3.6. 校内研修2回目:学習指導要領の目標

小学校外国語活動 (6) 「研修2回目:学習指導要領の目標」 横浜国立大学名誉教授 佐野正之

■はじめに

前回は校内研修の初回の進め方を説明しました。今後も同じ形で続けることは可能ですが、問題もあります。「講義」は私の考えの説明ですから、他の人が自分の言葉としては伝えにくいという点です。そこで、今回からは「講義」を「佐野先生のミニ・レクチャー」というタイトルにしました。その部分をコピーし、読む活動とすれば、その後の話し合いがしやすくなります。

また、初回はシナリオ風に展開を紹介しました。狙いは、研修推進者がどのような言葉かけをすればよいかを示すためでした。今回からは、(1)前回の振り返り (2) レクチャーによるテーマの理解 (3) 関連する実技演習、 (4) 今回の振り返りと宿題、という流れに沿って活動内容と予定時間を紹介します。役立つと思う部分を選択して使用してください。

今回は、小学校外国語活動通信(2)で議論した「学習指導要領の目標」を、研修会で取り上げる際の進め方について説明したいと思います。本文では校内研修で行った解説の仕方を説明します。ただ、口頭で説明するだけでは受講者を受身にしてしまうのではないかという心配がありました。そこで、藤沢市の夏期講習会の際にはその点を工夫し、ワークシートを用意しました。ワークシートの設問に個々で解答し、ペアで結論を出してから全体に発表してもらい、それに対するコメントを私がするという形で進めました。こうすることで積極的な読み取りができ、深い理解に繋がったと思います。

1.振り返り(10分)

推進者の合図で次ぎ次ぎとパートナーを変えながら意見交換をします。パートナー交替は、意見の固定化を防ぎ、新たな発見が生み仲間意識が高めるからです。話し合い次ぎの3点です。

(1) 研修では「全員が発展途上」というルールが提示されましたが、どう思いますか。

(2) 講義では「外国語活動の目的は平和への道だ」と説明がありましたが、どう思いますか。

(3) 演習では「挨拶の仕方」を学びましたが、復習や実践を試みましたか。結果は?

一つのテーマについて、2-3人と意見交換するようにします。最後には、この「振り返り」で最も興味を持ったことや、強く感じたことなど、2-3人に発表してもらいます。

2.佐野先生のレクチャー:学習指導要領に書かれている英語活動の目標と検証(30分)

ペアで次ぎのレクチャーを音読し、その後、疑問に思った点や意見を話しあいなさい。

今日の研修の目標は、学習指導要領の目標を理解し、何を目指して授業を進めるかを理解することです。前回は外国語活動の「目的」を説明しました。「目的」は外国語活動がどのような歴史的、社会的な意義を持つかということです。教師の立場からすれば、外国語活動を実施する際に常に心がけておくべき心構えともいえるでしょう。一方、学習指導要領の目標は、外国語活動の具体的なゴールです。日本の場合は、「ここまではできるようにしなさい」という意味の到達目標ではなく、「この方向に向かって努力しなさい」という方向目標ですが、それでも「目的」に比較すればより具体的に外国語活動の目指す方向を示しています。ですから、学習指導要領の目標の理解は不可欠なのです。

ところが、学習指導要領は言葉は平易でも、背景知識がないと理解しにくいのです。そこで、このレクチャーでは、学習指導要領の目標をどのように解釈すべきかを、「総合的な学習の時間」の中の英語活動の目標や、中学校の英語教育の目標と比較しながら解説します。

学習指導要領は、外国語活動の目標を次ぎのように定めています。

外国語を通じて、言語や文化について体験的に理解を深め、積極的にコミュニケーションを図ろうとする態度の育成を図り、外国語の音声や基本的な表現に慣れ親しませながら、コミュニケーション能力の素地を養う。

太字にした理由はあとで説明します。さて、この目標は、現行の「総合的な学習の時間」の中の英語活動とどう違うのでしょうか。英語活動は、次のように説明しています。

国際理解に関する教育活動の一環として外国語会話等を行うときには、学校の実態に応じ、児童が外国語に触れたり、外国の生活や文化などに慣れ親しんだりするなど小学校段階にふさわしい体験的な学習が行われるようにすること。

この2つを対比しても、外国語活動の特徴は見えてきません。表現の形式が全く異なるからです。ところが、中学校の学習指導要領と比較すると、両者の一致点は明確です。

外国語を通じて、言語や文化に対する理解を深め、積極的にコミュニケーションを図ろうとする態度の育成を図り、聞くこと、話すこと、読むこと、書くことなどのコミュニケーション能力の基礎を養う。

