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以前のレポートで市民連合(安保法制の廃止と立憲主義の回復を求める市民連合)へ2017年(平成29年)7月10日に「分担金」名義で社会民主党(社民党)から10万円の入金が確認できた旨、また、各種団体を通じて日本共産党・社民党からの迂回団体献金の疑惑が市民連合にある旨、報告しました。
2017年の政治資金収支報告書について他党の分も確認したのですが、社民党と同じような「分担金」や「会費」で市民連合への入金は確認できませんでした。そのため、なぜ、社民党だけが2017年に10万円という微妙な金額を市民連合に振り込んだのか、この点、背景事情が不明で、有体に言えば「謎」でした。
今回、各党の報告書を改めて確認したところ、「分担金」や「会費」ではない別名目での市民連合への資金提供が発覚、それに基づき調査を行うと、2017年当時、野党が(帳簿上)市民連合へ「ステルスマーケティング」(ステマ)を依頼していた痕跡が明らかになってきました。以下報告します。
2 明らかになった資金の流れ
さて、今回新たに発覚した市民連合への入金記録です。
民進党 平成29年8月25日 40万円「機関紙誌の発行事業費(インターネット発信費)」ー「HP制作費」
日本共産党 平成29年7月31日 40万円「宣伝事業費(宣伝事業費)」 ー「広告代」
自由党 平成29年7月28日 10万円 「宣伝事業費」ー「WEB映像制作費用分担金」
社会民主党 平成29年7月10日 10万円「寄付・交付金(分担金)」ー「分担金」
社民党以外は「広告宣伝」や「インターネット発信」とPR関係の費用として計上しています。その実態については、民進党と自由党の記載からインターネットにおける宣伝映像等の制作費用であることが伺え、社民党と自由党を見てみるとその費用を4党が分担して支出したことが理解できます。
民進党
日本共産党
(唯一住所が「三崎町」だが市民連合の報告書ではこの住所で正しい)自由党
社民党
3 「立憲4党と語る、これからの日本」
これら資金はどのように使われたのでしょうか。合計金額が100万円という点に着目し、市民連合の平成29年(2017)政治資金収支報告書を見てみると「機関紙誌の発行その他の事業による収入」に「ビデオ制作分担金」という項目で同額、つまり、100万円の収入が計上されています。該当する支出については「宣伝事業費」として計上され詳細は以下のようになっています。
このうち、「(有)ネオローグ」はジャーナリスト津田大介が代表を務める会社であり、彼のマネジメントおよび「ポリタスTV」などの制作を行なっている企業です。
市民連合のウェブサイトから津田大介が登場しているページを探ると以下の4つのものが出てきます。これは当時市民連合が共闘していた4野党の幹部へのインタビュー記事です。
「民進党編」に以下のような津田の発言があります。
こんにちは、ジャーナリストの津田大介です。本日は市民連合主催の『立憲4党と語る、これからの日本』の企画の第一弾で民進党の皆さんにインタビューを行います。市民連合から岡歩美さんと一緒に、民進党幹事長の野田佳彦さん、民進党国民運動局長の山尾志桜里さんにお話を伺っていきたいと思います。
「市民連合主催」の企画となっています。
「陰険な保守」でなく「穏健な保守」を! 野田幹事長、津田大介氏と語る(2017年04月12日) 野田佳彦幹事長は12日、市民連合が開いた「立憲4党と語る、これからの日本」と題する座談会に山尾志桜里国民運動局長とともに参加、ジャーナリストの津田大介さんらと1時間にわたって意見を交わした。
こちらも確かに「市民連合が開いた」となっています。
この座談会およびその記事に野党が振り込んだ資金が用いられているのか、確認しましょう。
市民連合の収支報告書に戻って「スタジオ使用料」の支払い先である「(株)studio Licore」に注目します。この企業は貸しスタジオを営んでいるようです。
「民進党編」の写真からこの企画の会場が「リコルネ野毛1st」というスタジオであることがわかります(下写真。壁の木目および左側の赤いシミが完全に一致)。
上記内容より、この「座談会」は、市民連合の報告書でいうと「宣伝事業費ービデオ撮影費」に該当するものであることが理解できますが、資金の流れを確認すると、4野党がWeb上での宣伝のために市民連合に資金を提供し、開催してもらった座談会とそれをもとにしたPR記事となります。
ただし、この座談会の様子が映像として公開された痕跡はなく、「映像として公開していないもののウェブサイトで文字起こしだけ公開した」というのが現状ではないかと思われます。
4 誰に金が渡ったのか
当該座談会とその記事作成に関しての支出は3ヶ所に対して行われています。
1つはスタジオ、もう一つは撮影料として「江藤海彦」に36万超。この支出に関してはWebサイトに写真が利用されているのでその支払い根拠は理解できます。
