■はじめに
ここまで松山大学で行ったゼミの内容を紹介してきたが、そのまとめとして受講者に書いてもらったアクション・リサーチのレポートを2つ紹介する。レポートの提出は、ゼミを開始した時点から予告しておいたのだが、最後の全体発表が終了した時点で、再度、それぞれが自分の実践と振り返りをA4で2枚にまとめて提出することを求めた。最初の1枚は、実践のまとめで、最終報告に用いたフォーマットをそのまま提出してもらった。それを読めば、各リサーチの概要が見てとれるからである。全体発表ではフォーマットだけでなく、パワーポイントを用いて映像を含めて説明したり、教材やアンケート用紙、評価規準、テストやアンケート結果のグラフ、生徒の作品や感想などいろいろな資料が含まれていたのだが、「報告書」をまとめる際の印刷代の関係でカットせざるを得なかった。また、実践内容は時系列で物語り風に記述したほうが読者には分かりやすいのだが、学年末の多忙な時期に仕事を増やすことがはばかられ、発表に用いた用紙をそのまま提出してもらうことにしたのである。
2枚目は、実践を通しての(1)生徒の変化、(2)教師の変化、(3)気付きの3点について書いて提出してもらった。アクション・リサーチは、最初に設定した問題の解決が優先され、結局は生徒はどの程度力を伸ばしたかという視点だけが強調されがちだが、実は、生徒の変化を生むには教師の変化が先行しなければならないし、それには「振り返り」による「気付き」が不可欠である。その点を各自に確認して欲しいという願いからの課題である。
以下、提出されたレポートを紹介するが、その選考基準はアクション・リサーチの数値的な成果よりも、実践に取り組んだことによる教師の成長を重視した。最初は中学校の実践、次ぎの号では高校の実践を紹介する。メールで配信する関係で書式が乱れ、読みにくいところがあるがお許しいただきたい。
■報告「英語に対する苦手意識を少なくし基礎・基本を定着させるアクション・リサーチ」
■ 実践の振り返り
①生徒の変化
今年度はじめて担当することになった3年生。小学校時代には学級崩壊、昨年度は授業崩壊に近い状態を経験していました。英語に対する苦手意識が強く、「英語は嫌い」「英語はおもしろくない」と言う生徒がたくさんいました。また、4月の家庭訪問の際に保護者の方から「うちの子は英語が苦手なので英語をよろしくお願いします」と言われることが多く、驚きました。
これまでの授業を通して、生徒たちは少しずつですが確実に変化してきたと思います。英語を得意とする生徒の中から積極的に挙手し聞こえる声を出して音読に取り組む生徒が増え、それが全体にも良い影響を与えるようになりました。
毎時間、ペアワークを取り入れることによってお互いに教え合い、学び合う姿勢が見られるようになったのも変化の一つです。音読練習をする時、ペアなら読めない単語を気軽に聞くことができ能率よく音読練習に取り組むことができました。インタビューでは意外な特技や趣味に驚くこともあり、お互いをよく知るきっかけになったようです。授業後の休み時間にもそれを話題にして会話を広げていたことがあり、うれしく思いました。
②教師の変化
今振り返ってみると、これまでの私は「わかる・楽しい授業がしたい」とただ漠然と考えていただけのように思います。「明日の教室で使える技」をお土産にいただけるセミナーに参加しその技を授業で試してみる、生徒の反応がよければそれに満足するというたことを繰り返していました。セミナーに参加することで自己研鑽を積んでいるような錯覚に陥り、大事なことを見過ごしていたように思います。生徒の実態を詳細に把握しどのような力をつけたいと願っているのか、そのためにはどのような指導が効果的か、長期的な視野に立って考えることはありませんでした。
