2.5. 練習段階-2

AR支援ネットワーク通信(11) 「練習段階―2」 横浜国立大学名誉教授 佐野正之

■はじめに

練習段階のまとめは、「ミニ・AR」の発表と、これからはじまる本格的なリサーチの概要を設計することです。特に、ARS@MUの場合は、この後は夏休みがあり、次回の研究会は9月末になるので、夏休みの間にリサーチする問題に関連する本や論文を少しでも読んで、理解を深めてもらうことが大切です。特に、事前調査は、できる限り早目に実施したほうが実践の期間を長くすることができるので、成果が出やすくなります。そこで、練習段階-2としては、本格的なARの事前調査の方法について解説することにしました。

■活動内容

1)ミニ・ARの発表

当初は2つのグループに分かれて発表の予定でしたが、当日は校務や他の研究会とのバッテングで欠席者が多かったので、ひとりずつ全体の前で発表し、質疑の後、佐野がコメントするという形にしました。以下、発表のタイトルと佐野のコメントの概要です。

(1) タスク活動を利用したアクション・リサーチ(高校)

タスク活動は、「タスクが達成できたか否か」で評価するのが普通だが、このリサーチでは、個々の生徒に目標を設定させ自己評価の規準にするだけでなく、それを集めて授業全体の成否も判定しようとする視点が興味深い。本格的なリサーチ(AAR)の課題になる。

(2) 通信制高校でのアクション・リサーチ(高校)

クラスとして機能しない状況でのリサーチを、教師が事態をどのように認識し、対応策を立ててゆくかという視点で捉えていて興味深い。AARの課題として継続すべき。

(3) 自由英作文の白紙を減らすにはどうしたらよいか(中学)

先生が意識的に実践しておられる「ほめること」はとても大切である。中間層の成績が上昇していることも実践の正当性を裏づけている。AARとして継続を勧めたい。

(4) 定期考査の平均点を上げるにはどうしたらよいか(中学)

Dictation や音読も成果を上げているようだが、英語力の基礎は単語であり、それを自動的に理解することが不可欠なのでlistening も忘れないように。AARとして可能。

(5) 英文和訳の効果的な指導法:入試を踏まえて。(高校)

一部の大学入試を除いて、和訳よりも別の方法で理解をチェックすることが多いのではないか。和訳にこだわらず、「読解力を伸ばす」という視点からAARにしたら?

(6) 活気のある音読活動を行うにはどう指導するか。(中学)

カタカナに頼る生徒には、さしあたりそれを許し、慣れたら英語だけを見て読むことを目標として選ばせ、自己評価させたらどうか?AARとして可能。

(7) フォニックスの利用によって効果的な音読指導ができないか。(高校)

フォニックスの指導は、生徒によっては効果がある。だが、「あんな発音になりたい」と思うモデルを示し、自分の発音との差に気づかせ(ビデオでとって後で見せる、ALTとの会話を録音するなど)、気付きを大切にしたらどうか?AARとして可能。

(8) 効果的に語彙を習得し、話すことに対する抵抗感を軽減するにはどうするか。(中学)

「語彙の習得」と「話すこと」のいずれをリサーチの中心にするかを決める。「話すこと」の中で「語彙指導」を考えるなら、自己表現のための語彙をどう指導するかが中心になるだろう。AARとして可能。

(9) 語彙や基本的な文法を定着させ、自己表現力を伸ばすには? (中学)

自己表現力を「書く力」でみるのであれば、最終的な目標として、何語程度の文章を書けるようにすると数値的な目標も現状から判断すれば、本格的なリサーチになる。

以上の発表は、「ミニ・AR」と言いながらも、受講者の中では本格的なリサーチの一部という意識が強かったようで、そのような構想での問題発見だったようだ。

2) 講義:事前調査の方法

事前調査は、現状把握のためだけでなく、そこで出た結果とリサーチの事後の結果と比較してARの効果を論ずることが多い。逆に言えば、最後にどのような結論を出したいのかリサーチの目標や評価の方法を意識して、事前調査の調査項目を定めることが大切。

*観察も、目標を意識して、観点を絞って、複数回調査しデーターを集めることが大切。

*アンケートは原則4択にする。「どちらでもない」という回答を避けるため。

*クラスの何割が、どの程度の変化を示すことを期待するか、到達目標を設定しておく。

*リサーチ後の生徒の期待される変容(教師も含めて)をイメージして目標を設定する。

3) リサーチ設計の個人的アドバイス

各自が自分の問題をリサーチ・シートに記入し、その途中で困ったことがあると、佐野のところにきてアドバイスを求めた。7割方の受講者が一応の計画ができた。

4) まとめ

4月からのARS@MUに参加して、どのような意識の変容があったか発表した。

*目標を設定し予測を立てて、いろいろな工夫を試すようになった。

*この会でいろいろな先生と話すことで、自分なりの進む道が見つかったように思う。

*1ヶ月に一度、こうして集まったり、発表したり聞いたりしていることによって、日日の授業を振り返ったり、生徒一人一人をより注意深く観察するようになった。

*自分の目の前の課題に対して、ポジティブに考えられるようになった。「自分にもできそうだ」と佐野先生に思わせてもらえたように、生徒にもそういう思いをさせて上げられるような手法や声かけをしていきたいと思っている。

など、好意的な意見が大部分であった。夏休みに課題を見つめることを期待して終了した。

(配信日 2008/12/01)