真木和泉 義挙三策
諸侯に挙事を勧むるの得失
今事を挙ぐるには、九千の兵なくんば有るべからず。少くしても必ず三干は無くては叶わざる也。然れば大諸侯にあらざれば挙ぐることを得ず。大諸侯にて九干の兵を出すならば、事の成るは勿論、其の時の勢い甚だしきにて、天下の諸侯これに応ずる者速やかならん。又天下士民事の必ず成るを頼みて人氣勃起し、たとえ一方に非義の義を守り籠城する者ありとも、天下これに與せず。其の領国の士民より起りて倒戈するに至るべし。是れ諸侯を勧めて挙げしむること方今の妙策なり。
然りといえども、今日の諸侯と云うもの、誰れ是れと云う差別もなく、其の家を重んじ、其の事の成否を深く勘へ過ぐして、決断するものなく、且つ老臣など兎角鄭重の説のみ多くして、日又一日と推しやり、機を失うこと甚し。機を失ふも今日までは宜しけれども、明年中も過ぐしたらば、大変起りて手の下し所なくなり、九千の兵は九萬ありても成すべからざるに至るべし。是れ諸侯を頼むに足らざるの憂なり。其の事成りて後に覇を計る憂いは、過慮と謂うべし。元亀天正の天下とは大いに異なることあり。事長ければ此に論ぜず。