寅次郎、温泉津(ゆのつ)で恋やつれ

第13作「男はつらいよ 寅次郎恋やつれ」マドンナは吉永小百合さんなのだが、

この作品には寅次郎を動かしたもう一人の女性がいる。

それは 絹代(高田敏江)さん である。

「男はつらいよ」を検索していると、👇のような白黒の写真がたまに出てくる。

後ろに映る建物からこの場所は、温泉津の「薬師湯」であることがわかる。

温泉津と言えば13作なので、このスナップ写真は13作でのロケであることがわかるのだが、映画本編にはそんなシーンは出てこない。

ただ、とらやの茶の間で寅次郎がひとり語る、いわゆる「寅のアリア」では、自分が番頭であったと言っているので

この寅次郎の番頭シーンは、しっかりと撮影されていたはずなのだ。

しかし残念ながら本編では採用されなかった・・・。


恐らくは映画全体の上映時間の関係からカットされたと思われる。

「寅のアリア」から、この番頭のシーンでは、絹代さんとの関係はもっと細かく描かれていたのではないかと思っている。


今回はそんなもう一人のマドンナ、絹代さんを軸とした

寅次郎とさくら、そしてタコ社長たちが訪れた場所を中心に、ロケ地を巡ってみたいと思う。


寅次郎の帰郷

とらやの茶の間シーン

寅次郎がとらやに帰ってきた。

そしてお土産の海産物を広げ、その豪華さにおいちゃん、おばちゃん、さくら、そしていつものようにタコ社長が驚くシーン。

さくら 「どうしたの?これ、お兄ちゃん」

 「女将が持たしてくれた」

さくら 「女将さんてどこの?」

 「旅館のよ

さくら 「どこの旅館?」

 「温泉津(ゆのつ)

さくら 「温泉津(ゆのつ)って?」

 「島根県よ

タコ 「島根県っていうと・・・

 「鳥取の向こうだ

さくら 「じゃあお兄ちゃん、島根県の温泉津っていうところの旅館にいたの?

 「そう 温泉旅館だ

さくら 「その温泉で何してたの?」

 「朝目が覚める。   耳元で波の音がパシャパシャ・・・

   雨戸をガラッと開ける   パァ~っと一面、目に染みるような青い海

   これが日本海だ!なぁ社長

   ああ今日一日も良いお天気でありますように   新鮮な空気を胸いっぱいスーッと深く吸ったとき下から女中さんの声が聞こえる

   (番頭さん、朝ごはんですよ)  

おいちゃん 「なんだい、お前番頭やってたのかい?」

 「そうだよ⤴

   はい、すぐいくよ、そう答えといてポンポンポンと布団を畳む   トントントントントン階段を下りて

   ガラッ湯殿の戸を開けてザブーッと朝風呂に入る

   身も心もさっぱりとしたところで朝ごはんですよ   さっきまで生きていたイカの刺身、ねっ!

   こんなどんぶりに山盛りだ   しょうがをパラっとかけて、醬油をツルツルっとたらし一気にパーッと食っちまう

   あとはアジのたたきに新鮮な卵   これで朝ごはんをたっぷりいただいて さあ、仕事ですよ。ねえ。

   女将のいたわりの声、

   (ご苦労さんだね、番頭さん)

   リュウマチババアの声を後にして先ず土間をパッパッパーと掃いちゃう

   打ち水をサッとして表の道路まで出てサッと水を撒く

   そこへ近所の女がスッと通りかかる

 (おっ!お絹ちゃん、これからお出かけかい?)

