭さなどが大きな意味を持ってきます。外国語活動では、この人間関係維持・改善のための言葉の働きが中心です。ですから対話練習では、英語のせりふを正確に暗記させることよりも、他人と仲良くするための方法を英語で教えるという姿勢が大切になるのです。
では、外国語活動では共同体として何を想定すればよいのでしょうか。「国際社会を生きる地球市民の養成」と大きく考えることも可能ですが、それでは児童の実感と結びつけて活動することができません。こうした大きな目標を根本に持ちながら、それを可能にするためには、まず、隣に座っているクラスの仲間と仲良くなり、一緒に英語学習という仕事を協働して進めることによって、地球市民としての資質の素地を養成すると考えるべきでしょう。ですから、コミュニケーションはクラスの仲間と英語を使って一緒に活動をする中で、よりよい人間関係を作りだしてゆくことを目的にして実施されなければならないのです。
3.振り返りの話し合い
コミュニケーションは共同体の維持・発展が目的で、しかもそれには現在のクラスを共同体とみなして、その中で素地を養成するという発想が大切だとしましたが、その時に教師の関りはどうあるべきでしょうか?
ヒント:共同体で必要なものは、目的とルールだと話しましたが、他に必要なものはありませんか。たとえば、会社では?それはクラスでは誰がすることでしょうか?
4.対話文の指導手順
「対話はリスニング活動の発展とも考えられる」と説明しましたが、ではP.27 の対話を指導するにはどのような手順をとるのでしょうか。ここでは、友達に犬、りんご、サッカーが好きかどうかを数人の友達に尋ね、結果を表に書き込むというタスクになっています。ですから、まず聞き取りが十分できることを確認した上で、対話練習に入ることが原則です。
Mai: Hello, Ken.
Ken: Hello, Mai.
Mai: Ken, do you like dogs?
Ken: Yes, I do. I like dogs.
Mai: Do you like apples?
Ken: No, I don’t.
Mai: Do you like soccer?
Ken: Yes, I do. I like soccer.
Mai: OK, thank you.
1) 使用する単語の指導は十分に。
単語の指導は、リスニングの場合と同じように丁寧に。指差し、Flash cards, キー・ワード・ゲームなどを用いて練習します。
2) 対話文の導入はリスニングを優先させ、そこから対話練習に。
リスニングの箇所で説明したように、話す活動の前にはリスングが先行しなければなりません。チーム・テーチングの場合は役割分担をして導入できますが、一人で実施しなければならない場合は、人形などを相手に会話して導入します。ただ、導入の文は一度では聞き取れないし、定着はしないので繰り返し行うことが必要です。
3) 対話のパタンやそこに用いられる常套語句にも注意を向ける。
この対話は、Hi! の挨拶ではじまり、相手に質問する前にはfirst name で呼びかけ、会話の終わりにはthank youと例を言って終わっています。本来ならば、Thank youと言われればYou are welcome.で応じ、さらに別れるときには、See you. Byeなどの決まり文句を使用します。それが難しい場合には、微笑みやうなづきで言葉の代用をするように指導します。
4) 英文の意味の理解を確認の後、対話文をそっくり繰り返し、口慣らしの練習をします。
5) 教師とクラス全体で役割を決めて練習。その後、役を入れ替えて。
6) 教師対ボランテイアやボランテイア同士で対話させ、モデルを示すと同時に、どこで困難を感じるかを発見し指導します。
7) 児童だけでできることを見定めた後で、ペアやグループで活動させ、それがスムーズに進行することを見定めてから、各自で教室を動き回ってペアを変えながら、数人と対話するように励まします。教師は見回って英語で対話しているかだけでなく、仲間に入れず孤立している子がいないか注意します。もし、孤立している場合には、「佐野先生のミニ・レクチャー」で説明したように、「世界の人たちと友達になる最初のステップは、クラスの誰とも仲良くなることだ」と対話の意義を全体に説明し、恥ずかしがり屋の児童にも声を掛けるように指導します。ただ、その子自体に問題がある場合は、無理強いはせずに、教師が相手をします。
8) まとめとして、代表ペア(複数)に対話を行わせて評価。可能な限り、良い点を見つけ出して具体的に誉める。不足の点は原則として最後に全体で練習。自己評価もさせる。
9) 発展的な活動として、同じせりふでも登場人物を変更したり、場面を変えたり、話すための動機を工夫して設定することで、対話がいきいきとすることもあります。たとえば、上の対話なら
パーテイで知り合ったとか、電車で隣りあわせに座ったなどの場面を変更したり、ペン・パルを探すためとか、ハイキングの持ち物を決めるとかの目的を設定すれば、好きなものによって持ち物や仲間が決まるので、より目的のある対話に近づきます。
5. まとめと振り返り。
1) 新指導要領ではどの教科でも「自己表現力」が重要視されていますが、外国語活動でも自己表現力を強化するために、最初から対話練習を多くしたほうがよいのでしょうか。
ヒント:外国語活動の目標と言語習得の順序を考えてみましょう。
2) 担任の教師が一人で対話を導入するときの工夫として「人形を利用する」というアイデアが紹介されていましたが、他にどのような方法が可能でしょうか。
ヒント:ペープサートを用いたり、黒板に人物の絵を描いて、対話している人物の側に立って話すこともできます。
3) 次回までに、少なくとも、挨拶、歌、チャンツ、対話を組み合わせて、短い時間でもよいので外国語活動を実施してみましょう。組み合わせとしては、原則、(1)始めの 挨拶 (2) 歌 (3) 対話の導入(リスニングを含む) (4) チャンツ (5) 対話練習 (6)振り返り (7) 終わりの挨拶という順序で、内容的に関連する活動を組み合わせるようにします。主活動は対話でもリスニングでも構いません。
4) 外国語活動の実践だけでなく、授業をしながら気付いたことをポートフォリオにまとめておいて、読み返し、また、意見交換する材料にしましょう。
(配信日 2009/10/01)