■はじめに
アクション・リサーチを成功させるには、協働が不可欠です。その第1の相手は教えている生徒です。これがなければARは不可能です。次が同じ学校の同僚です。一緒に問題に取り組むなかでの学びあいが、仲間意識を高かめ、学校全体がリサーチに前向きで開放的な雰囲気に変える可能性があります。また、ARを一緒に進める仲間との意見交換によって、自分の考えが明確になったり、見逃していた点に気づいたり、新しいアイデアを得たりして、personal theoryから脱却し創造的に考える姿勢が高まります。ですからこの稿では、生徒との協働と同僚との協働を考えてみましょう。
■生徒との協働
できるだけ早い段階で、生徒に自分が進めようとしているリサーチのねらい、実施の理由、望まれる成果、生徒に期待することがらなどを話して、協力を得ることが大切です。生徒を「調査対象」としてではなく、「共同研究者」として位置づけ、教室で起きている問題の解決に教師と一緒に立ち向かって欲しいと訴えるのです。
しかし、あまりに突然にリサーチと言い出しても、生徒が警戒心を抱くのではないかと不安に思うときもあります。そのときには、最初は生徒の慣れ親しんだ形の授業を進めながら、その中に自分が試みたい活動で生徒が興味を持ち、教室の雰囲気が良くなる可能性の高い活動を選んで小出しに授業に取り入れ、生徒の反応を観察します。そして、クラスが教師のアイデアを受け入れる姿勢が見えてきたら、生徒と相談しながらリサーチの目標を設定し、約束事やスケジュールなども話しあい、リサーチに取り掛かります。
なぜ、生徒との協働がそれほど重要なのでしょうか?まず、生徒の意見を聞くことで、いままで気づかなかった自分の教え方の偏りや欠点が見えてきます。自分では「生徒のため」と思い込んでいたことが、実は、生徒には意味がなかったり、「分かっているはず」と思い込んでいたことが、実は、生徒を英語嫌いにしていることに気づくことがあるからです。Personal theory を見直し、気づきを生む機会になる。それが第1の理由です。第2の理由は、生徒こそが、教師を写す鏡だかです。新しい試みには、教師は不安を感じるものです。しかし、生徒の喜びの笑顔や、生き生きと応答する声が教師に勇気を与え、指導に自信を与えてくれます。そして、生徒理解の前提に立って努力すれば、生徒は自分の最大の味方だと気づき、さらに指導力向上の意欲が沸いてくるからです。
だが、「教師が自分の調査に生徒を巻き込んでよいのか」という質問がときどきあります。まず、アクション・リサーチは単なる調査ではありません。生徒と力を合わせて授業改善する試みです。その中で、教師は授業力の改善を目指すのは当然ですが、それと同時に、生徒もまた、自分なりの目標を立て、生活態度や勉強方法を見直すのですから、リサーチに参加することは、自律的な学習者に成長する助けにもなるのです。ですから、生徒にとって意味のあるリサーチを設定することが重要なのです。
■同僚との協働
同僚と共に進めるCollaborative Action Research がアクション・リサーチの本来の姿です。協働することで、より深い省察が可能になること、また、リサーチに前向きな環境づくりに役立つことはすでに述べました。実際、アクション・リサーチを実践した人たちの感想からも、「いろいろな人と率直な意見交換ができて問題が明確になった」「同じ問題を抱えて人の存在を知り、勇気づけられた」「アイデアがなくて困っていたときに助けられた」などのコメントが沢山聞かれます。
しかし、同僚との協働が大切なのは、リサーチを進める上で協働が役立つというだけではありません。同じ問題を抱えた人たちが、異なる環境にも関わらず同じような結論を得たならば、その結論はかなり「一般論」に近いものだといえます。また、それをさらに拡大して行けば、同じ問題を生む文脈、学校や地域や社会の問題発見につながり、また、解決のためにすべき方向が見えてくるはずです。そのことによって、地域社会との協働の道も見えてくるのです。
だが、実情は、これほど楽観的ではありません。協働どころか、ARの実践そのものが反感を持って迎えられることがあります。こうした反感は、多くの場合、自分と向き合うことを恐れ、欠点を暴かれることを嫌う人たちが、リサーチを自分の存在を脅かすものと感じてしまうから発生するのです。このような場合は、まずはひとりで実践を始め、成果をさりげなくshare することによって、気長に仲間を増やしてゆくことが大切です。そして、教材をshareしたり、授業観察に誘ったりします。その際の留意点をまとめてみます。
■授業観察の留意点
1) 事前に授業者の学校やクラスの置かれている状況を理解した上で、観察する授業はリサーチのどの過程にあるのかを承知しておく。また、自分なら同じ状況でどのような授業を計画するか想像してみる。 (配信日 2008/09/15)
2) 授業者との事前の打ち合わせで、観察者に求められている課題を理解する。仮設の変更のためのヒントなのか、実践の妥当性を検証するためなのか。また、より具体的に、特定の問題を抱えた生徒に注目するのか、グループ活動への参加の様子なのかなど。
3) 観察のポイントは、授業者が求めるものによって異なるが、たとえば、「リサーチの妥当性の見極め」が課題だとすれば、時間配分、指導手順、説明と質問のバランス、教師の活動と生徒の活動の割合、活動への生徒の取り組み、自発的な発話や行動、評価方法などの視点で観察し、気づいたことをメモしておく。
4) 観察後の会合では、まず、優れている点を挙げて授業者に自信を持たせる。実践がリサーチの狙いからそれていると思う場合には、批判的な評価としてではなく、狙いが
実現するために改良すべき点を、具体的な代案をヒントとして提案する。
(配信日 2009/02/01)