3-10 校内研修6日目:ゲームとタスク

小学校英語活動(10) 「校内研修第6回目:ゲームとタスク」 横浜国立大学名誉教授 佐野正之

1. はじめに

今回は、ゲームとタスクを勉強します。外国語活動の組み立ては、大ざっぱに言えば、中心的なゲームやタスクを設定したら、それをどのように導入し、楽しく体験させ、そこから何に気付かせるかということにつきます。別の言い方をすれば、ゲームやタスクを中心にして、そのための準備とまとめの活動を上手く組み合わせれば英語活動はできるのです。では、肝心のゲームやタスクはどう考えればよいのでしょうか。その前に、前回の振り返りをしましょう。

2. 振り返り

1)対話練習の導入で注意しなければならない点はなんですか。

ヒント:できるだけ場面や登場人物をリアルに設定し、対話の目的が分からせてから導入する。児童が興味を持つ人物の対話にする。リスニングを優先する、など。

2) 対話練習の練習過程で注意しなければならない点はなんですか。

ヒント:すぐに児童同士で練習させずに、教師対クラス、教師対モデルの児童、モデルの児童同士、ペアで、グループで、動き回って沢山の人とステップを踏んで進める。

3) 対話やリスニングの前に、歌やチャントでwarm-up をすることができましたか。

4) ポートフォリオを見て、これまでの実践で上手く行った点、指導で困った点を自由に話しあいましょう。

3. 佐野先生のミニ・レクチャー: ゲームとタスク

(次の講義をペアで音読し、その後、振り返りの質問について話しあいましょう)

a.ゲームと利用法

「ゲームとは一定のルールに従って、相手と勝負したり謎を解いたりするために、技や知識や運を頼りに行う活動」だと辞書では定義しています。(A game is an activity involving skill, knowledge, or chance, in which you follow fixed rules and try to win against an opponent or to solve a puzzle. COBUILD) ですから、ゲームは本来は勝負に勝つために英語を使うのですが、外国語活動や英語学習では、活動をゲーム的にすることによって英語を楽しく覚えさせ、定着させるため利用すると言えるでしょう。「英語を覚えさせ、定着させる」ためですから、英語学習のいろいろな場面で使われます。単語の聞き取りゲーム、発音ゲーム、特定の表現(構文など)を練習するゲーム、また、話すこととか読むとかのスキルの上達をめざすゲームなど、いろいろに使われます。

ゲームの特徴としては、(1) ルールがある。(2)目的がある。(3) 楽しい緊張感がある。(5) 競争タイプと協力タイプの2種類がある。(4) 言葉の正確さよりは流暢さが重視される。

などがあります。ですから、同じ英語を話す活動でもゲームの要素を入れると、言葉を話すことに目的ができ、活動が楽しく活発になります。それだけにゲームは、まず、正確に覚えさせた後で、定着や練習に用いたほうが効果的です。たとえば、1週間の曜日を覚える活動の中でどのように利用するかを考えてみましょう。

まず、正確に覚えさせるには、単語カードなどを用いて、Sunday, Monday, Tuesday・・・とカードを示しながら日本語の意味も見せた後で教師について発音させる方法が一番普通です。次に、カードを黒板の上に並べ、教師の指示で指差しさせたり、触らせたりします。発音と意味の結びつきができたら、今度はチャンツや歌で繰り返して覚えさせます。その後ゲームをしますが、その場合に最も容易な方法はカルタ取りの要領で、日本語で曜日の書いてある1組のカードをペアに配布し、教師が英語で読み上げた曜日のカードを素早く取る活動です。当然、枚数が多い者が勝ちです。

同じような方法にキー・ワード・ゲームがあります。これは教師が、「今回のキーワードは日曜日、Sunday です」と指定しておいて、それ以外の曜日、たとえば、Monday !と教師が言った場合は、児童はMonday と英語で繰り返し、2拍手します。それをいくつかの曜日で繰り返したあとで、教師がSunday! と言ったときに、すばやくカードを取るというゲームです。リズム感があるので楽しい活動になります。このようなゲームは、『英語ノート』にいろいろ紹介されていますが、具体的なやり方で不明な場合は、直山木綿子(編著)『小学校新学習指導要領の授業:外国語活動実践事例集』小学館が参考になります。そちらを参照されることを薦めます。

代表的なゲームには、(1) information gap activity (2) guessing game (3) search game, (4) matching gameなどがあります。ひとつずつ簡単に説明しましょう。

(1) information gap activity は、ペアの片方が持っている情報はもう片方にはなく、両者 が情報を交換すると表が完成するという形のものです。たとえば、片方の児童の表には月曜日、水曜日、金曜日の給食が書いてあり、もう片方には火曜日、木曜日の給食が書いてあるので、互いにWhat do you have for lunch on Monday/ Tuesday?と質問しあって表を完成するという活動です。

(2) guessing game の代表的なものは「なぞなぞ」です。たとえば、教室の時間表から曜日を当てさせたり、I’m an animal. I live in the sea. I’m big.からwhale を当てさせます。先生方の特徴を述べて、先生の名前を当てたり、コミックの人物を使ったりもできます。

(3) search game の代用的なものは、隠し絵です。「この絵の中にどんな動物が隠れているだろう」というタイプです。たとえば、曜日のアルファベトを少し見せて曜日を当てさせたり、あるいは、カードに人物の特徴を書いて、それに相当する人物を教室の中の人にインタビューをして探し回ることもできます。

(4) matching game は英語を聞いて絵と合わせたり、the first day of the week でSunday と結びつけたりする活動です。

