微分音とは何か、なぜ微分音なのか

微分音音楽の意義とは何か

単純に、Microtonal(微分音的)な音のこと。一つ一つの単音を意味し、その構成は意味しない。

英語でMicrotonalは形容詞、Microtonalityは名詞。ゆえに英語で微分音音楽のことはMicrotonal musicという言い方をする。

日本語では微分音、微分音音楽と呼ばれ、しばしばマイクロトーナルミュージックとも呼ばれる。

微分音的とは何か。細かいことを抜きにするならば、ピアノでは弾けない音、ドとド♯の間の音といえる。

もう少し具体的にするなら、3種類ある。1つ目は、伝統的西ヨーロッパの音律の全音や半音より小さい音程という意味合いである。2つ目は、ある文化圏において飛び抜けて異なっている音程やチューニングの音のことである。3つ目は、全ての音楽のさまざまな局面や連続性における、100cent単位といった離散的変化ではなく、もっと細かい音高の連続的変化である1)

より詳細な説明はMicrotonalを参照

微分音音楽(Microtonal music)とは何か

微分音を使用した音楽のこと。

なぜ微分音なのか

反論があること、知識的な間違いがあることも重々承知しているが、これまでの音楽的背景を含めて以下のような自論をもっている。

そもそも、1オクターブがスタンダードな12音である必要はない。不協和曲線(dissonance curve)の考え方からすると、12平均律の短3度を協和音程とするならば、1オクターブ内のほぼすべての音が協和するのである。

ではなぜ1オクターブが12音となっているのか。歴史的に考えると、昔は調律を耳で行うしかなかった。耳で行おうとすると、判断できるのは周波数比3:2(ドーソ)と5:4(ドーミ)、そしてまれに6:5・ドーミbも使用されているが、そこまでが限界である。つまり3倍音と5倍音、ドーミとドーソの響きだけである。この響きで調律を行うと、おおよそ1オクターブが12音で収まる※1。 昔は、1オクターブが12音に耳で判断したためならざるを得なかったのである。事実、古典調律の調律方法を見ると、どこからどの音程をどのくらいの周波数比(または純正何度)でとるか、ということしか記載されていない。もしこの古典調律方法に興味があるのならば、ヘルベルト・ケレタートの『音律について』や、平島達司の『ゼロビートの再発見』を推奨する。

1900年代後半、チューナーやシンセサイザーが誕生する。これにより、初めて12平均律の音や、1オクターブ12音以外の音が、数学上正確に発生させられるようになったのである※2。

1981年、世界最古のn平均律音楽、19平均律のファンファーレ「Fanfare in 19-note Equal Tuning, Op. 28a」が、Easley Blackwoodの手により作曲される。1オクターブの数を意図的に12以外に変えたn平均律の音楽は、まだ35年程度の歴史しかないのである。

音楽は、人が言葉を話す前から存在していたようだ。人が言葉を話す前、口笛などで意思伝達をしていたらしい。長い歴史の中で、音楽は空気のように人と一緒に存在していた。空気では商売にならない。だから音楽そのものでもあまり稼げず、皆安く入手しようとし、業界は縮小するのだとも思う。けれども、音の感覚は最初から12音だったのだろうか。いや、決してそうではない。1オクターブ音の数を固定する必要が生まれたのは、記譜や鍵盤楽器を考える時だけである。

音楽の音の数が固定されたのは、まだ数千年の話である。世界最古の楽譜は3400年前らしい。この時点で1オクターブが7音の音階だったり5音の音階だったり、12音の音構造だったりしよう。それでも、せいぜい3400年の歴史である。人類の音楽経験年数を100万年だとして、そのうちの3400年である。さらに言うならば、地球が太陽に飲み込まれるのには50億年ある。この莫大な時間を考えたとき、人の耳はこの間ずっと12音しか受け付けないのだろうか。ピアノの88音だけで満足し、50億年過ごすのだろうか。

12音しか固定できなかったこれまでではなく、今、12音から抜け出す挑戦を始めてみてはどうだろうか。

※1 7倍音は考慮されていない。7:4はHarmonic minor seventhと呼ばれ、ブルースで使用される響きである。

※2 この時まで12平均律という調律は広まっていなかった。12平均律は周波数比によって生成されるものではなく、数学で計算され、チューナーがなければ調律できないものだ。この時、Das well-tempered clavier、バッハの平均律クラヴィーア曲集のwell-temperedが、当時話題であった平均律と誤訳され、ピアノの調律師の育成に困っていたピアノ業界は、平均律は素晴らしいらしいと勘違いし、平均律の耳をもったピアノの調律師をたくさん育ててしまったのである。これにより、持ち運びが簡単で最も大きい音が出せたアコーディオンまで12平均律になり、古典調律が消え世界的に12平均律1色となったのである。

1) MICROTONALITY AS A MUSICAL CONTINUUM OR DIMENSION. In a third definition, microtonality is simply the dimension or continuum of variation among intervals and tuning systems, embracing all musics[『What is microtonal music?』, un-twelve, http://untwelve.org/what(最終確認日:2015年9月22日).].

その他微分音の有用性について述べている記事リスト

Robert Inventor, Microtonal scales and tunings, http://robertinventor.com/software/tunesmithy/scales.htm