2.2. 導入段階-1

AR支援ネットワーク通信(8)「導入段階―1」 横浜国立大学名誉教授 佐野正之

■はじめに

前回はARの研修立案の際に考慮すべき点をあげ、研修全体を導入、練習、実践、整理・発表の4段階に分けてねらいを設定し、それぞれのねらいを実現するために活動を考えると計画が立てやすいと説明しました。今回は、ARS@MUでの実践をもとに、導入段階の活動例を紹介します。実は、この初回は、身内の仏事と重なり私が欠席するはめになり、当日は私が事前に作成した活動案をもとに、金森先生に進行をお願いしました。以下はその際の様子をまとめたものです。

■活動内容

1. 歓迎の挨拶と研修会の趣旨(金森先生)

(概要)アクション・リサーチは日本ではまだ教育現場に定着していないが、欧米では教員養成や現職教育ではごく普通に用いられている方法なので、これを機会に習得し、授業改善を図ってほしい。ARは一見単純だが、独力では習得し難い部分もあるので、これを機会に、佐野先生や仲間と一緒に勉強し、かつ実践して欲しい。1年後に、皆さんがどのような変化をとげるか楽しみである。

2. 英語での自己紹介とwarm-up の活動

まず、ワークシート(Getting to know each other)

を配布し、以下の質問に回答を用意する時間を与えたのちに、対話をペアを変えて何回が実施した。対話では、挨拶や自己紹介も加えて、eye-contactはもちろん、微笑んだり、うなずいて同意を示したり、短い質問を挟むなど、「コミュニケーションを効果的にする方法」にも注意を喚起し、情報の交換だけでなく、人間関係の深まりも重要であることに気づかせた。その後、4人グループに分かれ、活動の振り返りを日本語で話し合わせた。

1) The things I enjoy about being a teacher are:

2) My main qualities as a teacher are:

3) I like learners who :

4) At the end of a class I usually feel:

5) If I weren't a teacher, I would like to be a/an:

(James, P. 2001. Teachers in Action: Tasks for in-service language teacher education and development . CUPからの引用)

話し合いでは、英語での対話は日本語以上に互いに親しみを感じやすいこと、また、ユーモアのある情報交換が、仲間意識の向上に役立つこと、こうした対話は生徒にも体験させることが必要だと気づいたなどの意見があった。話し合いのねらいは、開放的なムードのなかで、自由な意見交換に慣れることがねらいなので、内容に関する批判的なコメントはしないことが大切である。

3. アクション・リサーチの体験談

昨年度から、「困難校で英語学習への意欲を引き出す」というARに取り組んでいる院生がいるので、中間報告としてARの苦労と喜びを語ってもらった。その後、質疑と話し合いの時間をもった。この活動のねらいは、ARは生徒の英語力の向上だけでなく、教師の意識改革にも必要だということを認識してもらうためである。ともすると「ARは新しい教授法だ」と誤解したり、「正解」を講師が与えてくれることを期待し、自分で解答を見つけ出そうとしない人がでるからである。ARに唯一絶対の解答はなく、教師の数だけ具体的な対応策があることを認識させることが必要である。

4. グループ・デスカッション

英語教育の専門家の一部にも、「ARは多忙を極める現職の教員には無理である」という主張がある。それを論じた研究紀要の一部をコピーして、グループでデスカッションをしてもらった。要は、アクション・リサーチは科学的な論文を書くためではなく、教師が抱える問題の解決を系統的、持続的に追求することなのだから、方法はいろいろあってよいのだが、プロの教師なら必ずしなければならない活動であり、また、行うことで利益もあることに気付くことが活動のねらいである。

5. まとめ

最後に今回の研修について、ひとりずつ感想や気付きや講師への要望を書いてもらった。「アクション・リサーチとはずばり何なのか、もっと、明確に告げて欲しかった」という意見もあったが、「教師は確かに多忙ではあるけれども、アクション・リサーチをやらなくてはいけないと思う。そうしないと、自分も楽しく授業をすることができないだろう。また、することで、他のことも改善されると思う」とか、「無意識のうちにすでにアクション・リサーチのようなことをやっているかもしれない。というのは、アクション・リサーチは要するに、生徒を理解し、自分の授業を振り返り、展開を考え直し、自分自身の反省をすることだから。気づくこと、振り返りの重要性を改めて認識した。他の教員にも授業を見てもらい、意見を聞くことも大切だと思った」などの前向きな意見が多かった。

6.金森先生の授業改善の工夫

金森先生が大学で実施されている、視聴覚教具を利用した授業改善を写したビデオを見せてくださった。話しを聞くだけでなく、視聴覚に訴える方法は、教員の研修でも有効である。マイクロ・テーチングなども含めて、研修内容を日日の授業にどう生かすかという視点は、毎回の計画を立てるときに留意すべき点である。

(配信日 2008/10/15)