今回のアクション・リサーチで私は「英語に対する苦手意識を少なくし、テストの平均点を伸ばすためにはどのような指導が効果的か」というリサーチ・クエスチョンを設定しました。中学3年生の生徒たちの様子を見た時、授業改善を図るための問題点はたくさんありました。英語嫌いが多い、音読で声を出さない、宿題をやってこない生徒が大半である、挙手する生徒が少ない、ペアワークが成立しないなど。正直なところ、これまで出会ったことのない学年でした。どこから手をつけていいかわからず、多くの問題点に頭を悩ませていた頃、アクション・リサーチに出会いました。アクション・リサーチとの出会いは佐野先生、そして同じ英語科教員として働く多くの先生方との出会いでもありました。月に1度集まり、佐野先生の講義を受けたり先生方と話をしたりしているうちに少しずつ先の見通しを持てるようになりました。そして、多くの課題の中から大部分の生徒の願いである「テストの点を上げたい」を取り上げることにしました。中学3年生の生徒たちにとってこれから乗り越えなければならない大きな壁、受験に向かっていっしょにがんばっていこうという思いも込めて。
結果として、定期テストの平均点を上げることはできましたが、実力テストの平均点を上げることはできませんでした。しかし、授業全体の雰囲気が良くなり、生徒の反応も活発になったことはうれしい変化です。また、アクション・リサーチをはじめてから生徒の小さな変化や反応に目を向けることができるようになりました。できないところを見てため息をつくよりも、小さなことでもできるようになったところに目を向ける方が生徒にも良い影響を与えるということを実感しました。
③リサーチによる気づき
アクション・リサーチをして気づいたことは、まずどんな生徒でも良くなる可能性を持っているということです。私たち教員があきらめない限り生徒は良くなると信じることが大事だと思いました。あきらめればそこで終わりです。生徒をやる気にさせるためには自分自身が授業を改善するための努力を忘れてはいけないと思いました。
次に、テストのあり方についてです。今回「テストの平均点を上げる」をリサーチ・クエスチョンにしたため佐野先生や他の先生方からテストについて様々な意見を聞くことができました。これまでただ平均点が悪い、テストができないと考えていましたが、それではいつまでたっても変わらないということに気づきました。テストの中でどの問題ができないのか、語彙不足か語順かそれともリスニングか。何が問題なのかを発見しなければ解決もできないという当たり前のことに気づくことができました。
最後になりましたが、仲間とともに研修に取り組むことができて本当に良かったと思います。11月の研修会では横浜の先生方の発表を聞くこともできました。愛媛だけではなく全国の先生方も同じような悩みを持ち、日々努力されているということを知り、たいへん勇気づけられました。そして何よりいつも支えになっていたのは佐野先生の温かい人柄だったと思います。佐野先生はいつも笑顔で、適確なアドバイスをしてくれました。その姿こそ生徒が望む教師像だと思います。自分もこうなりたいと思われるような教師を目指し、今後も研修を続けたいと思います。
■佐野先生のコメント
学習意欲の点でも英語力でも、かなり困難なクラスの指導だったことが分かる。3年生の最大の関心は入学試験の成績なのだから、それをリサーチの問題として選定したことは正しかったと思う。また、取り組みも単語指導、音読、文型理解といわば非常にオーソドックスな手順を取ったことも妥当だと思う。とかく「テストの成績を上げなければ!」とあせるあまり、押し込みの授業になり、かえって英語嫌いの生徒を増やし、結果としては成績も上がらないということがよくある。このクラスの場合は、目だった実力テストの成績の向上は見られなかったが、英語に対する生徒の取り組みには確実に変化が見られた。これは重要なことで、英語に対するネガチブな態度を少しでも払拭できれば、今後の英語学習に期待が持てるからである。「今日の稼ぎだけを気にすると、明日の富を失う」という言葉があるが、教師に求められるのは、この長期的視点である。
教師の気付きという点では、すばらしい実践だったと思う。英語授業では指導テクニークも必要だが、それ以上に教師と生徒の人間関係、生徒同士の連帯感がなによりも重要であり、そのことに気付いている教師の存在である。この実践ではそれが見事に実証され、教師の気付きも実り多いものになった。3年生の学力不足という点について言えば、1年生、2年生の時点での指導の積み上げが重要だということを再度認識させてくれが実践でもあった。ここで得た知識や認識を、今後、同僚と分け合いながら生かして欲しい。
(配信日 2009/04/15)