   (ええ、そうよ)

   (そうかい、気をつけてな、ケガをしないように)

   (はいどうもありがとう)

   (じゃあ行っといで)

   (いってきます)

   そんなところで午前中が終わるかなー。 」

タコ 「で、午後はどうなる?」

 「う~ん・・・午後はまあ海岸の散歩かね  海ってのはいくら見ても見飽きねえからな、さくら。

   寄せては返す波の音、ザブ~ンってねぇ。   俺は昔からあれ不思議なんだけどさ どうして風もないのに波がああやってたつかな

   あれはきっと沖の方でね、誰かが、こんな大きな洗濯板でワリワリワリワリこうやって俺波立ててんじゃねえかなって

   そう言ったらさ~、お絹ちゃんがね・・・」

   (寅ちゃんって面白い事言うわね、ホホホ)

   (ははは)

   (ほほほ)

その晩、寅次郎より大事な発表があるからというので、茶の間に集まる面々。

皆、絹代さんについて関心が集まる。

てっきり結婚に向けての発表かと思いきや、絹代さんとはそんな約束はしていないという。

寅次郎の話では、先ずはおいちゃん、おばちゃん、さくらたちに話を通してからの事と考えているらしい。

どう判断したらよいかわからぬとらやの面々。

こうなったら挨拶がてら、実際に絹代さんにお会いしてみようという博の発案からさくらが温泉津へ向かう事に。

丁度大阪出張の用事があるからという理由で、タコ社長を含めた寅次郎たち3人は温泉津へ向かう事になったのであった。


温泉津へ向かう列車 車窓風景

山陰本線に乗って一路温泉津へ向かう寅次郎たち

この時、車窓に見えていたのは「韓島(からしま)」

この車内シーンは、島根県大田市仁摩町宅野地区を走行中に撮影されたシーンである。

列車の窓の外に一瞬映る家は、現在もしっかりとあった。      白い雨戸のような戸が特徴的。

ここも特徴的な建物。少し高台に建つ家で、道路から長い階段が続いている。

寅次郎の後ろに映る、何かの囲い。

それがここ。ブロックで囲まれている敷地。お墓なのだろうか。


そして次がこれまで不明だったが、今回初めて判明したロケ地ポイント。

ちょっと高さが違うが映っているのはこちらの家屋。

よく見ると列車が減速を始めている。

場所は山陰本線「馬路駅」のすぐ手前。

カメラは左の方へパンしていく。

現在の場所で言うと、赤い丸の辺りがカメラがあったであろう場所。

しかし、現在はもうその場所に行くことはできない。(左側)

なので一旦線路側に出てみた。(右側が線路)

馬路駅のホームの端がもうすぐそばに見える。

本当はこの上まで登りたいところだが・・・無理。

普通に見るとこの高さが限界なのだが、今回は1脚を使い、思いっきり背伸びして撮影。

ちょっと高さが足りないが・・・世界初公開!

