発見!埼玉ロケ!
第14作 男はつらいよ 寅次郎子守唄
2022年10月7日掲載
多くの書籍や記事、文献を読まれていたりする方、またこの映画が好き過ぎて思いっきり調べまくっている方、はたまたロケ地に多少のご興味があり、全作品をくまなくお調べになられているような方、等の寅さんファンの間ではこれまでちょっとした定説があった。
それは都道府県の中で、富山県、埼玉県、高知県の3県だけは映画「男はつらいよ」のロケが行われていない、という定説である。
もうこれは揺るぎ様のない事実と思っていたが、近年になってある一部のファンの方々の発見によりその定説のひとつが覆ったのである!
それは何と埼玉県で実はロケは行われていたという事実!絶句!ま、まさか!!!!
その発見者のお一人は、長年の寅仲間であり、全国のロケ地を日本一巡られている、その名もちびとら(HN)さん。
今回はその発見までの経緯と現地レポートのお話なのである。
2021年10月初め
その話は福島にある「湯川たから館 髙羽哲夫の軌跡」を訪れた際に発見した、あるひとつの書き込みから始まる。
湯川たから館 髙羽哲夫の軌跡
たから館の様子は別のページにてご紹介しております。
タイトルをクリックで該当ページにジャンプします。👆
お時間のある時にお楽しみください!
興奮の新発見!
ひと通り資料を確認させて頂き、しばし展示物をひとつひとつ確認しながらそれぞれの余韻に浸っている時、突然「あっ!」という驚きの声が上がった。その声の主は最後まで資料を確認されていたちびとらさんからであった。
その宝物を掘り当てたかのような、歓喜にも似た驚きの声に、私も吉川さんも何事かとちびとらさんの所へ駆け寄ったのである。
「遂に見つけました!」
その言葉を聞いた瞬間、何かとてつもない事実を見つけられたのだろうと直感した。
「ちょっと(ここの書き込み)見てください!」
そこには鉛筆による高羽さんの手書きで、実写「秩父・美の山」と書いてある。
秩父・美の山?
この台本は第14作「寅次郎子守唄」である。
映像を確認してみよう。
松竹のマーク
最初の夢のシーンで映る山・・・それがこちらである。
昔 ある村にな、とても働き者の夫婦がおった・・・
薄っすらと見える山の稜線。カメラは右へ動いて行く。
正直者で人には親切で・・・
村中で2人の悪口を言う者は1人もおりゃせん。
嫁にもろうなら、あんな嫁を・・・
雲海もあり、非常に幻想的なシーンである。
また、婿にするならあんな婿をと
誰もがそう思うとった・・・。
その後は、前田さんと倍賞さんのシーンとなる。
最初に映った山が恐らく該当する山・・・
つまり「秩父・美の山」なのである。
時間にして約18秒・・・
これは気が付かない!(^_^;)
正直、14作の夢の最初の部分は特に気にしていなかったため、最初は何を言われているのかよく理解ができていなかった。よくよくお話を聞いてみると、ちびとらさんはその山がどこの山なのかを、長い間調べていて、もしかしたら秩父ではないかと推測をされていたそうで、その答えの発見に歓喜されたというわけなのである。
ところで、冒頭でも少し説明しているが、これまで寅さんのロケをしていないのは富山県と埼玉県と高知県の3県というのは、もう誰も疑う余地のないほどの定説だったわけで、この「秩父」、つまり埼玉県でのロケが本当であれば、その定説を覆す、とんでもない衝撃の新発見となる事になるのである。そんな理由からか私たちは、その他の新発見も忘れる程、少し興奮気味に帰りの車中ではもうその秩父の話に夢中になっていたのであった。
秩父・美の山とは?
帰宅後、先ずは秩父・美の山を知るべく検索をしてみた。すると出てきたのは「美の山公園」。秩父市と皆野町にまたがる標高581.5mの「蓑山(みのやま)」山頂 を整備した、広さ41haの緑豊かな公園、とある。そして出てくるのはとてもきれいな雲海の写真と素晴らしい眺望。どうやら美の山展望台からの眺望はとても見晴らしがよく、人気の撮影スポットになっているようなのである。
「美の山山頂展望台」からの俯瞰。南の方角に尖った山が見える。武甲山である。(夕方の写真)
北西の方角には両神山が見える。(昼間の写真)
※出典 ジオパーク秩父
※出典 ジオパーク秩父
映画では右にカメラが移動するため、全体の山の感じがつかめない。そこでいつものように連続する画面をつなぎ合わせてみた。
そのつなぎ合わせたパノラマ写真が👇こちらである。
すると最初に映っていた山の稜線が非常に特徴的だったため、すぐにどの場所なのかが判明した。
比較写真がこちら。👇
見つけた!同じである!!このシーンはここから撮影された可能性大!!!
