3.12. 校内研修8回目:はじめての校内研究授業

小学校外国語活動(12) 「校内研修8回目:はじめての校内研究授業」

横浜国立大学名誉教授 佐野正之

■はじめに

昨年の秋からの校内研修で外国語活動のねらいや指導方法を学習してきたので、はじめて外国語活動を指導する担任もそれぞれの研修内容に対応して、部分的には外国語活動の授業は実施してきた。しかし、6月当初に調査を実施したところ、1授業時をまるまる使用した英語活動を実施した者は、外国語活動初体験の教師にはいなかった。そこで、6月中にはかならず一授業時間を当てた外国語活動を各自が行い、また、学年で1名が研究授業をして、保護者や他の教員にここまでの成果を公開することを約束した。また、そのための基本方針を以下のように定めた。

■基本方針

1. 活動内容は、『英語ノート』を基礎にして決定する。

通常の外国語活動なら、『英語ノート』にない内容でも、児童が積極的に参加する活動を取り上げるべきだが、保護者や他の教員に公開し、今後の参考にしてもらうということを考えると、『英語ノート』の内容を児童に会うようにアレンジして利用したほうが理解が得やすいし、教師側の準備もしやすい。また、学年の間の連携もスムーズにゆく。ただし、『英語ノート』をそっくりは実施しようとしてはいけない。そっくり実施すると、つい『指導の手引き』に引きずられて、使用する英語のレベルや活動内容が児童の実態とそぐわないことになる。そればかりでなく、「外国語活動は教科書を中心に行うもの」という誤った認識を与えかねない。あくまでも「児童中心」という視点を忘れないためにも、できるかぎり児童の生活から、『英語ノート』の内容と重なりあう題材を見つけ出して利用する姿勢を維持すること。

2. 一授業時間の構成をパタン化する。

理想からすれば、それぞれの授業目標に即した構成があるはずだが、教師が指導手順を間違って行き詰まると、それが児童に反映し混乱を起しねない。授業の流れのコントロールが十分とは言えない今の段階では、一定のフォーマットに沿って(もちろん、多少の離脱は構わないが)教案を作成し、それにならって授業を行うことにした。具体的には、次ぎの案を原則とした。

(1) 挨拶。教師とクラス全体。児童同士の挨拶。

(2) 既習の歌。合唱や輪唱。できれば動きも加えて。

(3) 既習のゲームや対話などの活動。内容的には本時の活動に連動する復習。

(4)活動の中心部。 新しい活動の導入、練習、まとめの言語活動。

(5) 活動の評価(児童の自己評価、教師やALTのコメント)

(6) 歌と挨拶

パタン化することで教案作成のエネルギーが大幅に削減され、その分、指導内容の吟味や練習に時間を割くことができる。今の段階では、ユニークが授業展開を求める必要はなく、あくまでも指導法を教師と児童が両方で学びあう場面だからである。

3. ALTの援助のない授業を行う。

藤沢市ではALTの数がまだ少ないこともあり、ALTとのteam-teaching の機会はもともと少ない。また、不慣れなうちにteam-teaching を行うと、ALTに授業を「丸投げ」することになりかねない。外国語活動は、たとえ、英語がたどたどしくとも、担任が中心に実施してこそ意味がある。担任がALTに依存すれば、自らの成長の機会を奪うことにしかならない。

一方、担任が児童の保護者に呼びかけ、授業参観もかねて授業に参加してもらうSupport teachers は、多いに活用する。その場合でも、英語が堪能な保護者に依存することなく、それぞれの保護者の個性を上手に活用することを考える。

■研究授業までの準備

1. 教案の下書きは授業担当者が作成する。

クラスの実態が分かり、これまでの積み重ねの上の研究授業だから、どのような内容を中心に活動を組むか、どのような歌やゲームを児童は体験しているかを考え、教案の原案は担当者が作成した。5学年も6学年も、それぞれ外国語活動に不慣れな人を選び、その人の活動を支援するという視点から授業者を選定していた。

2. 授業案を学年で協力して完成する。

研究授業は、「私たちの学年は、このような方針で外国語活動を実施してきました。方針や活動内容や指導法についてのご意見をお聞かせください。振り返りの材料にします」という姿勢で望むように指導した。だから、教案は授業者が作成した原案をもとに、学年で検討してまとめ、その後私のアドバイスを聞いて改訂すべき点は改訂した。学年の意見と私のアドバイスが一致しない点は、学年の意思を尊重した。研究授業の前には、学年の他の担任が児童役になり、模擬授業を一度は実施してから公開に臨むように指導した。どの学年も、互いの授業参観を積極的に行うなど、それ以上の協力をして進めた。

