赤禰武人『報効志士人名録』（第貳輯） 史談会編刊(明治四十四年四月)
○赤彌武人(舊稱幹之丞。長門山口藩侯毛利氏臣。天保十年己亥二月二日生。齢二十八。)
武人。周防玖珂郡麻里布村柱島醫松﨑三宅の長男。同島里正中富氏に養はる。幼年志を起し、嘉永四年島を脱して同郡遠崎村妙圓寺住職月性(贈正四位)の門に入り學を受く。同五年筑前人小林藤吉に就て柔術を習ふ。同六年月性武人を伴ひ熊毛郡伊保庄阿月村の文武場克巳堂に遊ぶ。後月性の旨を含みて屡々阿月に往來す。
安政三年(丙辰)秋月性の媒を以て阿月の住士赤禰雅平(忠右衛門)の養嗣と爲る。爾後阿月に移りて、克巳堂に入り、日夜文武を励み、傍ら郷黨の子弟を訓督すること懇切なり。郷黨深く之を徳とす。
同四年(丁己)春養父の介を以て京郡に上り、若狭人梅田源二郎(贈正四位)の門に入り學を修む。後江戸に赴き剣客斉藤篤信齊(彌九郎。贈正五位)儒者櫻任藏(贈從四位)羽倉外記の門に入り文武を研修す。同五年京に上り又源二郎の家に居る。九月三日老中間部詮勝(下總守。從四位下)上京。先づ有志の士を捕ふ。七日源二郎を捕へ他の有志に及ふ。時に武人窃に源二郎曾て同志と往復したる書牘にして家藏のものを拾集して悉く之を毀棄し、其連累の禍危を絶つ。幕吏武人を捕へて投獄す。雅平之を傳聞して、禍害の藩に及はんことを慮り、直に上京し、幕吏に縁りて歎願する處あり。幕府之を釋す。雅平携へて阿月に歸り、姑く家宅に謹慎命を待たしむ。募府亦追究せす。
武人爾來阿月に在り日々克巳堂に出入して、郷黨の子弟を督励し、專ら尊攘のの義を唱へて士氣を督励したり。