寅とリリーの出会い

2015/9/9

「寅とリリーの出会い」  男はつらいよ

浅丘ルリ子さん演じる松岡リリー


寅さんシリーズで唯一

4作品に登場するマドンナ。



そのリリーシリーズ第1弾が


第11作「寅次郎忘れな草」

1973年8月4日公開




その後は第2弾の

第15作「寅次郎相合い傘」

1975年8月2日公開




第3弾の

第25作「寅次郎ハイビスカスの花」

1980年8月2日公開




そして全てが最後の第4弾

第48作「寅次郎紅の花」

1995年12月23日公開




と続く。




今回は二人の運命の出会いを追ってみた。




最初の出会いは列車の中。

(ただリリーは寅の存在にはまだ気づいていない。)

同じ車両に居合わせたリリーを気にする寅

2人を乗せた列車は網走駅に到着する。

このアングルを航空写真と比較するとこうなる。

そして現在との比較

網走駅跨線橋(こせんきょう)から撮影されたアングルだったのだ

なんと同じ高羽アングルから撮影されている方も

今でも跨線橋(こせんきょう)はあるので

高羽アングルでの撮影が再現できるのは何とも嬉しい。




≪ 網走駅前 


昭和50年頃

<現在>

<映画>

リリーの後姿をしばらく見ている寅

<モヨロ人漁撈の像>

駅前にあるこの像は、1967年、網走ライオンズ・クラブの

認証伝達に合わせ、市の玄関口に設置された。


10年後、網走駅の拡張工事のため網走湖畔にある

網走湖荘の中庭に移設された。

名を「モヨロ人漁撈の像」という。


52年ぶりのモヨロ貝塚の再調査を機に、

像も2003年に再び網走駅前に戻され現在に至る。



朝日新聞デジタル:モヨロ人漁撈の像(網走市) - 北海道 - 地域




映画の画面中央左側に移設前のこの像が映っている。

最初に設置された場所なのだろう。

貴重な資料ともいえるワンシーンである。





そしてそのモヨロ貝塚こそ

二人の出会いの場所

なのである!




場面変わって寅の啖呵バイ

網走市南4条東3丁目 南4東3交差点


現在

駅からの位置

山田組小道具の露木さん登場


そこから少し離れた「網走橋」の袂に移動

ため息をつく寅



場所はココ

そこへ声をかけるリリー

そうこのシーンこそが

互いが互いを認識したことでの

本当の意味での出会い。



では二人のいた位置を特定してみる。


リリーの後ろにある建物の屋根

現在も存在しているのでこれを目印にする。


寅の後ろにあるのは「網走造船」



残念ながら寅友であるちびとらさんのロケ地情報によると

現在は「網走造船」の建物は解体されてしまったという。



二つの目印から当時の橋の袂の位置を特定

緑の印のところ!

