こんにちは!アフリカ地域専攻4年の松本と申します。
私は2024年7月から2025年6月までの約11か月間、南アフリカのステレンボッシュ大学で交換留学をさせていただきました。
本稿では私のステレンボッシュでの体験を皆さんにお届けします。少しでも現地の雰囲気が伝わると幸いです。
元々、大学2年生の終わりごろからアフリカに留学に行きたいと思っていました。
そのきっかけとなったのが、アフリカの学生との交流です。
私はMPJ Youthというサークルでケニアに、アフリカ地域専攻の同期との旅行でルワンダに渡航する機会があり、それぞれの現地の大学で学生交流に参加させていただきました。
そこで私が驚いたのは、現地の学生の自国に対する強い問題意識でした。
交流会では様々なトピックに関するディスカッションの時間があったのですが、ディスカッションが始まった途端、現地の学生が「自分の国はここが足りないから、こうするべきだ」といった意見交換を次々と行っていき、良い意味であっけにとられたことを覚えています。
「日本もいわゆる先進国と呼ばれる国ではあるけど、足りないこともまだまだたくさんあるはず。それなのに、どうして私はこんなにも自国の議論ができないのだろう…」と、一人頭の中で考えていました。
そこで私はふと思いました。「これほど情熱的なアフリカの学生に刺激を受けながら、私も色々なことを学びたい!」これがアフリカ留学を決めたきっかけです。
私は留学前からアフリカの政治や外交に興味を持っており、それらの分野について深く学べる大学がいいなとぼんやり考えていました。もちろん、外大のどの協定校でも学ぶことはできますが、アフリカの中でも唯一のG20参加国(2023年6月当時)で、欧米と絶妙な関係を持ちながら同時にBRICSというユニークなつながりも持つ南アフリカが面白そうだと考え、南アフリカに留学を決めました。
と、いうのは表向きの理由で…
私を最終的にステレンボッシュ大学一択にさせたのは、Stellenbosch University Choir(SUC: ステレンボッシュ大学合唱団)の存在でした(写真1)。
写真1: SU Choir
私は中学生のころから今に至るまでずっと合唱をしてきました。そのこともあり、私が1年生の時、外大で“Feel Africa”というイベントが開催され、そのClosing Eventでスワヒリ語曲である“Baba Yetu”の歌唱企画があると聞き、喜んで参加しました。Baba Yetuは、「シヴィライゼーション4」というゲームのテーマ曲として2009年に作曲されたスワヒリ語曲です。その練習のため、動画サイトでBaba Yetuの音源を探していた時に出会ったのがSUCのBaba Yetuでした。SUCによる2018/12/24のBaba Yetu合唱のYouTube動画を下に貼り付けます。
初めて聞いた時は、「この大学合唱団めっちゃ上手いな~」という感想だったのですが、ステレンボッシュ大学が外大の協定校であると知った瞬間、「これは行くしかない!!!」と完全に心惹かれてしまいました。
これがステレンボッシュに行くことになった大きな理由です。
ステレンボッシュ大学は様々な授業を開講しており、自分の専攻外の授業でも受講することができます。
私は通常の授業(Mainstream Courses)から社会学と政治学の授業を受講しました。
社会学の授業は人種、格差、ジェンダーなどテーマは様々ですが、南アフリカの文脈に沿って学ぶことができるのでとても興味深かったです。個人的に印象に残っているのは “Blackness”の概念で、アパルトヘイト期の南アフリカや黒人差別が激しかったアメリカで黒人が“Black”というアイデンティティとどう対峙していたのかなど、外大では学ばなかった知見を得ることができ、非常に有意義な授業でした。
政治学の授業は“Foreign Policy Analysis(外交政策分析)”や“Comparative Politics(比較政治)”といった科目名の授業を取りました。自分の興味分野だったということもあり、テスト勉強も楽しくできた記憶があります。
外交政策の授業は、以前外大に招へい教授としていらしていたスカーレット・コーネリッセン教授の授業を受講することができ、外交に関する基本的な知識から南アフリカの外交政策について深く学ぶことができました。
この授業で一番驚いたのは、スカーレット教授がプレトリアの日本大使館から日本大使を招き、大使による特別講義を開催してくださったことです(写真2)。内容はアフ科が一年次に専門言語の授業で受けるSADCリレー講義と似たようなものでした。
写真2: 駐南アフリカ日本大使との写真
また、ステレンボッシュ大学では、Mainstream Coursesの他にGEP(Global Education Programme) Coursesという留学生のみが受講できる授業があります。私は元々言語学習が結構好きだったので、GEPで主に現地語の授業を履修していました。
南アフリカには11の公用語(注1)があり、ステレンボッシュでは西ケープ州に話者が多いコサ語(isiXhosa)とアフリカーンス語(Afrikaans)を学ぶことができます。
