2022年度(令和4

2022年度(令和4) 年間テーマ“次の十年へ 今までの問題意識をいかに引き受けるか” 

物語研究会2022年度テーマ「次の十年へ 今までの問題意識をいかに引き受けるか」

新年度テーマ発表委員一同


 本年度のテーマは「次の十年へ 今までの問題意識をいかに引き受けるか」である。昨年度は、物語研究会発足50周年を振り返るために「物語研究会50年の歩み」をテーマとし、物語研究会の研究の歴史を発掘する発表がなされた。物語研究会が物語研究の成果と変遷が振り返られることで、当時を知らない会員にも研究会の過去が共有された。

 組織が長く続いていく間には、どうしても構造的な矛盾を抱え込むことになる。そのような状況において物語研究会が50年続いたのは、それぞれの問題意識も当然あるが、その時々の状況によって考えなければいけない年間テーマが選び抜かれ、そのテーマに基づきながら、真剣に物語とは何かを考えてきたからである。テーマから数々の方法論が生まれ、物語研究が切り拓かれてきた。

 研究会の運営上、年間テーマは1~2年間でいったん終わり、すぐに次の年間テーマに移らざるをえない。いったんは区切りがついたテーマの中には、個人の中では問題意識として継続して残り続け、さらに研究が進んだ分野もある。だが、それらはいずれも個々人の問題意識に収まってしまい、会全体で共有されるものにはならなかったと思われる。また、テーマとなった概念は時代とともに更新されているのだが、それを会全体で振り返る機会を持たなかった。さらにいえば、「母」「父」「子」、あるいは「翻訳」「翻案」のような連続したテーマを除いて、基本的にテーマ間で関連させて論じられることはなかった。そのため、昨年度のテーマ発表では、物語研究会で論じられてきたテーマを横断し、かつ統合していきながら、現在の視点で新たに考え直すべきだ、という議論がたびたびおこなわれた。

 テーマ一つ一つを見ると、その時々の状況から考えられたこともあり、現在から見ると古く見えてしまうものもある。しかし、先述したように、研究が進んだために更新できる場合もある。たとえば、従来、和歌と散文とを分けて捉えがちだったが、現在では「和歌」の「書記法」や「インターテクスチュアリティ」的な思考から、単なる対立構造だけでは考えられなくなっている。「書記法」「インターテクスチュアリティ」は「翻訳」「翻案」とも接続可能だろう。「書物」や「説話」「語り」「性」の研究も、現在絶えず更新され続けている分野である。また、「共同体」にしても「交通」、「手紙」にしても、電話、スマホ、インターネットといった新たな「メディア」が活躍する20世紀終わりから21世紀の始まりにおいては、論じるスタイルやパラダイムが大きく変わっている。

 過去のテーマの成果を踏まえ、それをさらに現在の視点から振り返り、刷新することで、新たな物語研究の可能性を追求したい。過去のテーマは、現在自分がおこなっている研究とどのように繋がっているのか、果たして自分の研究方法や理論は更新されているのか、今後自分の研究はどのような可能性を切り拓くのか、個人の研究態度を顧みる機会にもなるかもしれない。 

 これまでのテーマやそれと関連する分野に関して、現在の視点からどのように考えることができるのか、それらの考究を通して、文学研究はどのように今日的課題に応答していくのか。単に過去を回顧するだけではない文学研究の未来につながる議論にしていきたい。

Copyright(C) Monogatari Kenkyukai, All rights reserved 

【物語研究会公式サイト】