沼津駅前交番の考察

2018/1/19

「沼津駅前交番の考察」  男はつらいよ

今回は第7作

はつらいよ 奮闘編で登場した

「沼津駅」にも行ってきた。


寅ファンの方にはご承知の場面とは思うが

その場面を少しお伝えしたい。


映画では約30分経過したあたりのシーン。

富士市でのバイを終えた寅は

沼津市のラーメン店に立ち寄る。

そこで初めて今作でのマドンナ

花子(榊原るみ)に出会う



湯気のまだ残るラーメンのスープを

美味しそう最後まで飲み干す花子。


寅の視線に気付き、無邪気にほほ笑む。

少し戸惑いながら寅も微笑み返す。

はい、おまちどう。


出来上がったラーメンを寅に持ってくる

店主(柳家小さん)


花子視線に気づく店主。

あ、勘定かね?


うなずく花子


80円



シャツの胸ポケットから小さく折りたたんでいた

1000円札を出す花子


なーんだ、細かいの無いかな?


うなずきながら1000円札を渡す花子


う~ん

しょうがねえなぁ


寅をチラッと見る店主


ま、ちょいと待っててね。


外に出ていく店主。近くで両替をしてくるようだ。



汽車の汽笛が鳴っている

ピー、ガタンガタン



店内には寅と花子の二人きり

ラジオから音楽が流れだす



♪あなたならどうする


なかにし礼 作詞

筒美 京平 作曲

いしだあゆみ 歌



ラーメンを勢いよくすする寅

花子の視線に気づき振り返る


ふふ~ん


視線が合った花子がまた無邪気に笑う。

それにつられてラーメンを食べながら寅もまた笑う。


えぎ~、どう行けば…

花子がしゃべりだす


なに?

花子の方言で聞き取れなかった寅。


えぎ!

笑顔でハッキリと花子


おー、「駅」か!

駅はね、この道真っすぐ行って

パチンコ屋があるから

そこを右に曲がると

突き当りが駅だよ。



店主が外から帰ってくる


お待ちどうさま。

ハイ

これ500円ね、(500円札を渡す。)

420円…(残りの小銭を渡す。)


またまた寅と目が合い無邪気に笑う花子

それにつられまたまた笑う寅


ね、無くさないようにな。


最後にまた寅を見て笑う花子。

見送りながら笑う寅。


店を出ていく花子




お客さん…


え?


あの子ね

(自分の頭を指さしながら)

ここが少しおかしいね。


そーかい?


わかんないかねー


そりゃあね、

世間的にはかわいい女の子で通るけども

よーく見てごらんよ、

目元なんざへんにこー間が抜けててさー

確かありゃ~どこかの紡績工場から

逃げ出したに違いないよ。


んー今、人手不足だからね。

工場の人事課長かなんかが田舎に行って

そいでま、ちょいと変な子だけども

頭数だけ揃えておきゃあなんてんで

引っ張ってきたようなもんの

人並みには働けねえ

しょっちゅう叱られてばかりいて

嫌になって逃げだすっていうやつだよ。


そのうちにまぁ、

悪い男かなんかに騙されて

バーだ、キャバレーだ

挙句の果てにはストリップか何かに

売り飛ばされちゃうんじゃねえかな~


ん~

かわいそうだな。


立ち上がる店主




この店主の勝手な想像が

この後寅の頭からず~っと

離れなくなってしまうのであった。(^^;)ゞ





場面変わって沼津駅前

歩道を歩く寅



後ろには今は無き西武百貨店のビルが映っている。


沼津西武百貨店は沼津駅前の発展と共に存在したビルだった

昭和中期の絵葉書にも描かれている。

1957年6月8日開店。2013年1月31日閉店。

地方都市への百貨店としての支店開設1号店。

当時は鉄道グループと流通グループが袂を分かつ前だったので、

鉄道の子会社伊豆箱根鉄道が建設したビル(当初は地上5階建、

のちに7階まで増築)を一棟借りして入居。

開業時のキャッチコピーは「沼津で東京のお買い物を」だった。

1971年に竣工した隣接の「ニュー西武ビル」を新館として増床し

、両館の5階部分を連絡通路で結んだ。(出典:ウィキペディア)



今はもう西武百貨店本館は取り壊されていた。

昭和45年12月に完成した

ニチイのビルが映る。(平成7年2月閉店)

当時の沼津駅。

通りすがり、ふと建物の中に目をやる寅。

交番の中に先ほどの花子が泣きながら座っている。

交番の中から警察官の声が聞こえてくる。



どーなの?兄弟いるんだろう?

大きな声に通りすがりのカップルも思わず交番の中を覗き込む


何とか言ってごらんよ~

ちゃんと答えてごらん。


そのただならぬ雰囲気に思わず寅が入ってくる


赤ん坊じゃないんだから

口をきいてくれよ。


その迫力に怖くなってか泣きじゃくる花子


交番に入ってきた寅に気づき

なんすか?

警官は(犬塚弘)



え?あの~

駅、どこです?


えき?


