25作 エンディング 

2022年11月23日 旧ブログ(2015年8月投稿)より、再編集で掲載


※映画のネタバレが含まれますので、気にされる方はご遠慮ください。

寅とリリーのバス停

1980(昭和55)年8月公開 第25作「男はつらいよ 寅次郎ハイビスカスの花」 

シリーズ屈指のラスト約2分30秒のシーンである。

ここは、群馬県吾妻郡中之条町入山 (旧六合村(くにむら))

浅間・白根・志賀さわやか街道

 群馬県の六合村(くにむら)は、2010年の合併により中之条町の一部となって消滅した。

 1900年に、当時の草津村から小雨(こさめ)、生須(なます)、太子(おおし)、日影(ひかげ)、赤岩(あかいわ)、入山(いりやま)地域で分村する際、六つの集落が合わさるということで「六合(くに)」と名付けた。古代の世界観では、東西南北の四方と天地の六つで国を表すことからの命名だという。

草軽交通のバス停 「上荷付場」停留所。

当時は国鉄バスも共同運行されていた。

映画公開の後年、利用者減少により廃線となっているので、今はもうバス停としての役目は終わっている。

※ 2010年3月25日 読売新聞記事より引用


路線は約30年前に廃止された。廃線後も残されたバス停は、ロケ地巡りなどのファンが訪れる村のひそかな名所だった。


2006年6月、老朽化したバス停は強風により倒壊した。

政府の緊急経済対策で交付金を受けられたことから、六合(くに)村は、2009年度補正予算で約350万円を計上、バス停の再建が実現した。


寅次郎とリリーを乗せた草津に向かうバスが走り去った後、カメラは徐々に引きながら、村を囲む山々を映し出す。

その間のほんのわずかな時間、家の前で遊ぶ地元の子どもたちの姿が映る。

そのうちの1人で、当時、小学4年生だった村職員の山本佳代子さん(39)は、撮影の合間にお茶を運ぶと、

渥美さんが「お嬢ちゃんありがとう」と、気さくな笑顔を見せたことを今も覚えている。


山本さんは建て直されたバス停に立って、「村の人でも撮影があったことを知らない人は多いので、懐かしいし、うれしい」と感慨深げに話した。

 このバス停の復元には、再建を熱望した多くの寅さんファンや、旧六合村の役場の方々の寅さんへの熱い想いが込められている。

今、このバス停が存在している事はまさに奇跡!


先人の寅さんファンの皆様、ありがとうございます。心より感謝申し上げます。

男はつらいよ「寅次郎ハイビスカスの花」ロケ地バス停

男はつらいよシリーズ、傑作のエンディングがここにある。

シリーズ二十五作目として製作された「男はつらいよ 寅次郎ハイビスカスの花」は、一九八〇年八月二日に公開され、二〇六万三千人の観客動員を記録し、群馬県民全体をも超える人々に感動をもたらした。

渥美清演じる寅次郎を、浅丘ルリ子演じるリリーとの絶妙な掛け合いは、リリー四部作の中でも最高のハッピーエンドで終わる作品として心に残っている。そして、ここからの風景が作品に溶け込み、奥深さを演出した。

今ここに、ロケ地バス停はその姿を新たにし、六合の風景のひとつとしてこの地を訪れる人々の心に刻まれていくことだろう。

それではラストシーンを振り返ってみよう。

山間のバス停。

15時25分にくるバスしかない・・・

暑さに耐えられない様子。

音声ではかすかに水の音がしている。この下に川がある設定にしたかったのだろうか。

一段上の道路からバス停を見ろしている。

寅次郎のいるバス停の前をクラクションを鳴らしながら1台のマイクロバスが通り過ぎる。

団扇を持つ手を上げる寅次郎。

バスはその前を通り過ぎていく。

寅・・・「なんだ、バスじゃねえのか・・・うわぁ~暑い、暑い、暑い、暑い・・・」


マイクロバスが、バス停を通り過ぎた後、停車する。

マイクロバスから、鮮やかなひまわり色の洋服を着た女性が、寅次郎のいるバス停に小走りに近づいてくる。

日傘で顔は見えない。

そっと近づいた女性が、寅次郎の前にスッと立っている。

持っていた団扇を落とす寅次郎。

目の前に立つ女性に気が付き、ゆっくりと顔を見上げる。


寅次郎・・・「はっ!」(何かに気が付く)