このような特徴を掴んで、自分の活動目標に合致したゲームを作成することもできます。

b. タスクと利用法

「タスク=task」は「仕事」という意味です。ですから、社会で一般に行われている業務はすべて英語活動でもタスクにすることができます。代表的なものは、買い物や料理、切符の売り買い、名刺作り、時刻表でスケジュールを作成などです。ゲームが勝負をすることで活動に楽しみを与えるのに対して、タスクでは実生活の一部を模擬的に実施することで現実性をまし、そのことが活動に目的を与え、興味を深めることになります。

実は、タスクということばの定義もいろいろあって、たとえば、もっと大掛かりにタスクを利用するtask-based approach という考え方もあります。これは外国語活動全体をタスクを中心に組み立てる指導法です。具体的にいうと、「外国からの訪問客にふるさとを案内しよう」というタスクを設定し、その中で自己紹介、町の紹介、道案内、名所ガイド、時刻表の説明、名物の買い物etc. のより実際的なタスクを用意し、それを組み合わせて外国語活動を考えようとするものです。記号としての英語を教えることではなく、体験や気付きを大切にする外国語活動の精神からすれば、非常にすばらしい方法なのですが、教師に英語力や教材開発力や多くの準備の時間が必要なので、ここでは取り上げません。ただ、『英語ノート』の中のタスクも、このような発展的な活動にすることが可能であることを認識して、時にはチャレンジすることは大切なことです。

c. 振り返り

1) ゲームとタスクの違いは?どこで使うと効果的か?

2) 授業で使う場合の注意点で特に大切だと思った点は?

3) 自分が得意とするゲームを紹介しよう。

4. 指導上の注意点

(1) ゲームやタスクは架空のものですが、できるときには、それを児童の生活と重ね合わせることが大切です。でないと、単なる遊びで終わることになりかねません。たとえば、『英語ノート1』の「世界の挨拶」なら、教科書に書かれている外国の挨拶をそのまま利用するのではなく、「藤沢市には、どの国からの人が多いと思いますか」と児童に考えさせると同時に、教師がインターネットで市役所のサイトにアクセスして、実際の藤沢市の外国人状況を把握しておいて、それを紹介すると同時にそれらの国の挨拶を必ず含むように工夫します。常に、教室と外の世界との関連を意識することによって、教室でのゲームやタスクが単に英語の勉強に終わるのではなく、児童のmind-expanding (心を広げる活動)になるように工夫します。また、「アルファベット」の指導でも、テレビのコマーシャルや商店街の看板や商品などを利用して導入し、練習後には町案内の地図を作るなど、学習の成果を親睦や地域貢献になるよう工夫することで、タスクの発想を生かすことができます。

(2) ゲームやタスクの進め方の指導は丁寧に。ゲームやタスクが上手くいかないときには、そこで使われている英語が難しいというだけでなく、実は、その進め方やルールを理解することができないからということも多いものです。ですから、活動に取り組ませる前の指導を丁寧にすることが大切です。繰り返しモデルを見せ、失敗してもとがめたりせずに、気長に説明を繰り返すようにします。一度、活動が開始すると、途中での指導が難しいだけに、始めるまえの指導やモデルの提示はとても大切です。また、「この活動ができると、こんなことができるようになるよ。それにはこのルールを守ってやろうね」というように、活動の意義やルールの大切さを徹底して指導します。

(3) 1時間に使用する主たるゲームは1個と限度とします。それに役立つ復習のゲームなら加えてもよいですが、それ以上はしないほうがよいでしょう。いかにおいしいケーキでも、ケーキだけでは飽きがきます。むしろ、ゲームに使う語句を含んだ歌や対話や聞く活動などを設定に加えたほうがよいでしょう。また、ゲームに取り組む前には、英語で注意すべき点や、人間関係で大切にしなければならない点を思い起こさせてから実施するようにします。ゲームやタスクは、個人が責任を持ってパートナーと交渉する力を伸ばす大切な教育の機会でもあるのです。

(4) 過度に競争意識を高めないように注意することも大切です。ゲームに勝つことが優先すると、英語に注意しなくなるばかりでなく、クラスの人間関係もそこなうことになりかねません。「異なる文化の人と積極的に交わる」という目的からすれば、一番大切なのは人間関係作りで、ゲームや歌や挨拶などはその手段に過ぎないのです。児童の活気が出るからという理由だけで競争をあおることなく、協同して皆で完成する活動もできるだけ多く取り入れるようにします。

(5) タスクやゲームを指導するときには、以下の手順を原則とします。

i) 教師がクラス全体を対象にやり方や使う英語を説明し、全員で英語の学習をします。定着を確認するために、何人かの児童にモデルとなってやってもらいます。

ii) 児童だけで活動が可能か、モデルの児童にリーダー役をやってもらい、様子をみます。

iii) 教師の観察のもとで、モデルのペアかグループでゲームをやってみる。

iv) 可能なことを確認した後で、クラスで実施。教師は支援に回り、問題点を見つける。

v) 活動後の感想や気づきを生徒に話させ、相互評価の機会とし、最後に教師がコメントする。

vi) 授業後、ポートフォリオに評価(ねらった結果が得られたか)と感想を書き、事後の指導に役立てる。

5. 振り返り

1) 『実践事例集』の中のゲームを実際に仲間とやってみよう。授業でやる前に、仲間の教師と練習することがとても大切です。

2) 次回までにゲームとタスクを実践し、ポートフォリオに様子を記載してきてください。

(配信日 2008/10/15)