小学校外国語活動通信(7) 「校内研修4回目: リスニング」 横浜国立大学名誉教授 佐野正之
■はじめに
この通信では、リスニング活動の指導の仕方を扱います。外国語活動では、英語だけでなく、他の外国語の挨拶や数などが扱われていますが、ここでは英語を中心に説明します。リスニングはゲームや歌と異なり、「英語の勉強」的色彩が強まりますが、児童の生活と結びつけたリスニング活動を多くし、「ああ、こんな風に英語ではいうのか」という気付きを生むようにしたり、身体を動かす活動と結び付けたり、聞き取りの目的を明確にしてゲーム感覚で取り組ませたりすることによって、外国語活動の特徴を生かしたりスニング活動にすることができます。自分では英語を話すことに自信のない場合でも、TPRの活動を少しずつ毎時間取り入れたり、ALTなどとのteam-teaching の機会にリスニング活動を多くしたりすることによって、より豊かな外国語活動にすることができます。その発想と方法を勉強しましょう。
1. 振り返りの話し合い (15分)
1)ポートフォリオを見ながら、外国語活動についてこれまで気付いたことを自由に意見交換をする。例:目標を達成するには、教師にどのような姿勢が大切だと思いますか。それはこれまでの自分の授業スタイルと異なるものですか。特に児童との関係はどうでしょうか。(あまり深刻にならず、気軽に話す機会にする)
2) 5年生担任が教室で実施した歌やチャンツの指導を,他の教員に児童に見立てて、一人が一例ずつ実演する。実演者の側には、意外と抵抗感があるものなので、事前に学年で誰が、どの活動をするのか十分話しあいをしておくと同時に、司会者が他学年の教師に、「5年生の子どもになったつもりで、素直に楽しんでください」と場面作りをすることも大切です。
3) 活動を体験しての感想の交換。また、歌やチャンツの指導で大切な点や、実践の成功例や失敗例を紹介しあう。
2. 佐野先生のミニ・レクチャー: 英語力の基礎はリスニングだ (25分)
今日のテーマはリスニングです。まず、佐野先生のミニ・レクチャーをペアで声を出して読んでみましょう。
1) リスニングの重要性。
「英語が分かることは英語が話せることだ」と一般に信じられています。だから、話す練習がなによりも大切だと考えがちです。しかし、本当はリスニングこそ英語の4技能の中で最も重要な、基礎的なスキルです。なぜしょうか。たとえば、アメリカに一人で旅行したと考えてください。何よりも困るのは、話しかけられた英語が聞き取れないことです。空港で飛行機の搭乗ゲートが変更になることはよくありますが、それが聞き取れないと飛行機に乗り遅れてしまいます。また、話しかけられているのに内容が理解できないで応対をしては、コミュニケーションが成立しません。話す場合には、自分で前もって内容を整理し必要な語彙や文型も思い出して英文を作る準備も可能ですが、リスニングの場合は相手の話す英語の難易度もスピードもこちらでコントロールできませんから、いわば相手の土俵で相撲をとることになり、英語力の不足が直接現れるからです。しかし、また、相手の話が聞き取れない場合は、繰り返しを求めたり確認したりすることは失礼でもなんでもないわけですから、そのための表現や方法も聞き取りの能力のうちと考えて指導しなければなりません。ですから、リスニング活動は受身の聞き取りだけでなく、積極的に予測を立てさせたり、反応を求めたり、質問させたりする活動も含めてリスニング能力と捕らえることが必要です。とにかく、実際のコミュニケーションではリスニングはとても重要なのですから、外国語活動でも重視しなければなりません。しかし、「リスニングが重要だ」と主張するには、他にも理由があります。言語習得の順序とクラスのムードに関るからです。
2) 言語習得の順序から。
外国語でも母語でも、言葉を覚えるときには、話すよりは聞くことが先行します。赤ちゃんは話し出す前には、話しかけられる内容はかなり聞き取れることが知られています。これは移民の子どもについても該当します。彼らも、また、新しい言葉を話し出す前に、かなりの長いsilent period (沈黙の時期)があることが知られています。その間に文法の基礎や必要な単語を習得すると考えられています。ですから、教室で外国語を扱う場合も、聞き取りを優先し、その後、話す、読む、書くと進むのが自然な進め方です。聞き取りが十分でないうちに難しい発話を強制するのは、自然の言語習得の過程に反するので上手く進まないことが多いのです。
