アフリカンウィークス2020活動報告
2020.11.30.~12.18.
1. はじめに
田口聡香
アフリカンウィークス2020実行委員長
この度は本報告書をお読みいただきありがとうございます。今回(2020年度開催)で4回目となるアフリカンウィークス。今まで多くの方々に支えられながら、いまだに飢餓・紛争などマイナスな印象を抱かれやすいアフリカ地域の魅力を知ってもらおうと、学生の視点から様々な形で発信を行ってきました。
今回もその趣旨は同じでしたが、国内外で起こった出来事を受け、新たな問いも私たちの中で生まれました。新型コロナウイルスの感染拡大やBLM運動で改めて注目された、人々が持つ差別意識。それを超えて、多様な人々が自分・他者双方の存在を肯定しともに生きていくことは可能なのか、どうすれば可能にできるのか。
アフリカ地域専攻というと「え!なんでそんなところを選んだの!?」と何度も驚かれ、この地域への偏見を感じてきた私たちは、これらの問いをアフリカと日本に結び付けて考えてみたいと思いました。知らない・接したことがないからこそ増大する偏見や差別意識。学生ならではの視点で、情報を発信することでそれを少しでも払拭することができれば幸いです。
差別とは、共生とはという、少し「重め」、かつ正解がないゆえに(加えて初めてのオンライン開催)試行錯誤しながらの準備・実施でしたが、一般人の我々が考えるからこそ価値の生まれる問いではないでしょうか。アフリカンウィークスをきっかけに、アフリカに興味がある人もない人も一緒に向き合っていければと思います。
最後になりましたが、資金面やモラル・運営面で様々なアドバイス及びサポートをしてくださったアドバイザーの講師の皆様と現代アフリカ地域研究センターの皆様、まことにありがとうございました。至らない点も多かった運営でしたが、皆様のおかげでアフリカンウィークス2020を成功させることができました。
そして何よりも、ゲストとして各企画に参加してくださったAYM(African Youth Meetup)の皆様、鈴木裕之さんとニャマカンテさんのご夫妻、映画上映権関連の交渉に応じてくださったユナイテッドピープル様、本当にありがとうございました。皆様と作り上げた今回のイベントは、少なくない人々の心に必ず響き、何らかの変化をもたらしてくれたことと思います。
2. イベントの趣旨と概要
■開催趣旨
アフリカンウィークスとは、東京外国語大学国際社会学部アフリカ地域専攻の学生を中心に近年連続で冬に開催しているイベントであり、様々な人に、日本で未だ知られていないアフリカについてポジティブな面から興味・知識を持ってもらおうという目的をもっています。
アフリカンウィークス2020のテーマは「Jafrica~君と私とアフリカ~」としました(図1)。Jafrica(ジャフリカ)は、JapanとAfricaを合わせた造語です。日本とアフリカに視点をあてて、背景が異なる人々の間にも共生が実現しうることと、対立の原因や解決方法について今回は発信しました。
これは新型コロナウイルスによる人々の衝突やBLM運動、外大での排他的な事件(2020年1~2月、一部の学生がゼミ活動の一環で行ったアンケートにおいて、「純粋な」日本人かどうかを指し示す「純ジャパ」や「混ジャパ」という人種差別的な用語が用いられたこと)も鑑みてのものです。副題には、本イベントに関わる全ての人に差別・共生について主体的かつ身近に考えてほしいという意味をこめました。
図1: 本イベントの全体チラシ
■開催概要:
主催:アフリカンウィークス2020実行委員会
共催:東京外国語大学現代アフリカ地域研究センター
実行委員長:田口聡香(国際社会学部アフリカ地域専攻2年)
アドバイザー: 国際社会学部アフリカ地域専攻・現代アフリカ地域研究センター教職員
開催期間: 2020年11月30日~12月18日
実施形態: 新型コロナウイルス感染拡大防止のため、オンラインにて開催
企画内容と実施体制(※):ポスター展示・写真展(玉井遥)、映画上映会(上原ゆりの)、トークセッション・トークライブ(青木芽衣 ただしトークセッションに関しては田口含めほかの幹部も担当)、文化紹介(菅沼蓮)、広報担当(苅和里奈)
※:括弧内はそれぞれの企画担当班長、全員が国際社会学部アフリカ地域専攻2年生
3. 各企画の報告
①ポスター展示・写真展
■ポスター展示(オンライン)
テーマを設定して、展示班員が作成したポスターを展示する。どんな人にも読みやすく楽しめるコンテンツを目指して作成した。
今回は、「“インド洋の貴婦人”モーリシャスってどんなところ?」「アフリカの食文化をのぞき見!」「アフリカ4カ国の姿を紐解く」の3つのテーマでポスターを公開した。
アフリカンウィークス全体のテーマに合わせ、日本との関わりや、現在注目されているトピックに焦点を当てた。
ポスター展示の総括:
時間がない中で、興味深いテーマ・内容の展示にできたのではないかと思う。班員内でも、勉強になったとの声が多くあった。アフリカについてあまり知らない人も含め、楽しんでいただけたのではないか。
オンラインでの展示は気軽に見てもらえる一方、見た人の人数や傾向、反応が分かりにくいというデメリットもあった。参加者と私たち、参加者同士の交流を持てるような方法や、もっと見やすい形態を目指すという点で課題も残った。
■写真展(オンライン)
テーマを設定して、参加者から募った写真を展示する参加型のイベント。例年通り、現代アフリカ地域研究センター、外大大石ゼミのご協力を得て開催した。今回は、「日本で見つけたアフリカ・アフリカで見つけた日本」をテーマに、1人3枚までとして写真を一般公募した(図2)。応募者は外大の生徒や教職員に限らず、誰でも参加できる形とした。
開催時期: 2020年11月30日~12月18日(アフリカンウィークス全期間)
写真展応募期間: 10月20日~11月22日(15日から延長)
応募点数: 28作品
図2: 写真展の作品募集案内
入選作を参加者の皆様及び実行委員・関係者の投票により選抜した。
結果は以下の通り:
- 最優秀賞「南スーダンで思う、すき焼きの起源」(角谷亮)
- 参加者投票賞「不屈のライオン」(後藤えり)
- 実行委員賞「Sunset in Ghana」(Clara Obeng-Akrofi)
「Let’s play!」(村橋勲)
写真展の総括:
まず作品の募集段階では、想定していたより多くの応募をいただけた。どれも素敵な写真ばかりで、参加者の方々からも、楽しめているとのお声を多くいただき、嬉しかった。
一方で、特にテーマ設定に関しては反省もある。気軽に海外に行けない状況の中、身近な部分で日本やアフリカを探してみる、という意図があったが、やはり過去の写真の応募が多く、なかなか難しかった。例年写真の応募数が少ないことが課題として上がるため、より応募しやすいテーマ設定や募集方法の工夫を検討したい。
例年と異なること、うまくいかないことも多々あったが、その分学ぶことも多かったと感じる。イベント運営を通して、日本やアフリカへの理解を深められていければと思う。
②映画上映会(オンライン)
日時: 2020年12月5日 12:30~14:30
内容: 映画「バベルの学校」のzoomをつかった上映、および同作品についてのディスカッション(図3)。
あらすじ: 多様なバックグラウンドを持つ子どもたちが集まる学校が舞台のドキュメンタリー映画。(cinema by ユナイテッドピープル)
参加人数: 52名
図3: 上映会宣伝用のチラシ(表面と裏面)
参加者から寄せられた感想:
子供たちが自由に自分の気持ちや意見を話している姿が非常に印象的でした。先生が肯定も否定もせず、子供たちの話にひたすら耳を傾けていたからこそ、そのような教室の雰囲気ができていたのかなと思いました。傾聴の力は、多文化共生に欠かせない大切な力だと思いました。
大変よくできた映画作品でした。生徒、父兄、先生それぞれの声から彼らの悩みや葛藤がよく描き出されていたと思います。適応クラス・普通クラスといった区分はフランスの移民政策のひとつだと思いますが、今後、海外にルーツをもつ子どもたちが否応なしに増えることが予測される日本でどのような形で彼らを学校教育のなかで排除されないやり方ができるかを考えるうえでとても参考になるものでした。今回のAfrican weeksのテーマによく合っており、よい選択だと思いました。(ほか多数)
映画上映会の総括: 今回、「バベルの学校」という映画を上映させていただいたが、運営側の私たちも多くのことを学んだ。実際に子どもたちがぶつかり合いながらも「共生」している姿を見て、お互いのことを理解し合い共に生きることは決して不可能ではなく、私たちの意識次第で実現可能なのだと感じた。
③トークセッション
日時: 2020年12月5日15:00~16:30
内容: アフリカにルーツをもつユースの団体であるAfrican Youth Meetup (AYM)より、佐藤シャミーナさん (AYM広報委員・あしなが育英会職員)、エバデ・ダン・愛琳さん(AYMアドバイザー・一般企業社員)をゲストにお迎えして、「共生」に関する複数の問いについてzoomをもちいたディスカッションをおこなった(図4)。後半にはブレイクアウトルームでの参加者によるディスカッションも実施した(図5)。
参加人数: 52名
図4: トークセッション宣伝用のチラシ
図5:zoomをつかったトークセッションの様子
参加者から寄せられた感想:
「共生」という簡単には答えの出ない難しいテーマでしたが、学生さんとAYMの皆さんが一緒につくる過程にも、たくさんの学びがあったことが伺えるいいセッションだったと思います。残念ながら今の日本はあまりに閉鎖的ですが、誰にとっても居心地のいい場所(社会)を作るにはどうしたらいいのか、一人一人が世代を超えて考えていくこと、日常で普通に話し合えるようになることは大切だと思いました。