注1: 南アフリカの公用語:英語、アフリカーンス語、ズールー語、コサ語、北ソト語、ソト語、スワジ語、南ンデベレ語、ツォンガ語、ツワナ語、ヴェンダ語
私は2つの学期を通じてどちらの言語も学習しました。コサ語学習では、かの有名なクリック音(舌で口腔内を弾いて発する音)に苦しめられつつも、同じバントゥー系であるスワヒリ語との共通点が非常に多く、すでにスワヒリ語の授業をある程度履修していた私にとって文法の習得は比較的容易でした。
対してアフリカーンス語は、ベースがオランダ語ということもあり、文法も発音規則も難しくてかなり苦労しました。ただ、幸運にもアフリカーンス語話者の友人が多く、課題やテスト勉強をよく手伝ってもらっていました。
また、両授業とも校外学習の機会があり、ステレンボッシュ近郊のタウンシップ(注2)であるカヤマンディでコサの文化体験をさせてもらったり(写真3)、ステレンボッシュ内の博物館に訪問してアフリカーナーの暮らしや歴史を学んだりすることができました(写真4)。
注2: タウンシップとは、元々アパルトヘイト(人種隔離政策)下において白人以外の有色人種が強制的に割り当てられた居住地のこと。今は貧困層が住むいわゆる「スラム」に近い場所となっていることが多い。
写真3: カヤマンディでの文化体験
写真4: ステレンボッシュの歴史博物館“Village Museum”
南アフリカは英語が簡単に通じてしまうのでつい英語を話しがちですが、現地語を少しでもしゃべれると現地の人の反応も2倍よくなります。ましてや南アフリカでは珍しい日本人が現地語をしゃべりだすとは思ってもみないことなのかもしれません。Uberドライバーとよく現地語と日本語の言語交換をして楽しんでいました。
南アフリカの授業は外大の教授陣に「レベルが高く難しい」と脅されていたこともあり、かなり身構えていたのですが、英語さえどうにかしてしまえば内容はむしろ外大の授業より平易なものが多いなという印象でした。
また、擬似的に「南アフリカの学生として」色々な事を学ぶことができるので、普段の外大の授業では得られない視点や気づきを得ることができたと思います。
例えば、先ほどの“Blackness”の話もそうですが、南アフリカの政治経済について学んだ際に、「グローバルサウスあるいはアフリカ大陸を代表する南アフリカの立場で(本当にそうであるかは置いておいて)」保護貿易 vs. 自由貿易を考えるといった機会があり、途上国の視点で途上国の経済成長について検討することができました。ディスカッションで現地の学生からもたくさん意見を吸収することができ、非常に学びの多い経験でした。
待ちに待ったステレンボッシュ大留学。現地に到着してまず私が始めたのは、オーディションに向けての歌唱練習でした。
というのも、なんと私が渡航する直前にSUCが「オーディションを実施する」という投稿をSNSにアップしたのです。
合唱歴9年目に突入していた私は、「これは挑戦するしかない!!」と思い、SUCの大好きな演奏の1つ“Never Enough”を熱唱し、担当者に提出しました。SUCによるNever Enoughの合唱のYouTube動画を下に貼り付けます。
結果は…
半年以上経っても連絡が来ず。
これは落ちてしまったのだと思い、しばらくの間がっかりしていました。ですが、せっかく合唱が盛んな大学に来たのだから、せめてどこかの合唱団に入りたい!と思い、他のオーディションを受けたり、地元の合唱団に片っ端から連絡を取ったりました。
しかし、2学期目が始まってもなかなか加入はかないませんでした。とある合唱団では、「1月から1年間いることが条件だから、君は入ることはできない」ときっぱり断られてしまうこともありました。
そんな中、オーディションを受けた合唱団の1人から連絡があり、「この合唱団なら君も入れるよ」と紹介を受けました。その時点ではとても嬉しかったのですが、その直後に「2週間後に本番だから、次の練習までに音取り頑張ってね」と告げられ、7曲分の楽譜が一気に送信されてきました。
それを見た時は血の気が引きましたが、「ここまできて入団は諦められない!」と思い、死に物狂いで練習し、2週間後の本番に参加することができました(写真5)。
練習こそ大変でしたが、団員の方々も温かく受け入れてくださり、現地の方々と合唱を通じてつながった、とても貴重な経験でした。
写真5: 入団したSchola Cantorumの本番。1番後ろ左から2番目が筆者。
大学が提供するボランティアのプログラムを利用して、先ほども紹介したカヤマンディでの学習支援ボランティアにも参加しました。
参加する前は子どもたちと英語でコミュニケーションができると思っていましたが、支援対象の子どもたちは小学校準備学年であるGrade R生で、現地語のコサ語しかしゃべれない年齢の子たちでした。
なのでコミュニケーションにはとても苦労しましたが、私も学んだコサ語の知識を総動員しながら身振り手振りで会話に励みました。(会話といっても、私が「Igama lakho(あなたの名前)」と言いながら書く素振りを見せると、子どもたちがワークシートに名前を書いてくれる、くらいのレベルでしたが…)
そうして子どもたちと一緒に汗を流して遊んだのも忘れられない思い出の1つです。