問題は3つ目です。「演出料」として「下田彦太」に10万円程度支払われていますが、その用途は不明です。映像のディレクションをしたということでしょうが、その成果物は確認できないです。
予算が超過したため、成果物の製作はペンディングにされたかとも思いましたが、計上された「ビデオ撮影費」の経費は85万7,520円であり、売り上げの100万円に届いておらず、事業単体としては黒字になっています。
また、この年の市民連合の総収入は914万4,153円、総支出は867万9,241円と黒字になっています。市民連合として編集費をやりくりして映像を作ることは可能でしたが、その痕跡は確認できませんでした。
「下田彦太」については、「NOddIN」というアーティストグループの一員です。公式ページには、
3.11という地点を通り、/私たちは価値観がひっくり返るのを感じました。映像に関わって仕事をしている私たちは、/作り手としての視点と責任からこれまでのような作り方、/ものの見かたを一度変えなければ、/と感じるようになりました。 日本をひっくり返して見てみよう。 これは日本のフィルムメーカーからの提案です。NOddINは組織名ではありません。/NOddINは、今までと違う視点を持って生きていきたい/と思う心の集まりです。開かれたこの扉を、やがて様々な職業、様々な立場、/様々な意見を持つ人々が/ノックしてくれることを願っています。
とあります。
2016年「”NO WAR KNOW NUKES” 映画『ヒバクシャ』上映&トークイベント」に下田は参加しており、SEALDsの奥田愛基とも共演しています。
また、奥田が創設した一般社団法人「ReDEMOS」(法人閉鎖済み)が主催するイベントに出演していることも確認できます。
私の調査で、SEALDsおよびその後継団体のメンバーが市民連合の事務局で働いていたことが判明しています。
5 まとめ:「野党と市民のステマ」
上記調査内容が示すことは、野党が市民団体にお金を払って自分たちの宣伝をしてもらうウェブサイトを制作してもらったということです。当該ウェブサイトについてその資金源は明記されておらず、PR記事であることも書かれていません。いわゆる「ステルスマーケティング」です。集められた費用の一部はSEALDs界隈のアーティストへ流れています。
この構図は2022年に騒がれたネットメディア「Choose Life Project」(CLP)および類似団体の問題と符合します。
CLP問題は「公共のメディア」を標榜していたネットメディアが立憲民主党から資金提供を受けていたというものです。
「立憲民主党から1000万円超受領」Choose Life Projectに出演者らが抗議文 6日にも釈明へ(BuzzFeed 2022年1月5日)
立憲事務局のドン「秋元雅人」の火種 「ブルージャパン」なる会社に多額の政治資金。元締め自ら野党第一党の「前哨基地」に転身か。(FACTA 2021年9月号)
この事件には津田大介も巻き込まれ、津田をはじめとして期せずして関与してしまった文化人が抗議文を出しています。
CLP問題が発覚した際、同様に「ブルージャパン株式会社」(SEALDs関係者)や「株式会社コーポレーション」(首都圏反原発連合やレイシストをしばき隊の流れを汲む菅野完氏)というリベラル活動家への政党の広告費等を用いた資金提供疑惑が取り沙汰されました。
Twitterアカウント「Dappi」と自民党の関係に疑念が生じる中で発生した問題であり、野党にも同様の疑惑があるのではないかと言われたわけです。津田はCLP問題が発覚する以前、朝日新聞で「『政治のステマ』規制法なき日本」(2021年10月14日)として以下のコメントを残しています。
オーストリア首相のケース以外でも、多くの国で、広告会社などが、ある種の「裏稼業」としてネット上の世論工作を業務としているとし、2016年の米大統領選をはじめ、韓国、ミャンマーでの例を紹介しています。日本についても、公選法違反の罪に問われた元法相の河井克行被告の裁判で明らかになった事例を紹介し、「問題は政党がネットの世論工作業者と組んで『政治のステルスマーケティング』を行うことを規制する法律が日本ではまったく整備されていないこと」と指摘します。
「政治のステマ」に敏感であった津田はCLP問題でこの罠にハマりました。実はそれよりも以前から津田は政党と市民団体が組んだ「政治のステマ」=「野党と市民のステマ」に利用されていたとは本人も気づいていなかったのでしょう。
民進党や日本共産党にとっても、あのようなウェブサイト1ページを制作するのに40万円、市民連合に支払うというのも(その事実が明らかになって倫理的問題が問われる状況に陥るという点でも)コストパフォーマンス面であまり良い判断ではなかったと思います。
他方で2017年段階で野党によるステマの萌芽が見られるということは、のちのCLPやブルージャパン、コーポレーション疑惑と同様のスキームを、野党が市民連合で試みていたということも言えるかと思います。今回のケースは明確に「市民」を謳った集団との連携であり、その倫理的な問題はより深刻に感じます。
公開日:2024年11月14日