シャミーナさんがおっしゃった、「当事者とか一部の人だけがマイクロ・アグレッションってよくないって話してるだけだと世の中変わらない。話をする場がふつうになってほしい」という話がすごくよかった。
マイクロ・アグレッションのもたらす硬直、また、理解と受け入れることについてもアイリーンさんが話しておられて、このようなことをもっと伝えていきたいと思った。(ほか多数)
トークセッションの総括:
まず一個人として、今回シャミーナさんや愛琳さんとお話しできたことは非常に貴重な機会だった。「(マイクロ・アグレッションに関して)そんなこと気にしてたら何も発言できないじゃないか」という意見を持っている人は意外と多いが、そのような考え方は「立場や感じ方は皆同じ」という、事実とは異なる前提に立ったものであり、同調圧力を促すものであると強く感じた。
自分も必ず、同調圧力を生み出す側に回っている場面がある。事実、それを実感する場面も今回あった。同調圧力や差別で生きづらさを感じている当事者だけが声を上げており周囲が受身態勢でそれを聞いているという状況では、当事者だけが疲れてしまう。それも違う。確かに日々を生きるのが大変で、「そんなこと気にしていられない」という気持ちも分からなくはないけれど、そういった意見を持つ人とも、今後しっかりマイクロ・アグレッションについて話そうと思った。
運営面については、かなりぎりぎりのスケジュールだったことを反省している。また、ユースの素直な議論が聞けてよかったという感想を多くいただいた。一方で、観客同士で話す時間がもっとほしかったという意見もあった。前半のセッション部分もかなり時間が押したので、タイムスケジュール管理と論点の絞り込みは改善の余地がある。体験談だけを聞くのは他のイベントでもやるだろうから、AWでしかできないことを考えるべきであるという意見が出た。
④トークライブ(オンライン)
日時:2020年12月11日18:00~19:30
内容:文化人類学者の鈴木裕之先生・歌手のニャマ・カンテさんご夫妻による「共生」に関するトーク及びお二人によるアフリカ音楽の実演(図6)
参加人数:約50名
図6:トークライブ宣伝用のチラシ
参加者から寄せられた感想:
アフリカの文化に引き込まれました。奥さまの言葉がとても印象的で日本人として自分もしっかりといろんなことに挑戦したいと思いました。ライブもとても楽しかったです。
コロナ禍中に参加したウェビナーの中で一番楽しかったです。鈴木夫妻からとてもたくさんの元気をもらい、たくさん笑わせていただきました。序盤の鈴木先生のプレゼンも非常に興味深く、人生を通しながら「共生」を実感されていたことがよくわかりました。このような、本や講義の外での実践的な経験をすることではじめてその概念が沁みるという経験を、自分もしてみたいと思いました。音楽のセッションも素晴らしかったです。また別のトピックでぜひ講演していただきたいです。
差別問題について、問題は深刻でも原因や対処方法はシンプルで、相手のことを理解しようと努めることの大切さ、そして肌の色以前に種は全く同じであるという事実はとても説得力があり、なるほどと思いました。
トークライブの総括:
今回のアフリカンウィークスで「共生」をテーマにしようと決めてから、この概念について委員同士でたくさんの議論を重ねてきた。実際にその「共生」を体現している鈴木さんご夫婦の話は、ただ机の上で議論するだけではでてこない発想にあふれていた。共生というのは、考えれば考えるほどわからなくなるものだが、トークライブを経て、「実践あるのみ」だと感じた。本番はあっという間に過ぎたが、成功させることができた。
⑤文化紹介
日時:アフリカンウィークス2020実施期間中に投稿、各SNSに残す
内容:
「共生」についてAYMメンバーのターラさん、ペレさんにインタビューし、記事を公式サイトに投稿
文化紹介(アフリカの花や都市風景など)をSNSに投稿
総括:
相互の文化に焦点を当ててアフリカの魅力を知ってもらうことで、共生のキッカケをつくることを目標とした。文化紹介投稿に関しては、途中で政治経済の諸問題も取り入れていくかという話があった。ただ今まで通り華やかに文化を紹介していきたいというのはあったので、前半の色調を維持しつつ、象の密猟や少数民族の話など議論のテーマになりそうなものも投稿していく形になった。
全員に仕事を割り振って、広報班の人にも協力してもらって、インタビューはwebページに、投稿はインスタグラムにしっかりのせ終えた。差別に対する個々人の感覚を意識することが必要だと思った。知識を取り入れていく心構えというか差別に向き合っていく中で、解を求めることは急にできることではないかもしれない。色んな感じ方を受容するということが、解決に向けた一歩目になるのではないか。
最終更新:2021年3月15日