黄色の点線は位置合わせ用



もう一枚別角度の写真

網走橋の古い写真はなかなか無いが

唯一この写真だけが当時の袂の形がわかる。



写真は寅のいた場所とは反対側ではあるが参考資料として

寅とリリーの立ち位置と橋の袂を図解にしてみた。


現在の位置としては

恐らくこの辺りが寅とリリーの出会いの場所。


あ~、この場所に六合村のような記念碑でも立ててもらえたら・・・




そしてこの後二人が

網走川の川岸で話しをする約5分のシーン


「男はつらいよ」は

当然「寅の物語」であるのだが

それ以外には「さくらと博の物語」でもあり


そして「寅とリリーの物語」でもある。



古い言い回しではあるが

運命の糸で結ばれていたであろう二人は

恋愛とはちょっと違った感覚で

互いに惹かれ合う。



そして同じ波長で気持ちを絡めるこのシーンは

決して見落とすことのできない

シリーズ屈指の

珠玉のシーンのひとつなのである。





そのシーンを文字起こしでご紹介

文字でも堪能して頂きたい。




-------------ここから-------------




二人仲良く歩いてくる

ここからしていつもの寅とはちょっと違う。

他のマドンナと同じようにリリーに一目惚れするのではなく

もうすでに何やら気持ちの中でつながっている。



特に意識しすることなく

自然に傍で寄り添う…




この出会いは

映画とは思えぬ天命

のように思えてくる。



11作を考え始めた山田監督の最初の原案では

浅丘さんは「北海道の酪農家」という設定だったらしい。


しかし、そのシナリオを読んだ浅丘さんはこう言ったという。

「監督、私のこの細腕が酪農業をやっている女の腕に見えますか?」と。


その話から原案は見直され

改めて浅丘さんに提示された役は

キャバレー歌手「松岡リリー」であったのだった。



監督の原案に役者である浅丘さんが意見する…

これもまた天命だったのではないかと感じずにはいられない。



では映画に戻ろう…



<寅>

故郷(くに)は何処なんだい

<リリー>

故郷(くに)?

それがねぇ・・・ないね私



<寅>

へぇ~



<リリー>

生まれたのは東京らしいけどね


中学生のころからほら家出ちゃって

フーテンみたいになっちゃってたから



<寅>

へへへ

ちょいとした俺だね

流れ流れの渡り鳥かぁ



<リリー>

♪ながれ~ながれの~わた~りどり~♪…か

タララリ~パラララ~




海から船が帰ってくる

手を振るリリー



<リリー>

おーい、おかえりー!

 



リリーの「おかえりー!」は

いつもその響きに深みを感じる。




ボー、ボッボッ

汽笛で返事をしている




船の起こした波が何とも物悲しい



<寅>

どうしたい

ゆんべは泣いてたじゃねえか

<リリー>

あらやだ

見てたの




<寅>

うん・・・


なんかつらいことでもあんのか



<リリー>

うううん、別に


ただな~んとなく泣いちゃったの




<寅>

何となく?(笑)



<リリー>

うん


兄さんなんかそんなことないかな


夜汽車に乗ってさ

外見てるだろ

そうすっと何にもない真っ暗な畑の中なんかに

ひとつポツンと灯りが点いていて

あ~こういうところにも人が住んでるんだろうな

そう思ったらなんだか急に悲しくなっちゃって

涙が出そうになっちゃうときってないかい

<寅>

うん・・・

こんなちっちゃい灯りがこう・・・

遠くの方にスーっと遠ざかって行ってな、うーん

あの灯りの下が茶の間かな

もう遅いから子供たちは寝ちまって

父ちゃんと母ちゃんが二人で

湿気たせんべえでも食べながら

紡績工場に働きに行った娘のことを話してるんだい、心配して


暗い外見てそんな事考えてると

汽笛がボーっと聞こえてよ

なんだかフーっとこう涙が出ちまうなんてこたぁ

(うんうんと頷きながら)・・・あるな


わかるよ



ボーボーボーーー


出港する船を見つめる二人

<寅>

父ちゃんのお出かけか


船上ではお父さんが港にいる子供たちに手を振っている


船に向かっていつまでも手をふる子供と奥さん


バイバイ父ちゃん、バイバーイ


ボーーーーーーーーー(特別に長い汽笛)


リリーのテーマが流れる

何度聞いてもこのシーンでの

「リリーのテーマ」は名曲である。

バイバーイ

お土産買ってきてねー




その光景を見つめる二人

リリーは寅とは違い

思いつめた顔をしている


これは二人の感じ方が違うのであろう。


帰る場所のある寅と


帰る場所のないリリー



生い立ちや生き様などとても似ている二人だが

究極では最後の部分に大きな違いがある。


この決定的に違う最後の部分が

結果的にいつも二人を遠ざけてしまう

のかもしれない。





<リリー>

ねえ


<寅>

うん?


