アフリカ地域専攻へようこそ!

坂井 真紀子

アフリカ地域代表教員

東京外国語大学のアフリカ地域専攻は、2012年に新設された国際社会学部の新しい専攻です。学部から体系的にアフリカ地域研究を学ぶことができる日本で初めての場所としてスタートしました。


なぜいま、アフリカなのでしょうか?

それは、世界の中でアフリカが大きな転換点を迎えているからです。私たちは、アフリカが歴史の中心に躍り出る場面に立ち会っているともいえるでしょう。その変化は「対象」から「主体」へと言えるかもしれません。

これまで私たちは西洋を手本として近代社会をつくり、経済発展のみから世界を認識してきました。その価値観の中でアフリカは世界の最後尾にいました。しかし現在、手本であったはずの先進国はグローバル化のうねりの中で急激な変化を強いられ、その行き先の再考を迫られています。その一方で、足を地に着けて毎日を着実に生きるアフリカの人々の実践は、ひょっとすると人類にとって新しい道標になるかもしれません。

東京外国語大学は、言語と地域をひとセットとする教育の枠組みの上に長い歴史を積み重ねてきました。しかしながら、その枠組みのみでは、加速化するグローバリゼーションと世界の変化を理解することは難しくなっています。私たちは複雑なアフリカ地域の理解を切り開くことで、大きく変動する世界を新しい視点でとらえることできると考えています。この学内の共通認識が、アフリカ地域専攻の開設につながりました。アフリカは巨大な大陸です。2,000を超える言語が存在し、10億を超える人びとがすんでいます。多様性に富む繊細な自然環境、それに呼応して人びとの生活形態も大変異なっています。さらに他地域との深い歴史的なかかわりが、アフリカの現在の在り方に大きく作用しています。このようなダイナミズムを多角的に理解するためには、これまでの枠組みを越えた学びの場が必要なのです。


日本に住む私たちにとって、これまで「アフリカ」は大変遠く、マスメディアから伝わる情報は、貧困、飢餓、内戦、自然災害などに見舞われるマイナスのイメージが大きかったのではないでしょうか。しかし、ここには関係を結ぶ相手としてアフリカを見る視点が抜け落ちているように感じます。実際には、アフリカ全土で戦争や飢饉が起きているわけではありません。そして、日々自ら考え、行動する主体者としてのアフリカの人びとが社会を作っているのです。

2000年以降、アフリカは新興ビジネスの地として脚光を浴び始めました。援助の対象としてではなく、ビジネスパートナーとしてアフリカの人びとの声を聞こうとする動きが出てきました。一面的な理解に陥らないために、ビジネス的利益を脇において、人びとの生活に心を寄せ共感する感性がこれまで以上に必要となりそうです。

地域研究は、誰かと友達になるプロセスに似ています。ある人と知り合い、徐々に生い立ちや家庭環境を知ることで、その人の性格や行動の癖がよく理解できたりします。私たちの側も自分の生い立ちやこれまで考えてきたこと、生活の場所、好きな食べ物、大事にしていることなどを伝えることで、相手との違いを受け入れ、より深い関係性を構築することが可能になります。。一方的な「研究対象」からの情報入手は一歩間違えれば「知の収奪」です。しかし他者との対話を通じて互いの存在が同じ重さであることを知ることは、尊厳に基づいた社会の相互理解につながります。。そこでは、常に私たち自身のあり方も問われます。主体者として、どこに根を張って生きるのか?周りの人びととどんな関係を結んでいくのか?

アフリカはさまざまな学びを提供してくれます。地域研究を通して、私たちのこれからの社会のありようを一緒に考えていけるなら、これほどうれしいことはありません。広く扉を開いて、皆さんをお待ちしています。