2012 jeARn 第2回 全国大会(横浜)

≪大会テーマ≫ 人と関わり、協働するアクション・リサーチをめざして

≪あいさつ≫ jeARn代表 佐野正之

日本の外国語教育は今、大きな転換期にさしかかっています。小学校では外国語活動の必修化に伴い、質の向上や小中の連携が求められています。中学校では週4時間体制の中で、総合的な言語活動を通じて確かな英語力を習得させることが、また、高等学校では授業は英語で実践し、国際社会を生き抜くコミュニケーション能力を育成することが喫緊の課題となっています。いずれの課題も、一人の教師の努力だけでは対応できるものではなく、学校や地域全体で協力して授業改善に取り組むことが必要です。また、そこで得られた経験知を広く全国的に交換し合い、励まし合いながら授業改善を進める協働的な実践的研究の構築が期待されています。

このための情報交換と協働を確実なものにするため、私たちは平成22年10月にアクション・リサーチ全国大会を横浜で開催し、山形、高知、三次、松山、佐賀など全国のよりよい授業をめざす仲間たちとともに「日本教育アクション・リサーチ・ネットワーク(JapanEducationalActionResearchNetwork:略称 jeARn)」を起ち上げました。続いて平成23年11月には、松山大学で「jeARn 第1回全国大会」を開催し、小学校の外国語活動から中学・高校の授業改善、教員養成における課題など、今英語教育が抱えているさまざまな問題にアクション・リサーチで解決を探った過程や成果を共有することができました。このように広がりつつあるネットワークをさらに強固で有意義なものにするため、「jeARn第2回全国大会」を下記の要領で開催することにいたしました。

≪主 催≫ 日本教育アクション・リサーチ・ネットワーク

≪後 援≫ 神奈川県教育委員会

≪協 賛≫ (財)日本英語検定協会、開隆堂出版、大修館書店、(株)成美堂

≪期 日≫ 2012年(平成24年) 10月7日(日)

≪会 場≫ 神奈川大学 横浜キャンパス 23号館 2階

≪日 程≫

9:45~10:00 開会行事

10:00~10:45 基調講演 横浜国立大学 名誉教授 佐野 正之

『実践的授業研究とアクション・リサーチ』

~「授業は英語で」に学校全体で取り組む場合~

10:55~12:15 実践研究発表(1) 下記の5テーマで同時発表

1)小学校外国語活動 2)中学校英語

3)高校英語 4)大学英語

5)教員養成と研修

12:15~13:15 昼食・交流会

13:15~14:35 実践研究発表(2) 下記の4テーマで同時発表

1)小学校外国語活動 2)中学校英語

3)高校英語 4)教員養成と研修

14:35~14:50 移動・休憩

14:50~15:15 分科会協議のまとめ

15:20~16:30 講 演 松山大学 教授 金森 強

『新学習指導要領に応じた授業作り-授業改善の視点』

16:30~16:40 閉会行事

≪実践研究発表者≫

1) 小学校外国語活動 ※ 司会 : 粕谷 恭子 (東京学芸大学)

< 実践研究発表(1) 午前 >

押田 彰子・佐々木 真紀 (神奈川県・厚木市立依知小学校)

『児童の学ぶ意欲を引き出す外国語活動 ~意味のやり取りを通して~』

山本 千明 (愛媛県・新居浜市立角野小学校)

『伝え合う力を育む外国語活動の工夫 ~アクション・リサーチの手法を生かして~』

< 実践研究発表(2) 午後 >

吉川 真由美 (神奈川県・横浜市立本町小学校)

『子どもの学びの姿に寄り添って外国語活動を考え直す』

入江 潤 (東京都・明星学園小学校)

『よりよい授業を目指して ~授業づくりの核は何だ?~』

2) 中学校英語 ※ 司会 : 西田 弘栄 (広島県・三次市立十日市中学校)

< 実践研究発表(1) 午前 >

稲垣 久美子 (神奈川県・川崎市立南加瀬中学校)

『コミュニケーションの継続を目指した授業づくり ~質問する力と答える力の育成を通して』

規工川 正德 (神奈川県・綾瀬市立北の台中学校) ・ 岡本 徹 (同県・同市立綾北中学校)

『異学校間におけるメンタリングの実践 -その成果と課題』

< 実践研究発表(2) 午後 >

角濱 慶司 (広島県・三次市立八次中学校)

『グループワークの工夫により談話能力を高める授業づくり

~会話を継続する力を向上させるための試み~』

河合 光治 (神奈川県・相模原市立共和中学校)