ステレンボッシュ大学では学期中にMid-Semester Recessという1週間程度の小休みがあるので、それを利用して南ア国内や周辺国に旅行に行っていました(写真6)。
写真6: レソトのマレツニャーネの滝にて
また、大きな夏休み(11月~2月頭くらい)を利用して、一緒に留学に来ていた是永さんと一緒にヨーロッパ旅行にも行きました(写真7)。
写真7: オーストリアで外大合唱団にいた元留学生と。
他の人には「アフリカ留学なのにヨーロッパ??」という反応をされることもありましたが、これまでの人生で海外はアフリカしか経験がないという変わった経歴の持ち主だったので、アフリカ以外の世界も見ることができて結果的に良かったと思います。
南アフリカに来て最も驚いたことの1つが、「日本関連イベント」の多さです。
渡航1か月後にはSouth Africa-Japan University Forum(SAJU: 日本・南アフリカ大学フォーラム)に参加させていただいたり、学期に1回の“International Food Event”で日本食をふるまったり(写真8)、11月にはステレンボッシュ大学日本センター共催の“Japan Day”がステレンボッシュで行われたりと、日本文化を発信する機会も多かったです。
写真8: International Food Eventにて
ステレンボッシュ大学の日本センターには留学中とてもお世話になりました。センター長のコーネリッセン教授を始め、センターのスタッフの方々に生活のサポートやイベントへの招待をしていただきました。
また、インターン生として、日本センターのホームページでTICADに関する記事の執筆もさせていただきました。
“TICAD 9 – Co-Create Innovative Solutions with Africa”
URL: https://www0.sun.ac.za/japancentre/2025/07/10/ticad-9-co-create-innovative-solutions-with-africa/
この留学を通じて私が1番大切だと感じたのは、「人と人とのつながり」と「人の温かさ」です。
合唱団への入団も、日本関連イベントへの参加も、「人とのつながり」がなければ成し遂げられなかったことでした。また、これまで得た「つながり」が、南アでの暮らしや旅行を助けてくれたことも多かったです。
例えば、外大で私がバディを務めた元交換留学生のJuliaがいなければ、ステレンボッシュの生活は100倍退屈で不便なものになっていたと思います(写真9)。
他にも、外大生で旅行経験者に話を聞くことで、危険を回避できたり、現地のおいしいレストランを紹介してもらったりすることができました。もはや私の留学生活は、こういった人と人とのつながりに支えられて成り立っていたと言っても過言ではないと思います。
写真9: 留学で特にお世話になったJuliaと
留学においては、アフリカ地域専攻の先生方、留学生課の方々をはじめとして、派遣先の担当者の方、日本センターのスタッフの方々、現地の友人といったたくさんの方にお世話になりました。この場を借りて御礼申し上げます。本当にありがとうございました。
今後もこうした「つながり」を大切にして、日本とアフリカの交流を活発にしていきたいと考えています。交換留学はその一手段として、とても大切で貴重な取り組みであると私は思います。
最後に、今後交換留学を検討している皆様へ、留学先としてステレンボッシュ大学を強くおすすめしたいと思います。
南アフリカは治安が悪いと巷では言われていますが、必要最低限の防犯対策を行い、よっぽど危険だと言われる地域に赴かなければ、危険に遭遇することはほぼありません。実際、今まで先輩を含めた何人もの外大生が無事に日本に帰国しています。
また、南アフリカ、特にケープタウンは、自然に囲まれたとても美しい場所です。その中でもステレンボッシュは、海と山のアクセスへのアクセスが非常に良いです。
「南アフリカではアフリカらしい体験ができないんじゃないの?」という方も多くいらっしゃいますが、個人的にはそんなことはないと思います。
もちろん南アフリカやステレンボッシュはサブサハラ・アフリカ全体では相対的に発展している地域ですが、友人や授業を通じて現地文化を学び、体験することが十分できると思います(写真10)。
写真10: 南アフリカの友人と作った現地(ソト)料理。
個人的に、ステレンボッシュ大学はアフリカ地域に興味がある人以外にもおすすめの場所だと思います。なぜなら、欧州・北米からの留学生がかなり多く、交流する機会もたくさんあるからです(特に多かったのはフランス、ドイツ、オランダからの留学生)。
言語要件と成績要件がちょっぴり他大学より高いですが、それだけ行く価値のある大学だと私は思います。近年、南アフリカへの/からの留学生が減少傾向にあり、少し寂しさを感じております。少しでも興味のある方はぜひ、留学報告会等でお話に来ていただければと思います!
長くなってしまいましたが、最後まで読んでくださり、ありがとうございました!少しでも南アフリカの魅力やアフリカ留学の楽しさが伝われば幸いです。
Enkosi kakhulu & Baie dankie !
(コサ語とアフリカーンス語で「どうもありがとう」の意)
最終更新:2025年8月26日