回天三策(孝明天皇に上る上書・文久三年四月八日)
平野國臣著
謹んで密奏奉り候。当時天下の形勢、駸々として黠夷外より迫り、焔々たる大姦内に誇り、その機の安ぜざる事、譬えば人体に癰疸の両病を醸すが如く、実に國體の存亡、命脈の断続、この時にこれある段は、今更申し上げ候までも御座なく、即ち叡覧の通りに御座候。
然る上當(戌)十月にて、華庫堺の三津、開港の期約満ち候由、もしこの三ヶ所開港に相成り候得ば、例の商館と號し、城郭様の物を製造し、群虜を屯せしめ、軍艦を繋ぎ、砲台を構え、水陸を要塞するに至り、神州中断の象しにて、譬えば龍蛇の胴中を切断せらるる如く、首尾自ら卒然、応援の道運び難く、恐れながら鳳闕の御危難、累卵よりも甚だしく、万一その期に及びては、外寇掃攘の策、施すべく術計これなく、手を束ねて左衽蟹文の風に変じ、居ながら腥膻(せいたん)の正朔(暦)を奉ずるの外に處置これなき儀は、鏡影より朗かに御座候。