『子ども一人ひとりの意欲を育て、力を伸ばすノート指導

~アクション・リサーチの視点から9年間の実践をふり返る~』

3) 高校英語 ※ 司会 : 宮内 朋子 (愛媛県立東温高等学校)

< 実践研究発表(1) 午前 >

峯田 一哉 (山形県立山形工業高等学校)

『苦手意識の克服と学習事項の定着を目指した授業改善 ~工業高校での取り組み~』

安井 理恵子 (神奈川県立城山高等学校)

『生徒の素朴な疑問「どうしたら英単語を覚えられるか?」に答えるために…

~英単語の反復練習と覚え方の導入と工夫~』

< 実践研究発表(2) 午後 >

平沼 宏仁 (神奈川県立鶴見総合高等学校)

『コミュニカティブ・インタラクティブな英語授業実践に向けて

~英語による自己表現能力の伸長を目指して~』

松井 真也 (神奈川県立津久井高等学校)

『段階的リーディングタスクの後の自己表現活動』

4) 大学英語 ※ 司会 : 髙橋 邦年 (横浜国立大学)

< 実践研究発表(1) 午前 >

杉田 めぐみ ・ 丸谷 美紀 (千葉県立保健医療大学)

『保健医療系大学における英語教育のあり方を考える ~国際社会への関心を育てる取り組み』

島本 たい子 (関西外国語大学)

『メディア英語における授業実践報告 ~学習意欲を高め、自律した学習者の育成をめざして~』

5) 教員養成と研修

< 実践研究発表(1) 午前 > ※ 司会 : 太田 洋 (駒沢女子大学)

長﨑 政浩 (高知工科大学)

『アクション・リサーチを支援するメンターの成長と悩み ~学び続ける指導主事たちの記録~』

横溝 紳一郎 (佐賀大学)

『学習者の「伝えたい」という気持ちを引き出す教材と教室活動の工夫 ~内容中心の外国語教育をめざしたアクション・リサーチ』

< 実践研究発表(2) 午後 > シンポジウム

『大学における英語教員養成のあり方 ―現状の課題と改善へのアクションを考える』

髙橋 一幸 (神奈川大学)(コーディネーター)

中森 誉之 (京都大学大学院)

物井 尚子 (千葉大学)

志村 明彦 (慶應義塾大学)

≪参加費≫ 1,000円(資料代を含む) 大学生(学部生)は、500円(資料代を含む)

問い合わせ先

jeARn 第2回 全国大会@yokohama 実行委員会 事務局 市川 昌樹

E-mail: jearn_yokohama@yahoo.co.jp

(ジャーン アンダーバー ヨコハマ @ ヤフー)

(お預かりした個人情報は、大会の運営及び大会に関する連絡にのみ使用いたします)

≪大会の様子≫

全体会です

出版社の方々にもお世話になりました。

部会の様子です。

≪各部会の報告≫

1.小学校外国語活動部会

歩き始めたばかりの小学校外国語活動ほどアクションリサーチが、授業改善のために威力を発揮する場面はないのではないか。今回の大会では、4つの小学校から、実践研究発表があった。

(1)神奈川県厚木市立依知小学校 押田 彰子先生 佐々木 真紀先生

校内研究で外国語活動に取り組んでいる学校である。昨年度「コミュニケーション能力の見取りができなかった」というふりかえりから、今年度は児童の活動をしっかり見とれる授業形態にしたこと、単に音声を暗記させるのではなく、教師と児童の間で意味のあるやりとりを行うようにしたことを報告された。5年生の授業のDVDでは、ペットボトルのキャップをいくつ積み上げられるか、という活動の中で "How many caps did you stack?"という表現が繰り返され、子どもたちが自発的に英語で数を数える様子が紹介された。

(2)愛媛県新居浜市立角野小学校 山本 千明先生

松山大学アクションリサーチ研究会に所属しておられる先生である。事前調査を受けてリサーチクエスチョンを立て、①ユニバーサルデザインの考え方を取り入れた授業展開、②児童に身近な教材を用いたかかわり合いを大切にした授業展開を軸に据えた仮説を設定し、実践を通して検証する、というアクションリサーチの手順に則った報告をされた。不安を抱いている児童も見通しを持って取り組める工夫や地元の地図を使った道案内の授業の様子をDVDで紹介された。

