5.1. アクション・リサーチ支援としてのメンタリングの実践について

AR支援ネットワーク通信(59) 第5部 「アクション・リサーチを支える人々(1)」

アクション・リサーチ支援としてのメンタリングの実践について 近畿大学 三上明洋

2010 年10月3日(日)にアクション・リサーチ全国大会が横浜で開催され、その名の通り全国からARに興味のある大勢の教員が集まり、活発な意見・情報交換が 行われました。私も、ARをテーマに掲げたこの大会に、胸を躍らせながら参加をしました。ここでは、そこで発表させていただいた内容を簡単に紹介したいと 思います。

AR の実践では、授業改善や教師の成長を促進する効果が期待されていますが、その一方で、その研究手法の複雑さや曖昧さにより現場の英語教員がそれを活用する のはそれほど簡単なことではないようです。そのため、ARの実践を効果的・効率的に支援できる指導者を育成し、その支援を充実させることが必要になります が、その具体策としてメンタリングの実践が注目を浴びています。そこで、私は、メンタリングを「すでにAR実践研究の成功経験のある英語教員(メンター候 補者)が、その経験の全くあるいはほとんどない英語教員(メンティ)と継続的・定期的に交流を図り、メンティのAR実践を支援すること」と定義し、その実 践研究の経過と結果を報告しました。

2007年9月~2008年3月までの約6ヶ月間、大学英語教員2名からの協力を得てメンタリングを試みました。その結果、メンター候補者とメンティは、 メーリングリストを中心に電話や面談による意見・情報交換も適切に組み合わせて行い、メンティは初めての実践であるにもかかわらず、当初の目的であるAR の1サイクルを最後までやり遂げることができました。このメンタリングの実践においては、メーリングリストへのメッセージ投稿回数が合計146回、メンター候補者とメンティの電話による対話が1回、面談は3回、その他にコーディネーターも含めた3者面談が2回行われ、ARの実践に関してメンター候補者と メンティを中心にコーディネーターも含めた活発な交流が図られたことがわかります。これにより、メンタリングは、ARの指導者を育成することに役立つとともに、メンティにとってもARの実践に対する支援を充実させる効果があると言えるでしょう。

この実践研究を通して、メンターからメンティに対する支援は大きく3つに分けられることがわかりました。それは、1.リサーチの方法に関する支援、2.授業 の内容や指導法に関する支援、3.情意面の支援です。メンタリングの途中で、もしもメンティが何かにつまずくようなことがあった場合には、そのつまずきが ARの進め方に関するものなのか、それとも授業の内容や指導法に関するものなのかをメンターはメンティとともに考えるようにするとよいでしょう。そうする ことによって、メンティがつまずきの原因やその解決策を自分で見つけ出せるように導くことが大切です。また、メンティがAR実践に対するやる気を失ってし まっていることもあるかもしれません。その時には、ARの実施状況を確認し、できていない部分よりもできている部分に注目させ、メンティのリサーチに対す る意欲と自信を回復させることが必要になるでしょう。このように、メンターには、メンティとともにARを進めていくという姿勢を常に持つことが何よりも重 要であると言えます。

自信を持ってこのようなメンターの役割を果たせるようになったり、円滑にARを実践できるようになるためには、1度のメンタリングの経験だけでは不十分であ ると言えます。また、メンタリングの成功には良好なメンタリング関係の構築が不可欠であり、1対1のパーソナルな人間関係に大きく依存するメンタリング関 係をどのように作り上げ、継続させていけば良いのかという難しい問題があることも明らかとなりました。メンタリングでは、メンター候補者とメンティだけで はなく、コーディネーターも積極的に関わることによって、その成功に向けた三者の協力が重要な鍵になると言えるでしょう。そして、この三者の協力があって こそ三者がともに成長することができるのだと思います。

今大会に参加して、多くの先生方とメンタリングやメンターの育成に関する期待や課題についてお話をすることができ、メンタリングの必要性を改めて強く感じま した。拙著(2010)「ワークシートを活用した実践アクション・リサーチ―理想的な英語授業をめざして」(大修館書店)でも、メンタリング制度について 紹介をしていますので、興味のおありの方はご覧いただきたいと思います。今後は、この大会を通じて出会えた数多くの先生方との交流をさらに深め、ARやメ ンタリングの実践に対する支援をさらに充実させる取り組みを行っていきたいと思っています。

(配信日 2010/11/15)