太字にした理由はあとで説明します。さて、この目標は、現行の「総合的な学習の時間」の中の英語活動とどう違うのでしょうか。英語活動は、次のように説明しています。

国際理解に関する教育活動の一環として外国語会話等を行うときには、学校の実態に応じ、児童が外国語に触れたり、外国の生活や文化などに慣れ親しんだりするなど小学校段階にふさわしい体験的な学習が行われるようにすること。

この2つを対比しても、外国語活動の特徴は見えてきません。表現の形式が全く異なるからです。ところが、中学校の学習指導要領と比較すると、両者の一致点は明確です。

外国語を通じて、言語や文化に対する理解を深め、積極的にコミュニケーションを図ろうとする態度の育成を図り、聞くこと、話すこと、読むこと、書くことなどのコミュニケーション能力の基礎を養う。

太字にした理由はあとで説明します。さて、この目標は、現行の「総合的な学習の時間」の中の英語活動とどう違うのでしょうか。英語活動は、次のように説明しています。

国際理解に関する教育活動の一環として外国語会話等を行うときには、学校の実態に応じ、児童が外国語に触れたり、外国の生活や文化などに慣れ親しんだりするなど小学校段階にふさわしい体験的な学習が行われるようにすること。

この2つを対比しても、外国語活動の特徴は見えてきません。表現の形式が全く異なるからです。ところが、中学校の学習指導要領と比較すると、両者の一致点は明確です。

小・中の学習指導要領の形式的な類似は一目瞭然です。さらに、高校の目標も含めて比較すると、小学校では「能力の素地を養う」、中学校では「能力の基礎を養う」、高校では「能力を養う」と段階的に設定されていることがわかります。すなわち、外国語活動を日本の英語教育の全体の「素地」と位置づけるのが文部科学省の意図なのです。

では、目標の中身はどうでしょうか。外国語活動の目標と「総合的学習の時間」の中の英語活動の目標を比較し、両方に現れている語句に注意して読んでみましょう。枠組みの太字がそれです。すると、「体験的理解」「慣れ親しむ」などのキー・ワードは同じです。逆に、差があるのは、「学校の実態に応じて」が消えています。これは、全国一律の外国語活動を期待してのことでしょうか。

そうではありません。『学習指導要領解説』には、「外国語活動の実施に当たっては、それぞれの学校の実情や経過を踏まえて実施する」と明記されています。すると、これからの外国語活動は、従来の英語活動で重要視された「慣れ親しむことを大切にした、子どもの体験重視の学習」を工夫すると同時に、それが「コミュニケーション能力の育成」という日本の英語教育の素地となることを期待しているのです。では、この「素地を養う」には何をどうすればよいのでしょうか。

実は、指導要領の書き方には独特の約束事があり、一番最後に書かれる目標は、それに先行する具体的な目標を実現することによって達成されるということになっています。すると、「言語文化の体験的理解」、「コミュニケーションに積極的な態度」と「音声や表現に慣れ親しむ」の3つの目標を達成することが即、「素地を養う」ということになるのです。また、より詳しく言語活動の部分まで見ると、この3つは「気付き」を重視した活動と、「体験」を重視した活動の2種類に分類できます。すると、次のような目標と言語活動の関係図が想定されます。

コミュニケーション能力の素地を養う

↓ ↓

言語文化の体験的理解

*音声やリズムに慣れ、日本語との違いを知り、面白さに気付く。

*生活、習慣、行事などの違いを知り、多様な見方や考え方に気付く。

*異なる文化の人々との交流を体験し、文化等に対する理解を深める。

積極的な態度 音声や表現に慣れ親しむ

*外国語を用いてコミュニケーションを図る 楽しさを体験する。

*積極的に外国語を聞いたり、話したりする。

*言語を用いてコミュニケーションを図ることの大切さを知る。

結局のところ、3つの目標を主に「気付く」ことを助けるコミュニケーション活動と、「体験させる」ことをねらいとしたコミュニケーション活動の2種類の活動で達成を目指すということです。さらに、コミュニケーションの活動については、「場面」や「働き」の例を示しています。

「コミュニケーションの場面の例」

(ア)特有の表現がよく使われる場面:あいさつ、自己紹介、買い物、食事、道案内など

(イ)児童の身近な暮らしにかかわる場面:家庭での生活、学校での学習や活動、地域の行事、子どもの遊びなど。

「コミュニケーションの働きの例」

(ア)相手との関係を円滑にする (イ)気持を伝える (ウ)事実を伝える (エ)考えや意図を伝える

(オ)相手の行動を促す

すなわち、子どもの身近な場面で、しかも、具体的にことばが使われる意味や目的を重視して英語を扱うことを求めているのです。

結論として言えば、(1) 英語を知識として教え込むのではなく、遊びや交流を通して「気付き」を育むことと、(2) 聞いたり、話したりして英語に触れる「体験」を多くして慣れ親しませること、(3) コミュニケーションを図ろうとする態度を育成することの3点が目標なのです。しかし、外国語活動で「気付き」や「体験」や「コミュニケーション」が本当にできるのでしょうか。この問題は、次ぎの「演習」で具体例を挙げて考えますが、その前に以下の点について話しあいましょう。

*「目的」と「目標」はどう違うのですか?外国語活動の目標を3つ挙げてください。

* 3つの目標に反するような外国語活動とはどのようなものでしょうか。逆に理想の授業は?