(3)神奈川県横浜市立本町小学校 吉川 真由美先生

吉川先生は、大きく指導法を変えられた経験を持つ。それまでの練習を通して覚えさせる指導から、子どもの学び方を尊重する指導法をとるようになった経緯や授業の変容についてお話された。指導者が言わせたい表現を覚えさせて言わせる活動から、指導者と子どもとも自然な言葉によるやりとりを増やす指導法への転換である。6年生の授業のDVDでは、子どもたちが何回も聞く経験を積むうちに、歌や早口言葉を口ずさめるようになっていく姿が印象的であった。

(4)東京都私立明星学園小学校 入江 潤先生

公立小学校とは授業の枠組みや歴史が大きく異なるが、子どもが二つ目の言葉と公教育の中で出会うという部分は共通している。先生は、授業の核となるものとして①学習者にとってもリアルさ、②学習者の納得度、③成果と方法、④部分と全体の4点をあげられ、授業づくりについて具体的な例を紹介しながら話された。6年生の授業のDVDでは、Who の表現を扱い、子どもたちが「誰だ?」の世界に引き込まれていく場面を共有することができた。

アクションリサーチという手法をとるとき、はじめの課題は、「今の授業の問題点を見極めること」であろう。始まったばかりの外国語活動では、まだ理想の授業の姿がつかみにくく、課題の設定自体がむつかしい状況である。今回の4つの発表は、「課題をみつける」際の視点を提供するもので、参加者にとって大変有意義であった。子どもの学びの見取りができない授業でよいのか、どの子も安心して学べる授業とはどのようなものか、ゲームが楽しいだけで子どもは結局覚えたことが言えない授業でよいのか、より深く子どもの興味関心に寄り添い言葉の世界を広げるにはどうしたらいいか…。こうした課題を解決することで、外国語活動が次に踏み出す一歩の方向性が定まってゆくだろう。

(文責 東京学芸大学 粕谷恭子)

2.中学校英語部会

中学校部会では、広島県三次市立十日市中学校の西田弘栄先生の司会のもと4組の先生方にご発表をいただきました。

(1)神奈川県川崎市立南加瀬中学校 稲垣 久美子先生

目の前の生徒たちの課題(一つのテーマに沿って会話を続けることができない)を把握し、それを克服するためにはという視点での取り組みをお話いただいた。目の前の生徒の現状をみながらスモールステップを踏む中で、生徒の態度に変化が見られ、生徒自身がコミュニケーションの大切さに自ら気づいていったというお話があった。さらにお話しの中で生徒の日常生活のコミュニケーション力が高まる様子も伺え、言語を教える教員としてコアの部分を考えさせられた。

(2)神奈川県綾瀬市立北の台中学校 規工川 正徳先生

神奈川県綾瀬市立綾北中学校 岡本 徹 先生

異なる学校に在籍をしているお二人の先生によるメンタリングの実践についてお話をいただいた。メンターとメンティーが同席し、それぞれの立場でのその時の授業や打ち合わせについてお話をいただけるという大変画期的な発表だった。お話の中でメンティーのみならずメンターの変容というお話も伺え、メンタリングは協働であるということを改めて感じさせられた。

(3)広島県三次市立八次中学校 角濱 慶司先生

生徒の実態から課題をとらえ、改善していくために授業づくりに取り組んだお話をいただいた。その中で、生徒が集団の中で学びを深めていくためにペア・グループ活動の目標の設定や、生徒の役割を明確にするなど数々の計画的かつ戦略的な実践報告をいただいた。言語活動を展開するうえでの他との関わり、協同学習の大切さを改めて認識させられたご発表であった。

(4)神奈川県相模原市立共和中学校 河合 光治先生

教員生活におけるノート指導のアクションリサーチともいうべくご実践のお話をいただいた。ノート指導の変容による生徒の変容、またご自身の変容のお話まで大変参考になった。また実際に生徒のノートをご持参くださり、参加者は実践報告のみならず生の生徒の様子に触れることができよりお話を身近に感じることができた。テーマこそ違うが人と関わりながらの変容というまさに「協働」が根底に流れた大変温かなご発表でした。

(文責 横浜市立南高等学校附属中学校 西村秀之)

3.高校英語部会

高校部会は、宮内朋子(愛媛県立東温高等学校)の司会のもと、4人の先生にご発表いただいた。今回の4名の発表者の先生方、そして司会者の宮内先生を含め全員が現在、英語を苦手とする生徒が多い現場で実践されております。今回の高校部会はそのような生徒達の支援方法として、4人の先生方がそれぞれの視点から行ったARについて話されました。発表は終始、ARならではの和やかな雰囲気で行われ、質疑応答についても盛んに行われました。

