■はじめに
いよいよ「アクション・リサーチの進め方」に関する支援メールも終わりに近づいてきました。今回は、レポートのまとめ方と発表会の持ち方を説明します。レポートにまとめるというと、「ARの目的は自分の授業改善にあるはずだ。だったら、結果は自分が承知していれば十分で、発表会など必要ない」と主張する人がいます。しかし、結果はぜひレポートにまとめて公開すべきです。そうすることで、発表者は自分の実践を最初から最後まで通して振り返り、考えを整理する機会になります。また、意見交換することで、外の視点から成果を見直すことにもなるからです。一方、聞き手にとっては、問題に取り組む手法が参考になるばかりでなく、授業改善に熱心な教師の姿に勇気づけられるからです。昨年、ARS@MUで開催した交流会は、他の地域からの参加者との交流が大きなインパクトを与えました。これを機会にARを開始した人も出てきました。ただ、報告会を成功させるには、それなりの知識が必要です。レポートのまとめ方と、報告会の持ち方を説明しましょう。
■レポートのまとめ方
1) 時系列で、「自分と生徒達のドキュメンタリー」を書くつもりで書くこと。
まず、肩肘を張らず、自分と生徒達がたどったARの月日を、最初、真ん中、終わりを意識して、一連の流れとなるようにまとめます。
(はじめ)クラスはどのような様子だったか。教師は?どのような方法で現状把握に努めたか。その結果、何が分かったか。対策は何か。複数か単数か。なぜ、それが効果的だと考えたか。参考にした論文や先行研究があったか、など。
(真ん中)対策をどのように実行したか?生徒の反応は?行き詰まったとき、どのような改善を加えたか。いつ効果が出始めたか。効果を判定した基準は?授業記録や生徒のコメントは?次ぎの対策はどうしたか。期末テストの成績は?困難をどう乗り越えようとしたか。
(終わり)事後調査のアンケートやテストのまとめ。結局、生徒はどう変化し、教師にはどんな気付きがあったか。クラスはどう変化したか。それをどう評価するか。今後の指導の留意点、などを聞き手や読み手に分かりやすく、整理してまとめることが必要です。
2)主語を「私」とし、生徒との対話ややりとりを丁寧に、具体的に記述すること。
「私」の考えや気持や行動が、生徒とのやりとりで、どう変化し、クラスがどう変ったか。英語力だけでなく、教師や生徒の認識の変化も、授業記録やアンケートや授業中の対話、生徒のつぶやき、行動などから分析し、プラス面だけではなく、マイナス面も記述するようにします。
3) 結果だけでなく、プロセスを大切に記述すること。
「調査」では結果に意識が行きがちですが、ARではプロセスが大切です。事後調査の結果も、今後も続く授業改善のプロセスの一断面にしかすぎないからです。また、結果の評価もプロセスを踏まえなければなりません。ですから、途中の記録が大切なのです。
4)結論を一般化しようとはしない。
一つのARの結論を、どこにでも通用する事実だと考えると誤りになります。レポートをまとめる際の大切な留意点です。では、ARは個人的な実践に終わるのかというと、決してそうではありません。他の人がレポートに接したときに、「ああ、これは自分の状況と類似している。なるほど、このようなアプローチをとれば、クラスの様子も改善できるかもしれない」と考えたとすれば、その教師との間には一般化が生まれているのです。ARの一般化は、レポートの結論に明示するのではなく、読み手が実践に共感したときに自然に生まれてくるものなのです。そのためにも、できるだけ分かりやすく、具体的な記述に心がけなければなりません。
■発表会の進め方
発表会は時間的な効率化を計り、また、聞き手を受身にしないためにも、ポスター・セッションを応用した方法で行うことを薦めます。具体的な手順を説明しましょう。発表者が20人いるとすると、まず、4人ずつ5グループに分けて、グループごとに座らせます。
(1) グループ内でジャンケンで順番を決め、司会者の合図で一人づつ資料を見せながら発表のリハーサルをする。発表時間は10分、話し合いを5分に固定し、司会者の合図で発表者は一斉に交代する。話しあいでは、発表の興味深い点や、もっと説明が欲しい点、また、プレゼンの仕方なども助言する。リハーサルの最後には、グループ内の発表順に、発表者の氏名とタイトルを版書するなどして公示する。
(2) 司会者の合図で、最初の発表をグループの固定した場所で始める。だから、発表は5箇所で同時に進行する。聞き手は必ず他の班の発表を聞く約束で、版書されたタイトルを見て、興味がある発表を聞きにゆき、意見交換する。また、用意された紙に簡単なコメントや質問を書いて、発表者に手渡す。
(3) 次ぎの合図で、2番手の発表者が指定されている班の場所に戻り、集まった人にARを紹介し、意見交換する。3,4番も同様に進行する。
(4) 最後にもう一度最初の班に戻り、ARの実践や発表会から何に気付き、どのような意識変革があったか、次年度は何を大切に授業を進めたいかを話しあい、全体に紹介する。
(5) 各自がARの内容をA4一枚にまとめ、また、上記の振り返りを書いてレポートする。レポートは印刷して共有財産にする。
(ARS@MUで発表されたARや振り返りのレポートのいくつかを次回に紹介します)
■発表者と聞き手のルール
(1) 発表者のルール:あくまでも聞き手にfriendly であれ!
*聞き手は仲間だから、奇麗ごとではなく真実を発表をする。ただし、秘密の暴露や個人名など、プライバシーの侵害にならない配慮は必要である。
*時系列で、実際に起きたことを、失敗や落ち込んだことなども含めて素直に報告する。整理された資料だけでなく、ビデオ、写真、作品、コメントなども含める。
*観察できる事実だけでなく、教師の認識や生徒の様子の変化なども報告する。
*聞き手の参考になる文献や資料は積極的に紹介する一方で、専門用語や統計的な処理は最低限にとどめる。
*聞き手と一緒に実践を振り返り、新たな可能性を探る姿勢で話しあう。
(2) 聞き手のルール:発表者や参加者にfriendly であれ!
*発表の中で学校や個人の機密に関わる部分があったら、それを外部に漏らしてはならない。逆に、似た体験があれば、体験談を報告者や他の聴衆に語る。
*「参加者全員が発展途上の教師である」という姿勢を忘れず、苦労を肯定的に評価し、共感的な理解を心がける。
*正答は一つという発想から自由になり、実践から共に学ぶ姿勢で話しあう。そのためには、見解や意見の論争を避けなければならない。
*質問や自分の体験談やアドバイスを与えるときは、穏やかな口調で微笑みを絶やさずに行う。
*参加している全員が、発表会に積極的に関りながら、友好的なムードの中で問題の探求が行われるよう協力する。
(配信日 2009/04/01)