ところで、この「自然の過程」とは何でしょうか。別の例を挙げて説明すると、人は走る前には歩き、歩く前には立ち上がれなければなりません。また、立ち上がる前には、這うことが出来なければなりません。這うことができない子に、歩くことを求めても失敗は目に見えています。それと同じことで無理なく英語を話して欲しいなら、生まれつき定まっているプロセスに沿って、まず、聞いて分かることを優先しなければならないのです。まだ準備ができていないのに強制すると、英語嫌いを生む原因にもなります。
3) クラスのムード作りの視点から
英語嫌いを作る一番手っ取りはやい方法は、分からない話しを教師(ALTも含みます)主導で進めることです。理解できない言葉が頭の上を行き交えするのは、鉄砲の弾が飛び交う戦場に立たされたようなもので、児童の安心感を脅かすことになるのです。教室での安心感は「分かる」という気持から生まれます。理解できないことが教室で行われることは、児童にとって存在を無視され、恐喝を受けているように感じてしますのです。逆に、相手の話しが理解できると、その人と一体感を持つことができ、教室のムードは一機に盛り上がります。
具体的な手法としてはTPR(Total Physical Response) があります。教師の発する一連の命令文に身体動作で反応する活動で、たとえば、教師が”Stand up. Walk. Stop. Jump. Turn around. Walk back to your place. Sit down.” という文章を読み、教師と一緒に動作させ、それができるたら児童だけに身体動作をさせます。クラスの仲間と一緒に動作をすることで、英語はコミュニケーションの手段だと感じ、学習への意欲づけにも役立ちます。TPRについては講を改めて説明します。
4) リスニングの指導で大切なこと
ここでは『英語ノート』に出てくるリスニングの活動を想定して説明します。リスニングで大切なことは、まず、単語が聞き取れることです。文法が分からなくとも単語の意味の連想から大筋を理解することができます。英語では意味が大切な内容語を強く発音する傾向があるので、強く発音されている単語をヒントに話し手の伝えたいメッセージを推測することが大切なのです。 推測するには、「どんな場面で誰が誰に話しているのか」という状況が手がかりになります。ですから、リスニング活動をするときには、単語の意味を確認した後で、状況(いつ、どこで、誰が、誰に話しているのか)に注意を向けさせ、話される内容を予測させることが大切です。
5) 英語以外の外国語の扱い
『英語ノート』のリスニング活動には、英語以外の外国語の挨拶や数を取り扱ったものがかなりあります。ねらいは、世界にはいろいろな言語があり、それぞれに異なる音声や単語が用いられていることを児童に気付いて欲しいからです。英語だけに偏ると、「英語が一番優れた言語で、その他は劣った言語」という誤ったメッセージを与えてしまう恐れがあります。ですから、ヨーロッパでは、義務教育で扱う外国語としては、主要外国語(英語、ロシア語、フランス語、ドイツ語など)のほかに、小さな国の言語を含めて、少なくとも3ケ国語を学習することを薦めています。言語や文化に優劣はないのだから、異文化の人と仲良くする姿勢を育てるには、英語以外の言語に触れる機会を保証する必要があるのです。しかし、このことは『英語ノート』に出てきた他の言語まで覚えなければならないということではありません。「世界にはいろいろな言語があるのだ」という気付きに繋がれば十分なのです。ですから、繰り返し練習して暗記したりする必要はありません。
☆振り返り
レクチャーを読んで、リスニングの重要性を認識できたしょうか。教師が英語を自由には話せないときには、ALTの利用やTPRの活用が紹介されていましたが、他にはどのような場面が考えられるでしょうか。
ヒント:『英語ノート』に附属のCDを使用したほうがよいか、似た内容でALTに新たな情報を含む話しをしてもらい、それを聞き取らせたほうがよいか考えてみましょう。どちらが子どもには興味深いと思いますか。
3. 演習:リスニング指導の手順(20分)
リスニングは、基本的には謎解きと同じです。細かなところは気にせず、大切なポイントだけ聞き取るよう指導します。『英語ノート5』p.24 を例に、手順を説明しましょう。
人物と好きな食べ物や趣味を線で結ぶ活動です。次のような英文を聞き取ります。
*Hi. My name is Ken. Nice to meet you. I like swimming. Thank you.
