これまでの5回の「通信」では、ARを研修に取り入れる際に、指導主事が知っておかなければならない基本的は知識を説明してきました。前回紹介した読者のコメントから判断すれば、「通信」は共感を持って受け入れられているようで、嬉しいことです。また、私への個人的なメールにも、「いままでなんとなくやっていた研修のねらいが、クリアになりました」「先生の通信を受講者にコピーして読んでもらっています」「先生のアイデアで研修を少し変えてみたら、受講者の反応は積極的です」などの意見をいただいています。
しかし、一方では、「ARを研修に生かすとなると、どのような活動を、どう解説し、どうまとめるか不安で、まだ、研修に生かすまでの自信がない」という意見もありました。そこで、これからは「通信」の第2部として、5-6回に渡り、研修の立案と実施の際の留意点を説明することにいたします。また、第3部では、読者から寄せられる質問に答えたいと思っておりますので、疑問に思っておられることや、不安な点など事務局にお知らせください。
この部分は、私が4月から、愛媛県の中・高校の先生約20名にお集まりいただき、月1回の割合で実施している「アクション・リサーチゼミ@松山大学」(ARS@MU)での実践がもとになっています。このゼミは、希望者を対象に長期的に開催するという点で、指導主事が実施されている研修よりも恵まれていて、内容が盛り沢山です。ですから、必要に応じて、選択・改訂して利用することが大切です。さて、研修計画の立案の際の留意点して点は、次ぎの3つがあります。
(1) 受講者はどのような人で、何を目的に参加しているか。研修目標をどう設定するか?
(2) スケジュールの大枠の設定と、成果の発表をどう確保するか。
(3) 毎回の研修に典型的な活動パタンをどのように定めるか。
以下、上記の3点を、まず、一般化した形で説明し、最後にARS@MUの年間計画を紹介しますので、参考にしてください。
初任者研修と10年次研修では、受講者のニーズが異なるのだから、当然、目標も主たる活動も異なるべきだということは、第1部で説明しました。どのような研修でも、受講者の実態把握と適切な目標の設定は研修計画立案の最初に行はなければなりません。
実態把握で大切な点は、(1) 授業力: 英語指導の経験年数。教授法の知識や技量 (2) 授業改善力:アクション・リサーチの知識や経験 (3) 研修への思い。研修に何を期待しているか。などです。(1) については、経験年数を基準に、後は活動の様子を観察して推測します。(2) (3)については、研修の冒頭のアンケート調査の結果をもとに、こちらで想定していた活動や解説の内容を手直しすることで対応します。
一方、目標設定では、個人的な授業改善力を伸ばすことを目指すのか、学校や地域でのリーダーとして、他の教員をも巻き込んで協同での授業改善を図る力の育成を目指すのかという違いがあります。ただ、後者には前者の知識や能力が不可欠ですから、ARが始めてという人には、当初は 個人的な授業改善力を目指すことを指導し、それを同僚にshare することによって、次第に協同でのARを進める力を伸ばすように励まします。
ARS@MUの参加者の場合は、教員経験年数は10年前後で、一般的に授業力は高いが、アクション・リサーチの実践体験はない。将来的には地域や学校での授業改善のリーダーになることが期待される人たちだということが分かりました。
研修では、(1) 導入、(2) 練習、(3) 実践、(4)発表の4段階を設定し、それぞれの段階でのねらいの達成を図ると、全体がスムーズに進行します。ねらいを段階別に説明します。
1) 導入:参加者が互いに知り合い、素直に話し合える雰囲気を作ることが最も重要なねらいです。また、問題解決には、実態からスタートして長期的に追求しなければならないこと、その方法としてアクション・リサーチがあることを理解することも大切です。まず、自己紹介やwarm-up の活動を英語で実施し、気分がほぐれたら、「授業で抱えている問題を話し合い、アイデアを交換しましょう」と提案し、話しのまとめとしてアクション・リサーチを説明します。
2) 練習:この段階のねらいは、講義でアクション・リサーチのプロセスを理解し、モデル演習で理解の定着を図る一方で、ミニ・アクション・リサーチで自分の抱える問題の中ですぐに解決ができそうな問題を選んで、1-2週間、実践して、その成果を互いにレポートすることで、アクション・リサーチの可能性を信じる気持を起こさせることです。最初から、大きな問題解決に向かうと、挫折してしまうからです。
3) 実践:3-4ケ月程度かけて、直面する問題の解決に取り組む段階です。リサーチの各段階で、しなければならないことを十分に理解した上で取り掛かることが必要です。リサーチの途中では、こまめに生徒の様子や自分の気付きを記録すること、2週間しても期待した成果が出ないときには、対策(仮説)を考え直すことも必要です。
4) 整理と発表:せっかくの実践も、整理の仕方が混乱すると、聞き手にリサーチの良い点が伝わらないことがあります。それを避けるには、前に書かれたレポートを参考にすることも大切ですが、リサーチで意図したことを再度定義しなおして明確にし、それに関係ない記述は切り捨て、要点を焦点化して、具体例を入れて記述することが必要です。
英語授業に典型的なパタンがあると、生徒が授業の進行に安心してついてゆけると同様に、毎回の研修でも目標を明確にすると同時に、全体に共通するパタンがあると、安心して活動に取り組めるものです。この点は、次回以降に紹介するARS@MUの活動案を参照してください。
次回からの「通信」では、ARS@MUの段階ごとの活動内容をお知らせします。
(配信日 2008/09/15)