3.4. 校内研修のテーマと進め方

小学校外国語活動通信(4) 「校内研修のテーマと進め方」 横浜国立大学名誉教授 佐野正之

■はじめに

ここまでは校内研修を進める上での基本的な考え方を説明してきました。すなわち、研修では教師の自主性を尊重した協同研究の姿勢が大切であること、また、外国語活動の授業力に必要な「情報・知識」と「指導技術(英語力も含む)」と「(話しあいなどでの)振り返り」の3点を、1回ごとの研修でバランス良く扱うことなどでした。しかも、この3者が相互に関連しあうように、一回ごとの研修にテーマを設定し、テーマに関る情報・知識は講義で与えて意見交換し、また、指導スキルに関することは演習として扱い、指導の模擬体験も含むように工夫します。各研修の最後には「まとめの話し合い」で振り返りを実施し、自由な意見交換を行い、また、次回までの自己研修(宿題を含む)を決定するという流れが基本です。ですから、研修計画の作成にはテーマの設定が最初の一歩です。この稿では11個のテーマを設定し、そこで行う講義や演習や振り返りの要点を説明します。文科省の指針では年間15回実施することになっていますが、実際には一つのテーマに2回かける場合もあるので、一応、11ケのテーマと研究授業で計画します。

また、文書だけの説明では実際の研修の進め方を理解することが難しいだろうと考え、私が藤沢の小学校で実施した初回の研修の概略を「通信(5)」にまとめて、この号と一緒に配信しますから、時間配分や講師の姿勢など、これまでの「通信」に書けなかった側面を読み取って欲しいと思います。次回の「通信」からは、順次、ここで示したテーマごとに研修を進める際の情報を「講義」として、また、スキルは「演習」として、進め方を説明します。

■外国語活動の研修テーマ(授業力)リスト

外国語活動の授業力をテーマ別にしたものが以下のリストです。一応、順番はついていますが、順番はグループのニーズに応じて変更しても構いません。また、1回の研修で複数のテーマを扱っても、同じテーマを繰り返し扱っても良いでしょう。年度当初に年間スケジュールを一応作成はしますが、様子をみて、一番必要とされるテーマを扱うようにします。また、研修会で扱うだまでは、そのテーマは教えてはならないという意味ではありません。たとえば、歌やゲームは、どんな授業でも必要ですから、早くから授業で使用することになるでしょう。その上で、研修で扱ったときに、自分のこれまでの指導法の振り返り、改善してゆく手がかりとして利用するのです。

第1回. 外国語活動の目的

講義:なぜ外国語活動なのか? 世界的な視点から外国語活動の目的を探ります。

演習:「世界の今日は」 『英語ノート1』のLesson 1 のテーマです。

振り返り:「英語活動と自分が受けた英語教育の違い」を中心に意見交換します。

第2回. 指導要領で示されている外国語活動の目標

講義:指導要領の目標を読み解く。英語活動や中学校の目標と対応させて特徴を探ります。

演習:「初対面の挨拶」 『英語ノート1』のLesson 1 のテーマです。

振り返り:「英語活動で必要な英語力」「英語が苦手」意識を話し合います。

第3回. コミュニケーションって何?

講義:言葉の誕生とコミュニケーションの働き。非言語的手段と言語機能を説明します。

演習:「ジェスチャーをしよう:感情編」『英語ノート1』のLesson 2 のテーマです。

振り返り:「ジェスチャーの役割」日本人がアメリカ人の身振りを真似る必要があるか?

第4回. 言語は社会でどんな働きをするのか?

講義:言語が社会でどんな働きをするのか、社会と言語の関りを探ります。

演習:「楽しく歌おう」 『英語ノート1』に出てくる歌を扱います。

振り返り:歌の指導で大切なことや指導手順についてアイデアを交換します。

第5回. 英語ってどんな言語?

講義:英語のリズム: 英語のリズムの練習と音変化を扱います。

演習:チャントを楽しく 『英語ノート1』に出てくるチャントを扱います。

振り返り:チャントの指導で大切なこと 指導の手順のアイデアの交換。

第6回.リスニング活動はむずかしい?

講義:話し言葉と書き言葉:リスニングは謎解き。 リスニングの重要さを説明します。

演習:全身反応学習 効果的な指導法のひとつであるTPRの演習をします。

振り返り:リスニングの指導で大切なこと 指導の手順のアイデアの交換。

第7回.人生は遊びか仕事か?

講義:ゲームやタスク活動が外国語学習で果たす役割を説明します。

演習:さまざまなゲーム 『英語ノート1』に出てくるゲームを扱います。

振り返り:ゲームの指導で大切なこと 指導上の留意点の意見交換。

第8回. 外国語活動の授業案の構成

講義:授業案の構成 タスク(ゲーム)を核にして他の活動をどのように組み合わせるか。

演習:ゲームを中心にした組み立て。 実際の組み立てを試み、授業案を作成します。

振り返り:授業案作りで大切なことや留意点について話しあいます。

第9回.外国語活動での児童のコントロール

講義:ムード作りとクラスルーム・ルール 外国語活動に必要な活気と規律

演習:チェックリストで実態を知ろう 自分の授業の様子をチェックします。

振り返り:改善する具体的な手だてを探る 問題点の改善方法について意見交換。

第10回. 外国語活動の評価。児童中心の評価とは?

講義:意欲を引き出す評価、 形成的アセスメントの考え方を説明します。

演習:誉め言葉の練習 英語の誉め言葉をまとめて習得します。

振り返り:評価の工夫。外国語活動の評価について意見交換。

第11回. 研究授業(前期・後期)

講義:研究授業の見方と意義 事前に教案を配布し、注意点を明確にして観察。

演習:授業観察 観察リストを使用して。

振り返り:話しあいによる学び 意見の交換ではなく、具体的な提案が望ましい。

以上のテーマは、仮のものです。現在のところ、藤沢の小学校の校内研修で扱ったものは、このうちの半数程度です。今後の研修の進み具合によって、扱うテーマも変更する必要があるでしょう。ただ、扱ったテーマに関しては、講義も演習もそれなりに好評です。特に、演習でモデル授業の形で行うことは、授業に直結するので好評です。ただ、読者は私の研修には参加できないのですから、「実際はどのように進めるのだろうか?」という疑問もあると思います。そこで、以下、私の初回の校内研修の概要をシナリオ風に仕立てて、「外国語活動通信(5)」として、引き続き紹介します。次ぎの通信も引き続きお読みください。研修の流れがよりよく理解できると思います。

(配信日 2009/08/01)