12EDO(12平均律)

12平均律の特徴とは、次のようにまとめられる。短3度・6/5も長3度・5/4も理論値からは比較的大きくはずれており、純正音程に十分近いとみなすことは難しい。事実12平均律が5-limit val <12 19 28|とみなすならば、歴史的に大きな議論をもたらしたピタゴラス・コンマもSyntonic CommaTempering Outされ、無かったことになる。全音の値は純正調の大全音の値に近く、小全音の響きからは比較的大きなErrorが存在している。完全4度と完全5度はほぼ完璧な純正音程の近似であり、短7度は9/5という5-limitの響きよりも16/9というPythagorean Tuningで発生する短7度の響きに近い。

Xenharmonic Allianceは12平均律について、まず「12EDO, perhaps better known as 12et since it really is a temperament, is the predominating tuning system in the world today」[『12EDO』, Xenharmonic wiki, http://en.xen.wiki/w/12edo(最終確認日:2018年10月6日).]と書いおり、明らかに「Temperament」されていると述べられている。この意味は、3度や5度のTemerとともに、調ごとの響きすらtemperしている、という意味合いがあると考えられる。また、12平均律の7度は、1000centであり、第7倍音である7/4・968.33centから31centもシャープされており、テトラコードの心地良さから大きく外れるため、逆にドミナントセブンスコードとして機能したとしている。また、11倍音も13倍音も近くないため、12平均律は5-limitの調律だとしている。

ここでおもしろい記述がなされている。それは、機能和声でドミナントコードとされるものが、5-limitの純正調の響きだとするならば、それは1/1―5/4―3/2―16/9となり、また12平均律は7-limit val<12 19 28 34|と表現できる。そしてこの観点から見ると、ピタゴラス・コンマである3^12 / 2^19と、Syntonic Commaの81/80はTempering Outされると述べている。

以上の意味を解釈するために、いくつかの表現方法について触れるべきだろう。val <12 19 28 34|とは、周波数比2が12step・((12))で、周波数比3が19step・((19))で、周波数比5が28step・((28))で、周波数比7が34step・((34))で近似的に表現されることを表している。Val<a b c d e f|のa, b, c, d, e, fにはそれぞれ、順に小さい素数を表す数が入ることになる。12平均律は1step・((1))が100centなので、12stepは1200cent、正確に周波数比2となる。19stepは1900centとなり、ほぼ周波数比3・1901.955centとなる。そして28stepは2800centを示し、周波数比5・2786.314centにそれなりに近い。34stepは3400centを示し、周波数比7・3368.826centに12平均律で出せる中では最も近い。ただしError(特定の純正音程との差)が非常に大きいという欠点がある。この大きさがゆえに、12平均律が5リミットの調律であると言われるのである。

12平均律の各周波数は下記にまとめられている。2の12乗根、おおよそ1.0594倍ずつ大きくなる計算になる。全音は1.0594*1.0594=約1.12倍。

平均律の周波数表(10セント単位詳細):http://www.floatgarden.net/flstudio/hz_cent.html

Tempering Outされる理由を述べるためにもう1つ、Monzoについて述べる必要がある。Monzoとは、特定の周波数比を構築する素数で表すものである。15/8という音程は、5*3の分子をもつと考えられる。そして2*2*2が分母と考えられる。これは簡潔に、2^(-3) * 3^1 * 5^1と表現できる。これを各素数の指数でMonzoを構築する。すなわち、| -3 1 1>というように書く。Syntonic Comma・81/80は、|-4 4 -1>で表せる。

さてここで、12平均律のVals(ヴァル)とSyntonic CommaのMonzos(モンゾ)を掛け合わせると、

<12 19 28|-4 4 -1>

(12 * -4) + (19 * 4) + (28 * 1) = 0

という計算式が成り立つこととなり、値は0になる。これが0とみなす、すなわちTempering Outされていることを示している[『Monzos』, Xenharmonic wiki, https://en.xen.wiki/w/monzos(最終確認日:2015年9月22日).]。そしてまた、ピタゴラス・コンマは(3/2)^12 / 2^7、すなわち3^12 / 2^19となるため、

<12 19|-19 12>

(12 * 19) + (-19 * 12) = 0

という計算式より、こちらもTempering Outされていることがわかる。

これらの計算結果が意味することは、もし12平均律が純正長3度、純正完全5度であるとみなすのであれば、2.2節で大きな問題を引き起こしたピタゴラス・コンマやシントニック・コンマといった歴史的音律の議論点の値が0となり、なかったことになることを意味するのである。本研究者は、ピタゴラス・コンマやSyntonic Commaは存在するものとしてn平均律の作曲を行いたい。本研究者は12ETという純正音程に近い音程を取るとするTemperamentの概念ではなく、12EDOというオクターブの単純分割で考えている理由の1つがこのためである。

この表から判断すると、純正調で発生した小全音と大全音には大きなcentの差がある。大全音は12平均律の響きに近いが、小全音は12平均律の響きと17.60centもErrorがある。他方短3度の6/5からは15.64centのErrorが、長3度からは13.69centものErrorがあり、これまで(5から11平均律まで)近いとしてきたcent値からは比較的大きいことがわかる。数値の値から考えれば、12平均律の短3度も長3度も、素晴らしい響きだということはできないのではないだろうか。一方完全4度、完全5度のErrorは1.96セントであり、十分に近い。短7度は9/5の5-limitとなる純粋な響きよりも、16/9というPythagorean Tuningで発生する響きにとても近い。