3. 教案に関する講師のアドバイス

最初の公開授業は、水泳で言えばプールで25メートル泳ぐ検定試験を受けるようなもので、成功すればその後の成長は保証される。逆に、失敗すれば、本人はもちろん、児童にとってもマイナスのイメージが付きまとう。だから教案に関するアドバイスのポイントは、まず、時間配分も含めて、授業が最後まで流れて目標の達成が可能なように構成されているかを見ることである。そのための第一条件は、児童になじみの深い歌やゲームから開始し、かつ「まとめの活動」に繋がるものを選択することである。「主活動」の扱いも、その授業ではじめて行うのではなく、導入、練習の活動は事前の授業でも扱い、本時では軽く触れれば十分なほど準備しておいて、「まとめの活動」で一機に盛り上げて終わるよう構成する。盛り上げるには、教師対クラス、教師対班、教師対モデルの児童、児童同士、児童同士でペアを変えての活動というように、組み合わせに変化を持たせて、同じ内容の活動を相手を変えて繰り返し実施する。この段階では、他の人の見ている前で「立派に外国語活動ができた」という成功感を教師にも児童にも与えることを第一にすべきである。

4.教師の使用する英語

挨拶や誉め言葉などは別にして、この段階で教師に教室英語を多用することを求めるべきではない。むしろ、日本語で活動の仕方を十分理解させてから活動に入る注意が大切である。その一方で、教師も児童も、始めての見学者を前に緊張することが予想されるので、まず、教師と児童の挨拶の後、”Today, we have many guests. Go and welcome them!”という教師の指示で、児童は”Welcome to our class. My name is Hanayama Taro. Nice to meet you.“と参観者と挨拶を交わす練習は事前に実施しておいた。この活動で、教室内のムードは柔らかくなる。これは「やらせ」には違いないが、外国語活動の精神からYou are welcome!と言える児童を育てることが大切なのだから、授業本来の目標に合致した活動だ恥ずかしがらずに堂々と実施するようにと説いた。

■研究授業当日

1.開始前のアドバイス

まず、事前に授業に必要な資料が全部そろっているかをチェックすること、また、授業計画の8割が実施できれば成功だから、ゆっくりと、児童の様子を見ながら授業をすることをアドバイスした。どうしても緊張して、必要な教材を忘れたり、早口になってしまいがちだからである。逆に、授業がスムーズに進みすぎて時間が余った場合には、評価の時間で個々の児童に発言の機会を与えたり、最後の歌の時間を長くして対応するように指導した。同時に、「学年の先生たちも、私も応援しているから」と励ました。丁度、試合に臨む選手をコーチが励ます要領である。

2. 授業開始後も必要に応じて応援

どうしても教師も児童も緊張し、声が小さくなりがちになる。学年の教師は、児童と一緒に英語で挨拶したり歌ったりして、声を出してムードを盛り上げる手助けをしたり、問題を抱えた児童の対応に当たったりして協力してやることが大切である。「研究授業なのだから、手を出してはいけない」などと、この段階では考えるべきではない。協力して授業を成功させてこそ、次ぎの展望が開けるのである。

3.事後研究

授業後に行われる事後研究では、外国語活動に批判的な人から、いやみのコメントが出されることも予想される。そのような場合は、まず、講師が授業者が最後までやりとげたことを高く評価するコメントを出す。途中で順序が計画と異なったり、英語の発音が間違っていたとしても、とにかく外国語活動の授業をやり通せたことが大切なのである。水泳でいえば、途中で多少水を飲むような場面があっても、25メートルを泳ぎ切ることがなによりも大切なのと同じだからである。

その後、授業の目標に対応して、児童の動きや教師の行動の良かった点を参加者に指摘してもらう。その後、質問の形でちぐはぐが見られた点を指摘し、今後の方向性を共に考えるという進め方をする。それでも批判する意見が出だり、英語の誤りや発音の不完全さについての指摘がなされることもある。そのような場合は「大切な指摘をいただいたので、今後、みんなで検討し、勉強していきたい」と答えるに留め、授業者の責任を追及することはあってはならない。

幸い、5年生も6年生も、授業観察に来た市の指導主事も驚くほど、見事な授業でとても初心者の授業とは思われなかった。これも研修と協働の成果だと関係者一同で喜びあった。5年生と6年生の担任に関しては、これで一応の外国語活動の授業の理解と自信はできたと判断できる。

だが、講師の立場からすれば、問題がなかったわけではない。教師の英語使用や英語の発音をもう少し改善することと、児童の成長のみとりをより正確に行う評価に課題が残った。次ぎは、秋の研究授業に向けて、さらに効果的な外国語活動の授業力を伸ばす研修を続けたい。

(配信日 2009/11/15)