大 夢 記 真木和泉著
既にして 上赫怒、據なく諸大臣を召して曰く、これ忍ぶ也、孰れ忍ぶべからざる也。朕云云欲す。大臣皆曰く。謹んで諾す。乃ち使臣を召し詔を草す。密使を発しこれを傳う。その詔に曰く。朕眇眇の躬を以て忝くその業を継ぐ。夙夜勉励す。祖宗に辱るを恐る。而して即位これ初む。
洋虜の東海に陵(陵廟)を侵すを聞く。乃ち幕府に詔を下しこれ備えと為す。而して有司とりわけ凞(き)を恬(やすらか)に務む。以て意を為さず。遂に癸丑(嘉永六年)の禍い致し馴む。爾来来舶漸く多し。侮謾漸く甚し。ここに於いて天地鬼神、始めて警戒を降ろす。地振るえ海溢る。彗星災傷。既に虚歳無く。而して有司漠然悟らず。丁巳(安政四年)の冬に至る。虜遂に請けべからざるものを請く。其の意蓋し知るべし。朕乃ち有司某を徴す。其の不可を諭す。丁寧これに罄(尽)くす。而して某還りて則ち詔に背き虜を許す。許して後これを報ず。
朕虜を怖れて詔を軽んずるを怒るといえども、寛裕これを容る。また某博をしてその宗藩親族、天下侯伯に議せしむ。然り宗藩親族会し不可を陳べる者、既に皆これに囚わる。且つその主を立つるに最幼者を擇ぶ。今又云云。若しその為す所に従う。則ち徒らにその府の事を壊さず、必ず天下の事を壊す。則ち祖宗の責を如何せん。