していたサングラスを、おでこの上まであげ、ほほ笑む女性・・・

リリーである。

その微笑みに対して、同じく微笑みで返す寅次郎。

寅・・・「どこかでお目にかかったお顔ですが、姉さん どこのどなたです?」

リリー・・・「以前お兄さんにお世話になった女ですよ。」

寅・・・「はて?こんないい女をお世話した覚えはございませんが。」

笑いながら応える寅次郎。

リリー・・・「ございませんか、この薄情者!」

寅・リリー(笑)

音楽が流れる

寅・・・「何してんだ、お前こんなとこで」

リリー・・・「商売だよ!お兄さんこそ何してんのさ、こんなとで。」

寅・・・「俺はおめえ・・・リリーの夢を見てたのよ」

おどける二人

寅次郎とリリーの再会である。

リリー・・・「ねえ、これから草津行くんだけどさー、一緒に行かない?」

寅・・・「行こう、行こう!俺どっか行くとこねえかなと思ってたんだよ。」

リリー・・・「おいで、おいで!」

寅・・・「行こう、行こう!」

笑いながら一緒に走る二人

リリー・・・「ちょいと、この人も乗せてあげて。」

女性・・・「どうぞ!」

寅・・・「ああ、これはこれはバンドの皆さん。いつもリリーがお世話になっております。どうも!」


マイクロバスに乗り込む寅次郎とリリー。



話を少し戻そう。

 このバス停での偶然の出会いのラストシーンの前に、

とらや茶の間でのシーン、そして柴又駅での別れのシーンと2つの切ないシーンがある。

その切ない2つのシーンと、このラストのバス停でのシーンのコントラストがあってこその感動なのである。

とらやの茶の間でのシーン


突然とらやを訪ねてきたリリー。


数日前に沖縄でのことを聞いていたさくらと博は、事の進展を確認すべく、とらやの茶の間へ

そんな二人の心配をよそに、沖縄の話で盛り上がる寅次郎とリリー


さくら・・・「リリーさん、料理がお上手なんですってね。」

リリー・・・「うそよ!ただ寅さんが喜んで食べてくれるから、一生懸命作っただけの話。ひとりで暮らしていると、料理なんか作ることないでしょ。近所の食堂でライスカレーかなんか食べたりして。」

寅・・・「リリーの作った沖縄料理はうまかったよ。」

リリー・・・「ははは(笑)、ゴーヤチャンプール!」

寅・・・「ああ。」

さくら・・・「なあに?それ。」

リリー・・・「苦瓜の炒めたの。本当は美味しいのよ。」

寅・・・「それからよ、ほら。あの豚の耳の・・・」

リリー・・・「あ、ミミガーの刺身!」

寅・・・「あー!あれで泡盛呑むと旨かったなぁー!」


ゴロンと横に寝そべる寅次郎。


寅・・・「あー・・・暑い一日が終わって、夜になると・・・すぅーッと涼しい風が吹いてなぁ。遠くで波の音がザワザワザワ・・・」

リリー・・・「ほら、庭にいっぱい咲いたハイビスカスの花に・・・月の光が差して、いい匂いがして。」

寅・・・「ああ・・・、昼間の疲れでウトウトしてると・・・おかあさんの唄う沖縄の悲しーい歌が聞こえきてなぁ。」


(リリーが唄う)

♪我んや~白浜ぬ~

枯松(かりまち)が~や~ゆう~ら~


リリー・・・「私は白浜の枯れた松の木なのか、春になっても花は咲かない。好きな人とどうして一緒になれないんだろうって歌なの。」

さくら・・・「素敵な歌。」


(リリーが続きを唄う)