(1)山形県立山形工業高等学校 峯田 一哉先生

学習事項を定着させる指導実現のための手立てとして、語彙・文法指導の工夫、生徒の英語指導の促進、音読活動や要約活動の実施を掲げ、ARを実施されました。英語を苦手とする生徒に対して教科書読解指導をするために、丁寧に段階を踏むことの重要さを改めて認識させられる内容でした。

(2)神奈川県立城山高等学校 安井 理恵子先生

生徒が楽しく、そして効果的に語彙学習を進めるための手立てとして、英単語カードの使用、イラストの活用、語呂合わせのようなストラテジーの活用、を仮説として掲げARを実施されました。語彙の効果的かつユニークな指導法として、明日からの授業でも活用できるアイデアを提供していただきました。

(3)神奈川県立鶴見総合高等学校 平沼 宏仁先生

コミュニカティブ・インタラクティブな英語授業の実践に向けて、コミュニケーション活動の実施、指導内容の選択と共有、段階的なリーディングタスクの実施を手立てにして、ARを実施されました。実際の活動の映像も紹介され、生徒たちが平沼先生の支援のもと、英語を積極的に発話している様子が伺えました。

(4)神奈川県立津久井高等学校 松井 真也先生

教科書テキストの中のよく使われる表現を使った英作文問題での、生徒のより良い取り組みをテーマに、ARを実施されました。ARを通じて、生徒だけでなく松井先生ご自身が、変化し成長されているのが伝わる、大変示唆に富む内容でした。先生が最後におっしゃった「変化に対する勇気」という言葉が、非常に印象的でした。

(文責 神奈川県立厚木清南高等学校定時制 小金丸倫隆)

4.大学英語部会

大学英語部会では2件の実践研究発表が行われました。

(1)千葉県立保健医療大学 杉田 めぐみ先生

丸谷美紀先生と行われた3年間にわたる共同研究をもとに、看護職という臨床の現場を目指して学ぶ学生たちの英語に対する意識とその変化を発表されました。国際社会や英語学習に関心はあるけどそれが行動に結びつかない学生に対し、近隣他大学との意見交換会や、具体的学習目標としてのTOEICテストの導入、英語サークルの立ち上げ、教員による情報提供などを行うことで学生に積極性、自主性がみられるようになってきたとのこと。教員側からの丁寧な働きかけの大切さを実感するとともに、アンケートなどによる学生・教員双方のニーズの事前調査の重要性や、教員自身の意識改革の必要性も再認識させられました。

(2)関西外国語大学 島本 たい子先生

メディア英語に対する関心が低く、自発的にメディア英語に触れる機会が少ない学生に対する授業の中での具体的な取り組み事例を紹介されました。パソコン教室を使いインターネットで実際のニュースやスピーチ、プレゼンなどに触れさせ、それをもとにレポートや発表を行わせるなど、Information Communication Technology (ICT)を活用し、学生が主体的に取り組める活動をふんだんに盛り込んだ、創意工夫に満ちた授業を展開されていました。高校までの受け身の「英語学習」から、実際のコミュニケーションを行うための自律的英語学習への意識改革を学生に行っていかなくてはならない、そのためには教師も知識を教える役割からファシリテーターへと役割を変えて行かなければ、と自分の授業の在り方、姿勢を問い直す好機となる発表でした。

国際社会で使える英語の力を育ててゆくためには、大学の英語教育こそが変わらなければいけない、どう変えるか、全くバックグラウンドの異なる2つの大学での取組に通底するメッセージが感じ取れました。教員が「変えなくては」「では、どのように変えればいいのか」と迷った時にアクション・リサーチという方向性からの光が当たることで、それまで見えなかったものが見えてくるのではないでしょうか。問題意識を持った自律的「研究者」による、これからの大学英語部会の広がりを大いに期待いたします。

(文責 上智短期大学 狩野晶子)

5.教員養成と研修部会(午前)

教員養成と研修部会は、太田洋先生(駒沢女子大学)の和やかな司会のもと、お二人の先生にご発表いただいた。

(1)高知工科大学 長崎 政浩先生

高知県の100名ほどの中学校英語科教員がアクション・リサーチに取り組むという壮大なプロジェクト「自律型共同研究による英語教員研修の実施とOJTによるメンターの育成」の成果をご報告くださった。発表では特にOJT(受講者支援)によるメンターの育成に焦点をあてられ、メンターの役割を担う指導主事が1年間のアクション・リサーチを通じてどのようにメンターとして成長し、様々な気づきを経験するか、ということを実際の参加者のコメントを織り交ぜながらお話下さった。また、研修中に行われたオンライン・ブック・クラブ、AR事例研究等、参加者に好評であった取り組みについても触れてくださったことは我々の大きな収穫となった。

