2018/3/17press 北極海、氷が減って波が高くなる 東大院・極地研究所などが発表

投稿日: Mar 16, 2018 11:42:30 PM

東京大学大学院と国立極地研究所の研究グループは3月14日、北極海波浪観測により、夏季北極海における海氷面積は減少し、開放水面では強風が吹く確率が増大するため、船舶が遭遇しうる最大波高と最大風速が長期的に上昇していると発表した。この観測は、2016年9月から11月に行ったもの。観測結果により、北極航路の利用に伴う船舶の安全性に資する重要な知見を得ることができたという。開放水面拡大、波高も38年間上昇

今回の観測により、海氷の融解が激しい8月、海氷面積が最も小さい9月、結氷が開始する10月の3期間について、北極航路(北東航路)として利用されているラプテフ海、東シベリア海、チュクチ海、ボーフォート海の海氷のない開放水面における有義波高(海洋波浪の波高のひとつ)最大値の期待値は、過去38年間にわたり上昇傾向にあることが確認された。なお、最大値の期待値とは、任意のデータセットにおける最大値が平均的にはどの程度となるかの見込み値。

開放水面での最大風速増大により強い関連

この上昇傾向は開放水面の増大とも関連するが、開放水面における最大風速の増大に、より強い関連があることも明らかになった。具体的には、波高が増大するのは、強風が氷の上ではなく開放水面で吹く確率が高くなるために起こることがわかった。なお、風速の増大に影響する可能性のある低気圧活動自体は、過去38年の間に大きく変化していない。

北極航路の本格活用に備え、研究を進める

夏季北極海の海氷はここ数十年急激に減少しており、開放水面が広がっている。それに伴い開放水面を航行する北極航路の利用が進む一方、開放水面の広がった海域では風により生成される波浪も年々増大していることがわかってきた。これまでに、例えばボーフォート海では5メートル近い有義波高が観測されている。北極航路の本格的な活用が始まりつつある現在、航行する船舶の安全性を確保することは必要不可欠だ。しかし、北極海上の波浪の推定精度をさらに高めるためには、様々な海上気象条件や海氷条件(面積・厚さ)における波浪データを取得することが必要である。そこで同研究グループは、2018年の結氷期(11月)、海洋研究開発機構の海洋地球研究船「みらい」の研究航海で波浪場の計測を行う予定だ。なお、同研究は北極域研究推進プロジェクト(ArCS)の一環として実施したもの。成果は2018年3月14日付けで、英国科学誌Scientific Reportsにオンライン掲載されている。

海洋地球研究船「みらい」で観測

観測は「みらい」により、漂流型波浪ブイをボーフォート海に2基展開、2カ月間実施した。その結果、北極低気圧通過時に、5メートル近い有義波高を観測した。同研究グループは、その波浪観測データを用い、ヨーロッパ中期予報センターの推定による過去38年間の波浪場の検証を行った。その後、観測データが限られる北極海において、妥当な推定がなされていることを確認のうえ、8月から10月にかけて氷の無い海面において発生しうる最大有義波高が、長期的にどのように変化したかを分析した。なお、同研究グループの主要研究者は、東京大学大学院 新領域創成科学研究科 海洋技術環境学専攻 早稲田 卓爾教授と国立極地研究所 国際北極環境研究センター 猪上 淳准教授。