神武必勝論(文久三年三月)
平野國臣著
上 巻
それ兵を動かすは国の大事にして、死生存亡に関わる。固より軽挙すべからず。彼を知り己を知り、五事七計を以てこれを梭(ひ)す。予め勝負を廟算に見て、間を用い機を探り、十二方略を施し、敵をして常に焼屋の下に立ち、漏船の中に座するが如くならしめ、我をして同船して風に遇い、高きに登りて梯を去るが如くし、或は迅雷烈風の勢いを以て、九天の上に動き、或は山林静除の気を収めて、九地の下に隠れ、千変万化し、勢に因り利を制す、正を以て戦い、奇を以て勝、これ戦争の大法にして、先んじて人を制するの道也。敵もし我に先んじてこの法を用い来らば、我必ず不算なるべし。いかに不算なればとて、
一節のかぶら矢をも射ち返えさざるして、弦を絶ち、冑を脱ぎて、敵に下るは義に非るなり。たとえ人種は尽くるまでも我他供に肺肝を砕き筋骨を労し、あくまで誠忠精義を竭くし、迂直の方を以て勝を制し国を保たずんば人たるべからず。