2.4. 練習段階-1

AR 支援ネットワーク通信(10) 「練習段階―1」 横浜国立大学名誉教授 佐野正之

■はじめに

導入段階では仲間作りを目指すと同時に、ARのねらいや方法の概略を講義し、興味付けすることがねらいです。それを受けて、練習段階では、模擬的なリサーチを計画する活動でARのプロセスを習得し、また、それを部分的に実験する「ミニ・AR」を実践することによって、本格的なリサーチ開始の準備をします。ですから、これまでに出版されたARの論文を読んで、プロセスをくわしく学習することも含みます。

ARS@MUの場合は、初回に私が欠席したことに伴って、ARへの導入が十分できなかったので、2回目はそこ重点を置いたため、ある意味では「練習段階」に入るはずの模擬的なリサーチの活動も一部加えてしまっています。

■活動内容

ねらい:

(1) 模擬的なリサーチについて話しあうことで、ARのプロセスを復習。

(2) 「ミニ・AR」について、グループでの意見交換で意欲を高める。

(3) 本格的なARについて、講義とビデオで理解を深める。

1) Warm-up (教師像の振り返りのために)

Teachers are expected to be good at drawing pictures. Let me see how well you can draw a picture. Decide your favorite class, where you feel most comfortable. Imagine how you would look to your students in the class. Draw the picture which shows yourself as a teacher, your students and something which suggests the atmosphere of the class. I'll show two models. This is the picture of my favorite class when I was a senior high school teacher.

と言って、添付にある絵 を描き、また、対象的な絵も描く 。2分間時間を与え、受講者にそれぞれの授業風景の絵を描かせ、ペアで絵の内容、絵の意味するものを説明する。聞き手は、受容的に聞き、質問しコメントする。最後は、After all, I think you are a good teacher.で終わる。その後、次のような視点で、生徒との関係を見直すきっかけにする。

Look at your picture once again. Pay attention to the size of yourself. If your figure is much larger than your students, your class might be teacher-centered. If your students are all alike, you may not pay enough attention to differences of individual students. Also, the distance between you and your students may suggest psychological distance between the two.

など、絵で「振り返り」を行い、気付いたことを話しあわせる。

2) 模擬的なリサーチで理解の確認

「雰囲気も良く、学習意欲も英語力もあるクラスなのに、ALTとの対話になるとなぜか発言しない。積極的な会話の姿勢を育てるにはどうしたらよいか」という課題について、グループで、事前調査や仮説の設定を話し合わせた。その後、実際に同じ問題で実施されたARのレポート を紹介し、いろいろなアプローチの可能性を示した。

3)「ミニ・AR」についての話し合い。

自分が試みた「ミニ・AR」の実践について、なぜ、この試みをしたか、どう実施しているか、これまでの様子、今後の見通しなど、一人が3分間で発表し、それについてのコメントやアドバイスをグループで2分間実施した。その後、グループを代表して全体に発表する人を決定し、その発表を全員で聞き、私が手短かにコメントした。

4) 発表されたテーマ

(1) 新文型の導入を絵や図を用いながら英語で行う試みを始めた。繰り返し、ゆっくり話すことで理解はできるし、文型の定着も英語のほうがよいようだ。(中学)

(2) 入試対策のリィーデングの授業で、意味の通じない日本語訳をして平気な生徒がいる。意味の理解を日本語訳だけに頼るのをさける方法を模索中。(高校)

(3) 中間テストの平均点(63点)が、年度当初の実力テストの平均点(42点)より高かった。テスト問題がやさしすぎたという批判もあるので、テストの信頼度を高めたい。(中学)

(4) 中学3年生のクラスで英語嫌いが多い。1.2年生の復習も組み入れた授業を4月から実施している。英語嫌いが減り、成績も向上の傾向にある。継続したい。(中学)

(5) 教科書の音読ではカナを頼りにする生徒が多く、リズムやイントネーションに注意しない。良いモデルを示し、練習時間を増やして効果を見たい。(中学)

発表後、質疑応答があり、それをまとめる形で佐野がコメントとアドバイスをした。また、大学院生の進めている「ミニ・AR」を例に、ポイントを説明した。

5) 本格的なARの例(講義とビデオ)

質疑の中で出てきた「仮説の設定と改訂」の問題を中心にして、『アクション・リサーチのすすめ』p.93-127 にある奥山教諭のAR を解説し、仮説の設定の際の留意点、それが上手く作用しなかった場合の対応と改訂に焦点を当てて説明し、改善後の授業ビデオの一部を見た。その後、グループで奥山教諭の実践から学びたいこと、質問などを交換しあい、グループで解答が出なかった問題については佐野に質問した。

6) まとめ

この日のゼミを振り返り、強く感じたことを一言ずつ発表してもらった。好意的なコメントが多く、「むずかしいものだと思っていたが、やる気になった」「これを期に、取り組んでみたい」「現在も上手く行っているが、さらにレベル・アップを図りたい」などの意見があった。次回は、「ミニ・AR」の発表を用意するように告げて、閉会した。

(配信日 2008/11/15)