そしてもう一つ、映画にも映る雲海。映画のシーンを再現するなら、この雲海も一緒に撮影をしたい。更に調べてみると何と偶然にも一年の中で、10月(今)からが一番(雲海の)発生率が高いタイミングであることが判明した!
もうこうなったらすぐにでも行くしかない!決断までにそれ程の時間は必要なかったのである。
【雲海とは】
雲海とは、地表付近に濃い霧が発生し、標高の高い場所から見下ろすと雲の海が広がっているように見える神秘的な現象です。
【秩父雲海が発生しやすい条件】
■季節 シーズンは春と秋。ピークは11月。(条件がそろえば夏や冬でも見られます。)
■時間 明け方~早朝が多い
■天気 明け方晴れていること(前日雨が降るとさらに発生しやすい)
■風速 風が弱いこと(風速1m/s以下が続くと発生しやすい)
■湿度 湿度が高いこと(湿度が100%に近いと発生しやすい)
【「秩父雲海」の特徴】
秩父盆地では、夜に地面付近の空気が冷えて霧が発生することが多く、早朝にかけて雲海が見られます。
市街地を覆うように雲海が発生するため、夜景の光が雲海を照らし虹色に輝く「雲海夜景」や、橋や工場が雲海に包まれて幻想的に見える「天空の橋」・「天空の工場」など、様々なバリエーションを楽しめます。
※出典:ジオパーク秩父
目指せ!ロケ地 「美の山公園」山頂展望台!
目指す「美の山公園」山頂展望台は、秩父駅より約11㎞、時間にして車で約20分位の山の頂上にある展望台である。
雲海を狙うには、天候と気温、そして湿度が大切。つまり前日が雨で気温が低く、翌日は晴れて気温が朝から上がる日が狙い目。
入念に天気予報を調べ、事前に目標日を運よく決めることができた。決行日は10月23日!
決行日は朝3時に起き、吉川さんとの待ち合わせ場所へと車で向かった。
4時半、もう街中モヤがかかっているので雲海が発生することは間違いない!確信と共に美の山公園の山頂へと向かった。
するとどうだろう、山頂に向かって行くととにかく車が多い。バイクもいる。朝5時前なのに異常なくらい人がいる。
まさか、これ全員雲海目当てなのだろうか?
予想は的中!展望台に上がった時には、もう既にカメラを構えた人たちが撮影できるポイントを陣取り、とにかくその時を待っていたのである。
恐るべし!雲海!!
暗い中でも既に雲海は大量に発生していることは肉眼でハッキリと見えていた。もうこれで今日の勝利は間違いなし!と確信をしたのであった。
ちなみに夜は夜で、非常に幻想的な写真も撮れるようだ。
※WEBより参考資料
※WEBより参考資料
段々と夜が明けてきた。
ちなみにこちらは武甲山(山頂が尖っている山)方面なので目的とは反対方向。でも他の人たちはこちら方面を熱心に撮影していた。
こちらが目的の方角。私と吉川さんだけがこちらの方角を撮影。
まだ上空では月がきれいに見えている。
そしてどんどんと明るくなってくる。朝焼けの両神山
東側はもうすっかり陽が上っている。
夢中になって撮影を続ける吉川さん。(展望台より)この時間になるとさすがに人はいなくなった。
この日は吉川さんと一緒に、素晴らしい雲海との遭遇も相まって、少々興奮気味に写真を撮り続けた。
映画との比較
それにしても見事な雲海であった!
両神山もバッチリである!
8時を過ぎるとすっかり陽も昇り、青空も広がって、とても気持ちの良い一日の始まりとなった。
「美の山公園」山頂展望台の建物下からのパノラマ
その後、もう少し北に移動したパノラマスポットへも一応確認のため移動
ここではない。二子山の見え方がまるで違う。というかほとんど見えない。
2カ所確認して「美の山公園」展望台で間違いないと思い、そのまま帰路へ。
そう・・・この時点ではまったく気が付いていなかったのである。
正しき高羽アングルへのリベンジ
壮大な雲海もしっかりと発生し、世紀の大発見ともいえるロケ地での撮影成功に気をよくしていた私だったが、サイトにアップすべく撮影した写真を整理していた時、ふとある事に気が付いた。それは・・・
山の形が微妙に違う・・・。
連なる山々とは別に、前後して他の山も重なりあって見えているので、眺める高さによってその稜線は違って見えるのだ。
これは比較画像。両神山や二子山(黄色い点線)は少し高い位置にあるので山の形は同じだが、黄色点線丸で囲った若干低めの山の見え方が、映画の見え方と全然違っている。
つまり「美の山公園」山頂展望台からの撮影では撮影位置が少し高すぎるのである。では、いったい正しい撮影場所はどこなのか・・・
そのことは吉川さんもお気付きで、3人一致で撮影のピンポイントは「美の山公園」山頂展望台ではない、と結論付けられた。
これで撮影ポイント探しは振出しに戻ってしまった。改めて整理するために、「秩父地域おもてなし観光公社」さんでご紹介されている秩父の雲海スポットを確認してみると、「美の山公園山頂展望台(標高582m)」、「羊山公園(標高280m)」、「秩父ミューズパーク展望台(標高360m)」、三峯神社(標高1,100m)など、まあまあ存在している。
ポイントとしてはA、B、Cのどれかになってくるのだが、A以外では両神山の見え方が変わってしまうため、B、C地区はあり得ないと考え、A地区付近を重点的に捜索は続いたが、本当にそのポイントは今でも現存しているのだろうかという不安も頭をよぎり始めていた。
※WEBより参考資料
吉川さんもこの写真から高さはこの位ではないかと推測。
しかし、この場所は写真としてもとても魅力的である。残念ながらこの場所は不明。
そんな折、寅友のちびとらさんより1枚の写真がLINEで届いた。それは正しく映画と同じような山の見え方なのである。
この写真が発見されたことによって、間違いなく撮影ポイントは存在すると確信に変わった。
そこから急激に捜索は進み、そしてほぼ同じようなタイミングで吉川さん、ちびとらさんとそのポイントを発見することができたのである。
そのポイントというのは黒谷の展望所という場所で、これまで全くのノーマークの場所であった!