ここがこのシーンの撮影場所なのである。




温泉津(ゆのつ)の街並み

島根県大田市の温泉津駅へ

温泉津(ゆのつ)駅へ到着した寅次郎たち一行。

映画の時にあったホームの屋根は、撤去されて今はもう無い。

現在は改札がないので、そのまま入ることができる。

以前は、こういった駅員さんの姿が当たり前だったのだが・・・

「JAしまね 温泉津支店」が併設されている。 この支店があることで完全なる無人駅を免れているということなのだろうか。

寅たち一行が訪れた頃の温泉津駅

1985年頃の温泉津駅 ※「プラットホーム」サイトから引用

寅次郎たち一行は、この場所からタクシーに乗ってお絹さんの窯場へと向かったのである。

ところどころ映画の頃と同じ建物が現在も残っている。

「ゆのつ温泉」看板のところ。

現在はもうあの”「ゆのつ温泉」”という看板は無くなっている。

この俯瞰撮影が結構大変。

こちらの「龍御前神社」の右手より階段を上っていく。

上に岩肌が見えていてその下に少し屋根が見えている場所がある。あそこまで登るのだ。

この狭い階段を上っていく。

かなり勾配がきつい・・・

丁度中間地点 折り返すように坂道は続く。

登り切った上から見下ろした写真。足元に注意が必要。

かなりの年月を感じるお社。

普通に撮影すると手前に木があるため映画のような俯瞰が撮影できない。

一脚にカメラを固定し、高さ3メートルくらいにして撮影したが、これでも高さが足りない… 

山田組はどうやって撮影したのだろう…

崖の上に登って撮影したのだろうか・・・ もしくは何か知らない事情があるのだろうか・・・

温泉宿までの道のり。幅が狭いのでゆっくりと走る。

寅次郎が番頭として働いていた旅館が見えてくる。

トンネル前

映画ではこのまま進んだように見えるが、実はこのトンネルの上の道を行った方が窯場に近い。上の道は温泉津駅そばから続いている。



温泉津やきものの里 登り窯

現在ここは現在観光地となっている。

温泉津やきものの里・やきもの館

大きな登り窯が連なる温泉津焼陶器の歴史にふれ創作体験や陶器購入ができます

 江戸時代中期に築窯された登り窯を復元。全国でも最大級の10段という巨大さにびっくり。温泉津焼を産んだ登り窯の見学と土ひねりや絵付けなどの陶芸体験(やきもの館)も楽しめます。


 長さ20m、10段の巨大な登り窯2基が目を引く温泉津やきものの里。そのスケールは全国最大級です。隣接する「やきもの館」では、陶芸文化の歴史の展示や温泉津焼秀作の展示のほか、創作室では手ひねりや絵付け等が体験でき、たいへん好評です。

※ 島根県大田市観光サイトより引用

お絹さんの姿が目に浮かぶ。

さくらのこの表情が非常に切ない。

なぜ、さくらがこんな表情になったのか・・・それは映画本編をご覧ください。



翌日の温泉津の朝。

形が特徴的な屋根が見える。今でも確認できる。

ここは階段の途中から撮影できる。ただし、木々が視界を遮っているので、ここも一脚を伸ばしギリギリ撮影。

朝の風景 「薬師湯」前


さくらとタコ社長

帰りの列車を待つ、さくらとタコ社長。

駅の隣にあるグラウンドで、ブラスバンドの演奏練習をしている子供たちがいる。

それに気づき、見つめるさくら。

さくらは子供たちが演奏する姿を温泉津駅のホームから夢中になって見ている。

なぜ、そこまで夢中になって見ていたのだろう。


もしかするとそこに兄、寅次郎の姿を見ていたのかもしれない。

一生懸命、演奏の練習をする子供たち。

ただひたすらに、そして純粋に、無我夢中で練習するその姿は、

兄の人に対する純粋な気持ち、ただひたすらに一生懸命になる姿を重ね合わせて見ていたのではないだろうか。



そのころ寅次郎は、山陰本線の列車に乗り、ひとり益田市方面へと向かっていたのであった。



この後、寅次郎は津和野で歌子と、偶然の再会を果たすのである。


絹代の日常

歌子との再会で、すっかり絹代の事などどこ吹く風となっていた寅次郎。

そんなタイミングで映画中盤過ぎに絹代から手紙が届く。

絹代からの手紙

 寅さん、その後お変わりありませんか?突然この町をお発ちになってしまってどうしたのか心配しておりましたが、妹様のお手紙で、ご無事に実家にお戻りになったことを知ってホッといたしました。わたくしたち親子も元気で暮らしています。主人も心を入れ替えて働く気になってくれております。これも皆々様のお陰でございます。梅雨の季節に向け、ご家族の皆々様、どうぞお身体をお大事にお過ごしくださいませ。                   

かしこ

静かに優しく絹代の音楽が流れる。

 手紙の内容で、さくらがその後絹代に手紙を送っていることがわかる。

こういった細かな気遣いを、さくらはいつもしているのである。


そんなさくらの気遣いを、寅次郎は間違いなく知っている。

だからこそ、妹さくらの幸せを願う気持ちがより一層強まるのである。

カメラが右へパンして行く。このシーンをつなぐと下のようになる。

橋の名前は「港橋」

趣のある路地である。

ここは是非とも同じアングルで撮影したかったが、残念ながら通行止め。  老朽化が進んでいるのだ。

あああ・・・残念。。。

絹代の日常が映し出される。

追われるような大変な毎日が想像できるが、それと同時に絹代の幸せも伝わる良いシーンである。



寅次郎の想い そしてエンディングへ

暑い最中、歌子の父親がとらやを訪ねてきているシーン。

おいちゃん・・・「しかし、何でしょうね~、大島は暑いんでしょうね~今頃は。まあ、冬は暖っけえところなんでしょうけどね。」

博・・・「お手紙の様子じゃ、仕事はなかなか大変らしいですね。」

さくら・・・「1日中、子供を追いかけまわしてるとか。」

歌子の父・・・「ああ、何かそのようなことらしいですな。」

おばちゃん・・・「でも、よくお許しになりましたね、大事なお嬢さんをあんな遠いところに・・・」

歌子の父・・・「いやぁ、私は反対したんですが、言う事を聞くような娘(ヤツ)じゃありませんから。何しろ頑固なところは私に似とりまして・・・あっ、寅次郎さんはどうしてます?」