(2)佐賀大学 横溝 紳一郎先生

佐賀大学日本語カリキュラムにおいて、上級者用の日本語を担当する横溝先生がどのような課題を抱え、何を目標としてアクション・リサーチを開始されたのか(深い内容について話す能力の向上)、教材の選定、授業のデザイン・運営、実施プロセスと結果について、受講生である留学生の特徴を把握しながら丁寧にご説明くださった。また、その授業内での受講生の発表、それに対する横溝先生のフィードバックの様子をまとめたビデオをご披露くださった。学期末のアンケート調査から、受講生が何に満足し、何に不満を残しているか、をご説明くださる段においては、調査結果をどのように今後の授業改善につなげるべきかの具体的な手段もお知らせくださり、会場の我々も、横溝先生とともにアクション・リサーチの1サイクルを経験することができたように感じた。会場からは、教材の選定、学生への対応方法など、実践的な質問が相次いだ。

(文責 千葉大学 物井尚子)

6.シンポジウム(教員養成と研修部会 午後)

シンポジウムでは、『大学における英語教員養成のあり方』<現状の課題と改善へのアクションを考える>と題して、高橋一幸先生(神奈川大学)がコーディネーターを務められ、4名の提案者の先生方から各大学・大学院における取り組みについてご報告があり、最後にフロアーを交え活発な意見交換があった。

まず最初に、コーディネーターの高橋 一幸先生(神奈川大学)は、近年の日本の英語教育・教員養成の改革の流れを概説され、「教育改革を担うのは教員」であり、教員免許状を授与する基準となる「英語教員養成CAN-DOリスト」が必要であると述べられた。高橋先生ご自身が作成されたCAN-DO リストの例(高橋2011)を参考資料として見せていただき、①意欲・態度、②専門知識・技能、③授業評価・授業改善といった各項目に対し、指導事項・学習事項が細かく明記されており、非常に有益だと感じた。さらに制度上の問題点として、大学での教員養成指導と教育実習がうまくリンクしていないというご指摘があった。改善方法として、教育実習前・中・後での振り返りの大切さを挙げて、大学と実習校での分断指導を改善し、理論と実践を結び付けて、自立的教員育成のための有機的連帯の必要性を強調された。

次に、提案者の中森 誉之先生(京都大学大学院)は、学習者のつまづきの原因には、言語的側面と心理的側面があるというお話から、①学習者の困難性の原因を科学的に解明する、②学術的な根拠のある克服策を提唱する、③学習上予測される問題点を未然に防ぐなど、「教科教育の学校教育臨床」において理論的根拠を持つことの重要性を強調された。またそれを「長期記憶への知識の貯蔵」や「母語と外国語の知識と獲得過程」など具体例でご説明いただき、大変興味深く拝聴した。

物井 尚子先生(千葉大学)は、高橋先生と同様に、大学での教員養成指導と教育実習との有機的連帯の大切さを述べられ、千葉大学での取り組みを丁寧にご紹介下さった。その中で興味深かったのは、例えば,1年次には基礎見学実習、2年次には観察実習、3年次には本実習というように初年度から学年毎に段階を踏んで実習を重ねていくという方法。これなら充実した実習経験を積むことができるだろうと感心した。さらに千葉大では、「小・中・高の連帯を考えられるカリキュラム」と「教職実践演習、就職対策の充実」を目標にしておられるとのことだった。

最後の提案者、志村 明彦先生(慶応義塾大学)からは、特色ある取り組みとして、学生のプロセス参加型アセスメントである「教職ログブック」(マイポートフォリオ、マイコース、マイコミュニティ、マネジメントから構成)をご紹介いただき大変参考になった。これに加え、J-POSTL Can-do Listを導入し、そこから生まれる学生たちの省察から、アクションリサーチへと発展させていく取り組みもご報告いただいた。

意見交換では、フロアーから①教員養成での指導教官の連携不足、教員の熱意の差、②単位が取れれば教員免許が取れるシステムへの疑問、③アクションリサーチを実際学生が現場でどのくらい実行しているのか、など厳しいご意見もあったが、大変示唆に富むシンポジウムであった。

(文責 関西外国語大学 島本たい子)