黒谷の展望所も実は埼玉県秩父市黒谷 美の山公園 前回の美の山公園山頂展望台よりほぼ南へ約7㎞の位置になる。
標高は前回の美の山公園展望台の約580mから、今度は約350mと約200m以上標高が低い場所となる。
間違いない事が判明し、先陣をきって吉川さん、ちびとらさんが現地に確認に行かれた。(私は仕事の為その時は不参加)
そして頂いた写真には・・・
そうなのである!間違いない!遂に、遂にその場所での撮影に成功!その写真は正に映画と同じ山の形だったのである!
いざ!雲海の待つ、秩父・美の山へ!
2021年11月23日
最初に「美の山公園」山頂展望台に行ってから、実に1ヶ月が過ぎていた。発見までの道のりも大変だったが、なによりも雲海の発生に合わせるのがとても難しかった。雲海は湿度以外にも、ある程度気温の寒暖差が必要になるため、12月に入ってしまうと朝の気温が上がりにくいため、雲海の発生は難しくなるようなのだ。正直、朝3時に起きての秩父へのアタックは身体にもきついのでこれを最後としたい。祈るような気持ちで、吉川さんと待ち合わせをした秩父駅近くのコンビニへと向かった。
朝4時、吉川さんと待ち合わせ場所で無事合流し、まだ暗い状態の街の中を一路黒谷の展望所へと車を走らせた。前回雲海が大きく発生した時と比べ、若干朝もやが少ない。果たして本当に雲海は発生するのだろうか。不安が頭をよぎる。
4時20分、黒谷の展望所に到着。さすがに前回の山頂展望台ような、駐車場激混み状態ではなかったが、雲海を見に来ている車は既にそれなりに停まっていた。あとは雲海の発生と、夜明けを待つだけだ。
夜が薄っすらと明けてきた。しかし、雲海は街の上に薄っすらとあるだけ。
朝日が差し込んできた。雲海もどんどん広がっているが、ちょっと風が強すぎて、雲海がどんどん流されていく・・・
これが今日の限界であったが、しっかりと雲海は発生。個人的には満足いく結果となった。
黒谷の展望所 パンラマ写真
ちょうどカメラが設置できるような平らな場所が実はここにあるのだ。
高さ、方角、設置のしやすさを考えると、恐らくはここにカメラを設置し、山田組B班も撮影したのではないだろうか。(想像しやすいように、シルエットの絵を写真に合わせて置いてみた。)
第14作は、昭和49年12月公開である。夢のシーンは最後に撮影されると言っていたので、山田組B班もきっと47年前の同じような季節にここを訪れ、そして撮影をしたのだと思う。そして雲海が撮影できたことで安心して帰られたのではないだろうか。ひょっとしたら、ここで数日、車中泊をしながら雲海の発生を待っていた可能性も否定できない。
ちょうど目の前に両神山、二子山、父不見山が真っすぐ正面に見えるのだ。邪魔に見える手前の林は、撮影当時はもっと低かったはず。
朝の「黒谷の展望所」からの眺望
夕方の「黒谷の展望所」からの眺望
実は私も決行日の約1週間前に、時間帯は夕方であったが、一度下見に行っていたのである。
最終比較。全く同じである!遂に映画のカメラで撮影したピンポイントの場所に来ることができたのである!
(黄色の点線は位置合わせのためのもの)
上段が映画の画面を繋げたもの、下段は今回の場所で撮影した俯瞰
最終結論!「男はつらいよ」の映画の中で埼玉県ロケは存在したのである!!
おしまい