♪春風や~吹ちん~

花や咲かん~

二人(たい)やまま~な~らん~

(枯木心)かりきぐ~くる~


リリーの歌声に引き込まれていく寅次郎

ボ~っと天井の方をみつめている


リリー・・・「あたし・・・幸せだった、あん時。」

寅・・・「リリー、俺と所帯持つか?」


一瞬驚いた表情で寅を見るリリー

そんなリリーの横顔を、もっと驚いた表情で見ているさくら


リリーと目が合い、やさしくうなづく寅次郎

次の瞬間、ハッ!と我に返り、ムクッと起き上がる

テーブルの上にあった箸を手に取り、たくあんをひと切れ震えながら持ち上げる

明らかに自分の発言に動揺している様子


寅・・・「俺、今なんか言ったかな?」

リリー・・・「あっははは(笑)。いやね~寅さん、変な冗談言って・・・みんな真に受けるわよ。ねえ、さくらさん。」

さくら・・・「ええ・・・。」

寅・・・「はっははは、そ、そうだよ、そうだよ。ここは堅気の家だからな。」

リリー・・・「そうよ。」

寅・・・「こりゃマズかったよ。ははは(笑)」


リリー・・・「私たち夢見てたのよ、きっと。ほら、あんまり暑いからさ。」

寅・・・「そ~だよ!夢だ、夢だ。」

博・・・「そうですね。」


裏庭に出ていく寅次郎

寅次郎・・・「はあ~、あ~あ、夢か・・・」




柴又駅のホームでのシーン

電車を待っている

リリーとさくらはベンチに座り、寅は少し離れたところで立っている


さくら・・・「せめて晩ごはんぐらい食べてくれればよかったのに・・・おばちゃんガッカリしてたわよ。」

リリー・・・「また今度来るとき、ごちそうしてもらうわ。」


寅・・・「上野から上越線に乗ってどこ行くんだい。」

リリー・・・「水上温泉。その後は清水トンネルを通って六日町。稼がなくっちゃしょうがないでしょ・・・貯金もなくなっちゃったしさ。」

うなずく寅次郎

寅・・・「ああ。」


さくら・・・「ねえリリーさん。」

リリー・・・「何?」

さくら・・・「さっきさ お兄ちゃんが変な冗談言ったでしょ。あれ、少しは本気だったのよ。」

リリー・・・「・・・わかってた。でも、ああしか答えようがなくて。」


うなづくさくら

そしてため息をつく


踏切警報の音


寅・・・「(電車が)来たぞ。」

リリー・・・(立ち上がりながらさくらにむかって)いろいろありがとう。」

お土産を渡すさくら


寅次郎に近づくリリー


リリー・・・「そいじゃ。」

寅・・・「うん。」

リリー・・・「ねえ寅さん。」

寅・・・「え?」

リリー・・・「もし旅先で病気になったりつらい目に遭ったりしたら、またこの間みたいに来てくれる?」

寅・・・「ああ、どこにでも行くよ。沖縄でも北海道でも飛行機に乗って飛んで行くよ。」

リリー・・・「うれしい!きっとよ。」

寅・・・「ああ。」


電車が到着し、ドアが開く


リリー・・・「さようなら、さくらさん。」

さくら・・・「元気でね。」

リリー・・・「うん。」

さくら・・・「また来てね。」

リリー・・・「うん。」


ドアが閉まる


手を振る3人


寅・・・「幸せになれよ。」

ガラス越しにうなずくリリー


神妙な面持ちの寅次郎と、笑顔で見送るさくら

対照的な表情である


さくら・・・「いや~ね。別れって。」

寅・・・「うん・・・さて、俺も旅に出るか。」

沖縄では聞けなかった寅次郎の本心を、思いがけない形で知ることになったリリー。

本当に嬉しかったはず。

観ているこちらも涙が溢れる。


でもその嬉しい気持ちをそっと胸にしまって旅立ったリリー。

それとは反対にモヤモヤの残る寅次郎。

柴又駅での別れの後、二人がどうなったのか。

観ているこちらもモヤモヤした気持ちになってしまう。


そして、とてつもない偶然で二人は、ここ群馬県の六合村のバス停で再会を果たすのであった。

そんな偶然、寅次郎とリリーだったら全然あり得ると思ってしまう。

運命の二人ならば、むしろ必然と思えてしまう。


再会した時の寅とリリーの笑顔。とても良かった。

二人にはきっと明るい未来があるのだと思った。

結局二人は結ばれることはなかったが、その笑顔を最後に見れたことで、

私たちはとても救われるのだ。




オールラスト 「終」のマークでの俯瞰

ラストの俯瞰は、アングルが下から上がって行く。

そのカットを繋げて1枚の写真に合成

同じポジションで写すと現在は大きな木が邪魔している。

そのため映画と同じアングルでの撮影は不可能。

バス停より1段高い位置の道路から撮影している

こちらの絵も映画のラストシーンと同じアングルである。

写真下部に、山本佳代子さんら子供たちの遊んでいる姿が、確かに映っている。

少しだけ横に移動し、木を避けて撮影。  雰囲気は映画のエンディングと同じである

寅次郎の言葉が心にしみる。

リリーの夢を見てたのよ

おしまい