*Hi. My name is Mai. Nice to meet you. I like rabbits. Thank you.
*Hi. My name is Ryo. Nice to meet you. I like dogs. Thank you.
*Hi. My name is Emi. Nice to meet you. I like ice cream. Thank you.
*Hi. My name is Ichiro. Nice to meet you. I like bananas. Thank you.
1) 単語を聞いて分かるかチェックします。先生の話す単語の絵を黒板に張り出し、発音に合わせて指差しさせたり、Is this a banana/ rabbit?などの質問にYes/No で、あるいは、What is this? の質問に答えさせることで単語の意味と音とを結びつける活動をします。
2) 絵を見て発音練習をします。先生の後に単語の発音を繰り返し言わせたり、Flash Cardsを用いて素早く発音できるか確認したり、 キーワード・ゲームで聞く活動に関係している単語の発音になれさせます。
3)活動の仕方を丁寧に説明します。具体的には、「何人かの人が自己紹介をします。名前を聞き取り、その人の好きなものと線で結びなさい。たとえは、Hi. My name is Ken. Nice to meet you. I like swimming. Thank you.ならどうすればよいのだろう?」と考えさせ、例を示し、質問があれば説明します。
4) Let’s listen! のCDに取り組ませます。人名と好きなものに注意を集中するように指導します。CDは2-3 回は聞かせたいものです。
5) 答え合わせをします。最初は日本語で、次に英語で. Ken likes swimming.というように発話させ、話す指導につなげるようにします。
また、ALTとのteam-teaching は、リスニング活動の絶好の機会です。これまで学習した単語や表現が生きるような話題をこちらで指定し、絵や品物などを用いて分かりやすく話してもらうことはもちろんですが、児童が知らない単語が含まれていても、絵やジェスチャーなどを手がかりに、新しいことを聞く機会を積極的に設定したいものです。その時には教師も不明な点は日本語でALTに質問するなどして、「推量して聞く」活動に慣れさせることもとても大切です。
4.まとめの振り返り
1)英語の教授法にはoutput 重視の方法とinput 重視の方法があると言われていますが、リスニングを重視する指導法はどちらに近いでしょうか。また、それぞれの指導法で最も大切にされる活動はどう違うでしょうか。
ヒント:input-lestening, output-speaking
2) 『英語ノート』のリスニング活動は児童の生活とは直接的には関係のないところですでに出来上がった活動として、いわば児童に押し付けられるものとなっています。どのような手助けでそれを児童により近いものにし、児童中心の外国語活動にできるでしょうか。
ヒント:出てきた単語を用いて児童の生活を関る導入を教師が日本語でしたり、ALTに英語でしてもらう、また、聞き取った内容について日本語でもよいので意見交換の機会を設定するなど。
3) TPRを中心にしたリスニングの活動を自分で教室でやってみて、感じたことをポーフォリオに書き出しておきなさい。
ヒント:『英語ノート』に出ているTouch your shoulders, knees and toes の歌を変形して、Touch your friend's shoulder, head, noseなどもできるし、Touch your desk, chair, floorなどもできます。
(配信日 2009/09/15)