ええ、


そこじゃないかぁ~

寅の後ろにしっかりと「沼津駅」の電飾看板が光って見えている


振り返る寅


あ~、あそこですか~


つめよる警官


ずっと前からあそこですか?


あたりまえだろう。


あ、はぁ~

お辞儀する寅


何言ってんだ。



立ち去る寅

泣き続ける花子


泣いてばっかりいたんじゃ何にもわかんないんだよ。


直ぐに引き返してきた寅


名前は?

怖くてまた泣き出す花子


仕様がないな~


バン、机をたたきながら

自分の名前くらい言えん…

まあ、まあ旦那

割って入る寅


大きな声を出しちゃいけませんよ

このこはねちょっと頭が薄いんですよ 。

それをさっきから旦那大きな声で怒鳴るもんだから、怖くて怖くてこの子震えてるんだ、

なぁ~

花子に話しかける寅。

寅に気が付く花子


あんた何すか?



詰め寄る警官を手で制し

いい…


どーしたの、ん?

花子の肩にそっと手を添え

泣かなくてもいいんだよ。


横に座る寅

警官をにらみつける花子


さ、ほら涙拭いて。

ハンカチを差し出す寅


な、うん?

名前なんていうの?

優しい口調で尋ねる寅


おおたはなこ


ほら、ね!

警官を見て話す寅

ちゃんと答えるでしょ。


うなずく警官


ね、住所どこ?家。


青森県西津軽郡鰺ヶ沢町驫木


青森かぁ~

警官をチラッと見ながら


遠いところから来たんだねぇ~


で、これから青森に帰ろおってのか!

またまた怒り口調で話す警官


(あ~それ駄目駄目)という顔をする寅


これからおうち帰ろうとしたんだな。


んだ。

うなずく花子


そ~か、そ~か。大変だな。

お茶でも飲むか?


うなずく花子


うん。

ちょっと一杯入れてきて。

警官に指示する寅


そ~かぁ~、青森か

言われるままお茶を入れに行く警官


あ、俺にもね、二つ。

奥のドアをあけお茶を入れに行く警官



笑う寅

それを見て泣き顔から笑顔になる花子。

頬にはまだ涙の後が光っている

嬉しそうに笑う。


お茶を入れている警官。


駅のベルの音が聞こえてくる。

派出所を覗き込む人々

車のクラクションが鳴り響く


お茶を入れドアから出てくる警官

交番の外の人集りに気づき

用のない人は行って!

警官の言葉の後に

一緒に手を払う寅


さ、(お茶をすすめる寅)


今聞いてましたらね、


うん。


やっぱりこの辺のバーで働いてたらしいんですよ。


多分そんなこっちゃないかと思った。

また悪いやつらに捕まるからここに連れてきたんだがな。


そうなんだよ花子ちゃん、うん?

この人は決しておっかなくはないんだから、

うん、優しい良い人なんだよ。


警官の腕をつかみながら

ほら、見てごらん、うん?

ほら、優しい、優しいよ

思わず笑う警官


ね~、この子の言う通り

その~青森の故郷に帰した方が良いでしょうかね?


そうだな

今から上りの汽車乗せるか。


あ、時間表は…


ん? あ、

(机の上を指さす)


ああああ、ハイハイ


花子ちゃん、お金持っているか?


う、うん。


さっきのお釣り920円を警察官に出す


これで全部か?


うなづく花子


弱ったな


寅を見る警官


青森までいくらかかるかな?


3000円くらいじゃないすか。

さすが寅!即答。

ああ・・・


机の引き出しから書類を取り出す警官


駅の方覗き込みながら

あ、旦那、急がないと

上野からの連絡間に合いませんよ。


ああ

胸ポケットから財布を取り出す警官


あのね、これが

寅が時刻表を警官に見せる


財布を広げる警官


そこに指を突っ込み中を確かめる寅


お、お?


な、なに…


財布を隠す警官


それで、全部ですか?


いや、月給前だからな


はは~


合わせて2420…

花子はラーメンのお釣り920円を持っていたので

恐らく警官は1500円しか持っていなかった。


良いでしょ!


腹巻から財布を取り出す寅

バン!

威勢の良い音を立てて自分の財布を警官に差し出す


どうぞ、用立てておくんなさい。


いや、そうはいかないよ。


何を言ってるんですか旦那

急ぎのようじゃござんせんか、

さ。


財布を広げる寅

それを覗き込む警官


あたしも月給前ですからね。


出てきたのは500円札3枚


2…3と。

500円札をわざとらしく数える寅。


これと…500円

いいでしょ、いいでしょ。

と更に警官の財布から500円を抜き取る寅


1000円、2000円、3500円と…

何とかなるよ、な!