さくら・・・「ええ、先月の中頃、家を出たっきりで・・・まぁ、どっかで元気にはしてるんでしょうけど。」

歌子の父・・・「ほう、放浪の旅、ということですか。」

さくら・・・「ええ・・・(苦笑)」

歌子からの手紙~

とらやのみなさん、暑い夏をいかがお過ごしですか?

大島に来てひと月が夢の様にたってしまいました。

心や体の不自由な子供の面倒を見るのは、想像していたよりも、はるかに大変な仕事です。

朝、目を覚ましてから夜寝るまで、子供たちを相手にまるで戦争です。

毎日が無我夢中のうちに過ぎてしまうのです。

皆さんと幸せについて語り合った夜の事を時々懐かしく思い出します。

今の私は幸せかどうか、そんなことを考えるゆとりもありませんが、でも10年先、20年先になって今の事を思い出した時に、ああ、あの頃は幸せだったとそう思えるようでありたいと願っています。

ところで、寅さんはどうしていますか?

今、旅先ですか?

私は寅さんがいつかひょいとこの島に来てくれるような気がしてなりません。

ああ・・・ホントに来てくれないかなぁ~


歌子に対する自分の気持ちだけで、自分本位な行動に出た寅次郎。


しかし、その寅次郎のとった行動は、歌子と父親の掛け違えた心のボタンを元に戻すことに成功するのである。


結果的に高見親子を幸せに導くことになった寅次郎ではあったが、

このままでは自分の気が付かないうちに、大好きな歌子を不幸にしてしまうのではないかと

自ら反省し、柴又を後にする寅次郎なのであった。



ミキサー車から降りる寅次郎。 

いつものようにヒッチハイクしたのだと思うが、なぜこの場所で降りたのだろうか?

ま、そこがフーテンの寅次郎なのである。

ここは島根県益田市高津町にある「持石海岸」

温泉津からは約85㎞程、離れたところにある海岸である。

海岸を見渡す寅次郎。

女性の笑い声に何か気が付き、その方向に視線を運ぶ。

ひとりの女性と目が合う。

声の主は、あの絹代であった。その後ろでは絹代の家族の姿も見える。

家族そろって、海水浴に来ているのである。

笑顔で駆け寄る寅次郎。

寅・・・ 「お絹さーん!」

絹代・・・ 「寅さん!」

寅・・・ 「おう!」

絹代・・・ 「まあ、寅さんしばらく・・・父ちゃん!父ちゃん!ちょっと、ちょっと!父ちゃん、ほら、父ちゃん」

寅・・・ 「ああ、これはどうも、旦那さんですね!あっ、どうもはじめまして。お絹さんにはいろいろとお世話になっておりました・・・ええ。今そこで皆さんの・・・あの、お幸せなお姿を拝見しまして・・・・。


暗い気持ちで旅立った寅次郎であったが

その後の旅先で、歌子に代筆をお願いした手紙の通り、絹代とその家族に出会う事になったのである。


絹代たち家族のその後や、傷心の寅次郎を心配していた私たちは、

幸せな日常を送る絹代たち家族、そして嬉しそうに素直に喜ぶ寅次郎の姿を見て

深く優しい気持ちに包まれる。


まさに「男はつらいよ」王道のラスト。

このラストシーンが見れることで、私たちはいつも幸せな気持ちになれるのである。


「男はつらいよ」   寅次郎、絹代との恋やつれ物語  ・・・  これにて終幕


おしまい。


今回も長い長い内容にお付き合い頂きまして、誠にありがとうございました。