3. 演習 初対面の挨拶を例に(20分)

『英語ノート1』のLesson 1 には「初対面の挨拶」の活動が出てきます。そこで、まず、教材研究です。手始めにペアで初対面の挨拶を、4文程度の日本語でやってみてください。(実演した後で)いろいろあるでしょうが、多分、こんな形が普通でしょう。

今日は。(はじめの挨拶)

佐野正之といいます。(氏名をいう)

横浜に住んでいます。(説明を加える)

よろしくお願いします。(終わりの挨拶)

では、英語ではどうでしょうか。多分、次ぎのように言うことが多いでしょう。

Hi!

My name is Masayuki Sano.

I live in Yokohama.

Nice to meet you.

とすると、初対面の挨拶の構成は、日本語も英語も非常に似ています。挨拶があり、名前を言い、簡単な情報を紹介をし、最後は挨拶で終わります。含まれる項目は同じです。まず、ここに「言語は違っても同じ側面がある」という気付きが可能です。

しかし、言語による違いもあります。まず、氏名の言い方が日本語では姓が先で、それから名前ですが、英語ではその逆です。英語でfirst name を先にするのは、「佐野家の一員」であるよりも、「正之」という個人に注目するからでしょう。ただ、これは固定したものではなく、中国や韓国の人達が英語で自己紹介をするときには、姓が先で名前が後です。氏名は個人のidentity に関ることだから、それぞれの文化を反映したものにすべきだという主張です。日本でもMy name is Sano Masayuki . という表現が普通になってきています。『英語ノート』もこの方式を採用しています。ですから、ここにも「姓と名前の順序には文化による差がある」という気付きが可能です。

また、もう一つの違いは最後の「よろしくお願いします」です。英語にはこれに相当する発想がなく表現はありません。ですから、訳は不可能なのです。そこで、相手が個人ならNice to see you..大勢ならThank you. と言います。実は、ここに大きな文化的な発想の違いがあるのです。

英語で丁寧さを表すにはYou and I are equal. (あなたと私は対等です)が原則なのに、日本語では、You are superior to me. (あなたは私の目上です・私はあなたの目下です)という原則に立って行動するのです。このことがもっとも明確になるのは、身振りです。日本語では頭を下げることで相手に敬意を表します。英語では、You and I are equal. の原則があるので、武器を持っていないことを証明するために握手をしたり、友好的であることを表すために、ほほえんだり、eye-contact を大切にしたり、first name で呼び合ったりするのです。ですから、英語での挨拶は、どうしても大げさな身振りがつくことになるのでしょうね。ここにも気付きが生まれる可能性があります。ただ、他にも気付きの可能性はいろいろあるでしょう。ここに示したのは、そのうちの一つに過ぎません。

*英語で初対面の挨拶と日本語の挨拶の一致点と違いについて感じたことを紹介しなさい。

*気付きと体験のコミュニケーション活動は外国語活動で可能だと思いますか。

4. 挨拶の練習(10分)

*対話文を版書し、個々の単語の発音練習をする。強く発音するところに注意し、逆に弱いところは軽く、短く発音することに注意する。(これは先生たちに短時間のうちに指導するための配慮で、児童に指導するときには音声だけで行うのが原則です)

*CDを聞いて、発音練習を繰り返す。

*ペアで対話練習。相手を変えて対話練習をできるだけ繰り返す。

*ほほえみ、視線などに注意して、再度ペアを変えて繰り返し練習する。

5: 指導の練習(10分)

*ペアで一人が教師役、もう一人が児童役で導入、練習、実際的な使用と段階を踏んで練習。

*今度は4人のグループで、一人ずつ教師役を行う。終了後、児童役からコメントを聞く。

6. 振り返りと次回の予告(10分)

*今日の研修の目標は達成できましたか。新しい発見がありましたか。

*今日、練習した初対面の挨拶を次回の研修日までに、5分でも10 分でもよいので教室でやってみてください。その時に、自分の目標として

(a) なんとか初対面の挨拶を児童に教えることができる。

(b) リズムやイントネーションにまで気をつけて教えることができる。

(c) 身振りや組み合わせまで注意して教えることができる。

(d) それ以上の工夫をして教えることができる。(具体的な工夫)

の中から一つレベルを選び、実践後それが到達できたかどうかを用紙に記入して「英語活動実践Box」に入れておいてください。無記名で構いません。

*次回の研修会では、歌の指導について研修します。御苦労さまでした。

(配信日 2009/08/15)