3.13. 校内研修9回目:発音指導

小学校外国語活動13 (校内研修9回目 発音指導) 横浜国立大学名誉教授 佐野正之

■はじめに

前回の「通信」で報告したとおり、校内での最初の研究授業は5年生も6年生も、それぞれの教師が個性を生かしながら、楽しい英語活動を展開し、保護者や他の教師などの参観者はもちろん、市の指導主事も感心するほどの出来栄だった。低学年の担任の中にも、「子どもたちがとても楽しそうだったので、自分も授業で少し試してみたいと思った」という意見も聞かれた。ただ、問題がなかったわけではない。その一つが授業中での教師の英語使用の頻度と発音である。担当した教師自身が特にその点を自覚したようで、「次回の研修では発音指導をしてください」という依頼が多かった。

実は、この扱いは微妙である。あまりに発音や英語表現を重視すると、外国語活動への教師の意欲を奪うことにもなりかねないからである。だから、私の研修でも、この点を特に取り上げることはしなかった。また、外国語活動に必要な英語表現や発音指導については、『研修ガイドブック』に詳しく記載されCDもついているので、自己研修ができないわけではない。しかし、多忙な教師たちが取り組むには情報が多すぎて、どこから手をつけたらよいか分からない。また、日本人の教師として、最低、どのレベルまでマスターして欲しいかが示されていない。結局、研修でこの最低限のレベルだけは練習を与え、それ以上は個人研修とすることが望ましいと思う。そこで、次回の研修では次ぎのようなハンドアウトを用意して、教員全体の理解を深めると同時に、練習の機会を持ち、発音への気付きと英語表現への動機付けの機会とした。

■発音練習の基礎

1.担任に期待される発音や発話

*アメリカ人やイギリス人のような発音を理想とする必要はない。日本人なら、日本人式の発音で十分である。その一方で、聞き手(外国人)に通じなかったり、不愉快な気持ちにさせてもまずい。一般に外国語発音の目標としては、Comfortably intelligible(聞き手に気持ちよく分かってもらえる発音)がふさわしいとされている。英語が専門ではない小学校の担任の発音としては、この目標を「将来的な努力目標」として、さしあたりは、自分の力にあった英語使用に心がけ、英語授業らしいムードが出せればよい。また、発音の知識が少しでもあれば、『英語ノート』の日本語化した英語の発音と、実際の英語の発音の違いを児童に気付かせる活動のときに、教師側にも視点が持てるので支援やコメントがしやすくなる。

*期待される発音や発話には何が必要か?特に、児童の発音や発話のモデルとして期待されていることは何か?まず、

(1) 大きな明るい声で発話することが第一である。聞こえないような小さな声で話しても、耳をそばだてないと聞こえないよう では、それだけで聞き手をいらつかせてしまう。comfortably intelligible(気持よく分かってもらえる)のルールに違反する。教師がまず、お手本となり、児童にも要求することが大切である。「正しい発音」と考えるよりも「伝わる発音」を目標にすれば、この点はすぐに分かるはずである。

(2) 次ぎに大切なのは豊かな表情や身振りである。教師が英語で話すときには、たとえ英語は分からない児童でも、説明しているのか、質問しているのか、冗談なのかが分かることだけでも助けになるし、身振りや絵や実物などを利用して話す内容の理解を助けることが大切である。しかし、この点はすでに何回か扱っているので、今回の研修では扱わない。以下の説明では、まず、「発音指導」を取り上げる。

*「発音指導」でまず大切なのは、

(1) 英語らいしいリズムとイントネーションである。日本語と異なり、強く発音する部分は思いっきり強く、また長めに発音し、弱い音は短く、すばやく発音することで英語らしいリズム感が生まれる。個々の発音指導でも、どこを強く発音するのかが大切な指導のポイントである。しかし、これも歌やチャンツの指導の折に説明と練習をしたので、今回は軽く扱うのみとする。

(2)次ぎに重要なのは、いくつかの子音の発音である。これらは日本語と違う発音の仕方が必要で、これを日本語式に発音すると、意味が通じなかったり、また、別の意味になったりする。だから、発音練習では、このいくつかの子音の発音の練習が必要である。

(3) また、教師がモデルになる単語の発音や表現の練習では、いくつかの母音も正確に発音できれば「レベルが高い」感じがする。特に大切なのは日本語ではみんな同じ「ア」と発音されるのに、英語ではいくつかの、異なる発音になる。実際は、前後関係から識別できることが多いので、意味の伝達という意味ではそれほど重要ではないのだが、これを区別してきちんと発音すると、その人の英語力は格段に高く評価される。

(4) 最後に子音と子音が重なる場合も、日本人には苦手なので、これも少し練習しよう。

2. 注意すべき子音。(以下の単語は全て『研修ガイドブック』p.114 からのもの)