<リリー>

あたしたちみたいな生活ってさ

ふつーの人たちとは違うんだよね


それも良い方に違うんじゃなくて

なんて言うのかな


あってもなくてもどうでもいいみたいな

つまりさ


あぶくみたいなもんだね


自分の生活はあぶくみたいなもの…



どこで生まれて

どこで消えようが

だれも気にすることはない。


その時その時であぶくは

膨らんでは弾け消えていく…



夢を持って頑張っては来たが

現実は甘くなく

幾たびも夢は儚く消えていく。



そんな毎日に何の意味があるのか…

幸せなんてこの先本当に来るのだろうか。


おそらくはいつも心の中で

自問自答してきたであろうリリー。



同じような境遇の寅に

もう一人の自分を重ね合わせ

心根に思うことをつい独り言のように

吐露してしまったのかもしれない。



<寅>

うん(大きく頷く寅)


あぶくだよ


その言葉に寅も納得する。



それも上等なあぶくじゃねえやな

風呂ン中でこいた屁じゃねえけども

背中の方に回ってパチンだ



寅の思考回路は必ずこういった方向性を生み出す。



<リリー>

フフフ・・・

ひひひひひひ(笑うリリー)



いつも思うのだが

寅の言葉は心の弱っている人を救ってくれる。


心の弱った人は「死」というものを

意識しがちになる。


しかし、寅自身にはそんな選択肢は毛頭ない。



寅は会話の中で実際に自分が経験してきた事を

自分の言葉にして真剣に相手に伝えようとする。


それは決して相手を笑わせようとして言ってるのではなく

ただただ真っすぐに伝えようとしている。



話を聞いている人はそんな寅を見て

フッと我に返り思わず笑ってしまうのだろう。



そして笑うことで改めて今生きている事を実感し

その大切さを思い出し

心が救われていくのかもしれない。


<寅>

え?

可笑しいか?(つられて寅も笑)


<リリー>

面白いね、お兄さん


<寅>

へへへへへ(笑)


(笑いながら寅の腕時計に目をやり)


<リリー>

今何時?


<寅>

ん?


<リリー>

そろそろ商売にかかんなくちゃ


<寅>

うん


いくのかい?

<リリー>

うん


じゃあまたどっかで会おう



<寅>

ああ


ニッポンのどっかでな


<リリー>

うん


じゃあね



<寅>

うん


<リリー>

兄さん

兄さん、何て名前?

<寅>

ええ?

おれか

おれは葛飾柴又の車寅次郎ってんだい

寅、史上最強にかっこいい…



<リリー>

車寅次郎・・・

じゃあ寅さん‼

<寅>

ああ


<リリー>

はは…良い名前だね!

あ・・・はっ・・・



小走りにかけていくリリー



-------------ここまで-------------




如何であろうか。



この約5分間が二人の心がそっと

寄り添いあった最初の瞬間だったのだ。



そう…


初めての出会いの場の記念碑も必要であるが


この二人が初めて寄り添った場所も

特定しなければいけない!!



反対の岸は護岸工事で激変してしまっているので困難。

となると目印は

リリーの後ろにある建物

これは結構な目印になる


昔の写真にも

目立って写っている



一般の方の撮影された2006年頃の写真

まだ存在していた



ということは1977年のこの写真にも写っているはず

恐らくはこのピンク枠の建物



映画のシーンよりカメラ位置を特定してみる…その?@

赤い星印が二人のいた位置?



映画のシーンよりカメラ位置を特定してみる…その?A

映画のシーンより

電話塔の見え方で特定



現在のストリートビュー

恐らくこの★印のあたりのはず



位置的には大体半径2~3m位の

誤差範囲だと思うのだが

この地を公共で整備されているというのなら

是非、記念碑を建てて頂けないだろうか。



25作では六合村にバス停が復活したり

48作ではリリーの家が残されていたりと

リリーシリーズの重要ポイントになるロケ地には

目印になるものが存在しているのに

どうしてここ出会いの場には

何もないのだろう。残念である。




網走市にはロケ当時のことが何も残っていないのだろうか。

検索してもあまり情報は出てこない。



もし網走市の方が当ブログをご覧になっていたら

ご検討して頂けないだろうか。



実際、寅さんファンの方々はかなりの人数が

網走のロケ地に訪れている。



網走の地をもっと忘れられない場所にしてもらいたい。

~まとめ~

どうかこの★印2か所に記念碑のような

ものを何卒よろしくお願いいたします。





おしまい




追記


網走ニュースというサイトからの情報

当時、偶然通りかかった女子高生が撮影されたという

本当に貴重なお写真。


<アップ>

情報が出てきました。

お宝ですね。