おそらく寅が1500円出し

警官が1000円

そして花子が持っていた500円札で

合計3000円になるのだが

警官がこれだけは残しておきたいと思っていた

最後の500円札を寅は取り上げ

全部お札だけで3500円と計算したものと思われる。





不安そうな顔をしながらも寅を信じる花子


ここまでが交番内でのシーン






今回はこの交番の位置にも

スポットを当ててみた。


航空写真で1976年と現在を比較。

現在の道路の上に交番の出入口はあったようだ。


昭和45年の住宅地図

色付けしてみる。

この地図を見て気が付いたことがあった

それは交番の位置

地図では建物正面から見て右側が派出所で左側が案内所になっている。

映画では左側が交番になっている。


ということは映画で出てきた派出所は本物ではなく

山田組が現場の建物に作ったセットであったのだ。


そして交番のあった建物は、大手町地区再開発ビル「イーラde」が建っている前にあったということになる。


今でいうとこんな感じだろうか。

元交番があった辺りからの風景

イーラde

イーラde(いーらで)は静岡県沼津市大手町に所在する再開発ビルである。

概要:建物は地上20階地下1階建て、高さ82m(軒高78m)であり、沼津市内では最も高く、

"静岡県東部でも三島市にある高層マンションに次いで2番目


なお名称は時代を意味する英語の「era」、"

(熱海市に建設中の高層マンションが竣工すると3番目)の高さである。

そして方言で「いいでしょ」を意味する「いいら」から一旦「イーラ」に決定したが、

のちに駿東郡長泉町の静岡県立静岡がんセンターに同名の彫刻があることが判明し、

後ろに「de」(で)をつけることで解決した。(出典:ウィキペディア)


そして交番のあった建物自体の事だが

その建物の横には伊豆箱根鉄道軌道線の発着所があったのだった。


伊豆箱根鉄道軌道線は、静岡県三島市の三島町停留場から

沼津市の沼津駅前停留場までの間を結んでいた。


その路面電車は

1906年(明治39年)11月に開業し、

1963年(昭和38年)2月に惜しまれつつも廃止された。


時期は違うが路面電車も西武百貨店と同じく

約50年間、沼津駅前の発展を支えてきたのである。



路面電車廃止後の写真

見えている路面電車は廃止後の展示用車両。

そして右奥に見えているのが映画で交番として使われた建物。

よく見ると「派出所」の看板で「案内所」を隠しているような…

もっと昔、明治時代の沼津駅の写真。(余談)

話を映画に戻そう。



ミカンとせんべいを手渡す寅

ピー

構内から汽車の汽笛が聞こえてくる


終点まで乗るんだよ。

そこが最後だから

東京だからな。


そっから上野ってとこ行くんだよ。

そんで青森行きの急行はどこから乗るんですかって聞くんだよ。


その辺にいる男に聞いちゃだめだぞ、

駅員さんとかおまわりさんに聞くんだ。

その辺にいる男はみんな悪い男だからな。



わかってんのか、おい~


なんだか心配だな~

おれも一緒に行ってやりたいけどよ

ちょっと汽車賃もねえし…


構内アナウンスが聞こえてくる

普通列車東京行きご利用の方4番線へおいでください



涙ぐむ花子


さ、行こう。


改札から花子を送り出す寅

よお、ちょっとちょっと待て。

あのねもし東京でもって迷子になったらな、

葛飾の柴又のとらやって団子やを

訪ねていきな。


よー、おいわかってんのかよ。

葛飾柴又の・・・

ちょ、ちょっといってみな!


かしつか・・・しままたの・・・とら・・・


いやー違う違う違うよ!


わりぃ、ちょっとすまね。

駅員さんのポケットから

勝手に手帳を取り出し

色々書きだす。


書いたページを破き

花子へ渡す


これもってな、迷子になったら

おまわりさんにこれを見せて

この家訪ねていきな。


そこでな寅ちゃんに聞いてきたって

そう言えよ。

家のもの親切にしてくれるから。


とらちゃん


うん、おれ、寅ちゃんっていうんだよ。

な、うん、さっ行きな。

ほれ、ほれ。

花子の背中を押す寅


トボトボと歩き出す花子


その後姿を改札口の端っこまで追いかける寅


お客さん、手帳手帳

駅員さんに言われても振り切る寅

花子への心配で頭がいっぱい。


うなだれながら階段を上がる花子

おい!

へんな男に声かけられてもな

返事するんじゃねえぞ。

わかったな。

ほれ行きな!


うなずく花子


階段をのぼりながらミカンを落とす

ミカンを拾い上げ振り返る花子


早くいくんだよ!


階段を上がっていく花子。やがて見えなくなる。

いつまでも階段を見つめる寅。

ホームのベルがけたたましく鳴る。

手帳を借りた駅員さんに挨拶。

花子の事が心配で仕方ない寅。

悲し気な後姿がそれを物語る。



沼津シーン終り



沼津駅の駅員さんにお尋ねしたところ

この階段の位置は昔から変わっていないとの事。

ここを花子はミカンを落としながら上って行ったのである。


本当の交番の位置を新発見。

そして映画に登場した交番は山田組のセット

(よ~く考えてみたら本物の交番を撮影には使わせてもらえないですよね。)

そしてその建物のあった場所には沼津駅の発展にもつながった路面電車の発着所があったということ。

今は無き50年以上も沼津駅の発展とともにあった西武百貨店のビル…

ものすごく沼津駅前について勉強になった調査であった。

このシーンもまたかつての日本の「時代」をしっかりと残している貴重なシーンなのであった。


おしまい。