発音に注意しなければならない子音は限られており、それらは全て、単語のスペルをみれば分かる。

(まず、以下の発音記号を説明し、その後、/f/と日本語の/ふ/の違いに気付かせたあとで、スペルに注意しながら、個々の発音を全員一斉に3回ほど、次第にスピードを上げながら練習した。その後、一人が1個の発音を児童に指導するという前提で一人ずつ発音させ、次ぎにペアで互いに相手の口の動きを注目させて、発音練習と相互チェックをした。最後に、もう一度、講師の後について発音し、次ぎの発音練習に移った。講師としては、発音の特徴を面白く説明すると同時に、日本語と対置して気づかせ、ペア練習など練習方法に工夫しながらリズムを大切に行うことが大切である。しかし、1回の練習でマスターを期待することは無理で、「気付くことが大切で後は自分で努力しよう」と話すに留めた。)

下唇を軽くかんで「ふー」:fine, four, five, fourteen, elephant, giraffe, Friday, fruit, forty, fifty, first, fourth, fifth, festival, father, grandfather, fly, friend, fire, flower, left,, follow, fast, farmer, fashion, fisherman, beautiful, sphinx, chef

下唇を軽くかんで「ぶー」:five, seven, eleven, twelve, seventeen, glove, TV, seventy, November, festival, very, volleyball, driving,

舌先を上下の歯の間に挟んで「すー」:mouth, three, thirteen, Thursday, math, thirty, third, fourth, fifth, birthday, bath, earth,

舌先を上下の歯の間に挟んで「ずー」:father, grandfather, mother, grandmother, this, that, they, brother, together,

舌先を上の歯茎の後に付けて「る」:hello, sleepy, eleven, twelve, milk, yellow, blue, black, lemon, salad, glove, elephant, koala, lion, please, English, July, Halloween, fly, play, flower, police, left, volleyball, camel, clean, follow, help, player, florist, lawyer, pilot, calendar,

ただし、apple, cool, ball, pencil, social, April, festival, table, well, castle, camel, beautiful, circle, girl, pull, roll など/l/ の発音が語尾のときには、舌先を奥にずらす。

まず「う」の口を作りそれから「る」:rock, rabbit, cream, red, orange, dress, giraffe, camera, gorilla, Friday, rice, bread, fruit, orange, January, February, April, grandfather, brother, ride, friend, restaurant, train, right, straight, roll, driving, actress, racing, driver, wrestler,

3. 「あ」にもいろいろ。

日本語の「あ」に近い音を扱います。英語ではcat とcut は区別して発音されるし、father とfurther も違う意味になります。ですから、これらを区別して発音すると、いかにも英語らしく聞こえます。これもスペルと関係がありますから、練習しているうちにどの「あ」か区別できるようになります。ただ、子音の場合と違い、間違っても意味は通じるのでそれほど神経質になる必要はありません。

「え」と「あ」の中間音で、「山羊が鳴くときのア」に似ているといわれえいます。

happy, apple, banana, rabbit, black, pants, bag, cabbage, salad, basketball, cat, panda, camera, calendar, Saturday, math, January, grandfather, can, bank, castle, animal, camel, bath, fast, actor, actress, astronaut,

澄んだ「あ」。ホームランを打ったときの「カアーン」という澄だ「あ」に似ているといわれています。

hungry, one, Sunday, Monday, study, one, hundred, summer, mother, brother, bus, lunch,

喉の奥で長めに出す「あー」。別名をあくびの「あー」とも言われています。

star, heart, March, father, grandfather, park, fast, car, carpenter, cartoonist, farmer, art,

口の前で長めに出す「あー」。歯と歯の間に鉛筆をくわえて「あー」と言ったときの「アー」に似ていると言われています。

shirt, skirt, bird, Thursday, thirty, first, third, thirty-first, birthday, turn, earth, nurse, nursery, girl

*参考 発音記号の読み方は以下を参照(実際の発音も聞くことができます)

http://www.linkage-club.co.jp/entry/hatsuonkigo.html

4.. 注意したい子音の連続

日本語は「子音+母音」で一つの音になります。だからdrive, tree, streetは、「ドライブ」「ツリー」「ストリート」となりますが、英語では /draiv/ /tri:/ /stri:t/ と、子音と子音の間に母音が挟まらないので、発音が異なることにも注意しましょう。

5.教室英語の練習(別紙):『研修ガイドブック』を参照。

一応講師の後について、主要な英語表現を一度発音練習した後で、自分で使いたい表現を10ケ選び、身振りもつけながら発音練習をするに留めた。また、具体的なアドバイスとして、使用したい英語表現は児童にも見えるように教室の前や後の壁に張り出し、それを見ながら授業をしてもよいと告げた。

■振り返り

(1)児童に発音の指導をするときに、大切にしなければならない順番を挙げてください。

(2) 教師の話す英語の発音で、子音や母音の発音の正確さまで注意しなければならない場合はどんな時でしょうか。2つ選びなさい。(単語の発音指導の時、対話文の練習の時、教室英語で。児童を誉めるとき。ALTと会話するとき)。

(配信日 2009/12/01)