『新論』(下巻)
[目次]
守 禦 一
長 計 一三
(おわりに) 二六
守禦
およそ國家を守るは、兵備を修め、和戦の策先ず定めざるべからず、二者未だ決せず、則ち天下汎汎然、向う所知るなかれ、紀綱廢弛、上下偸安、而して智は謀を為す能はず、勇者怒り為す能はず、日又一日、坐して虜謀稔熟、手を垬いて敗を待たしむ者、是皆内陰に於いて坐して懼る所有りて敢て断じざる故也。昔者蒙古嘗て無礼我に於いて加え、北條時宗断然立ち其の使いを戮す、天下に令して将に兵を發し之を征せしむ。亀山帝萬乗の尊を以て、而して身國難に代へて祈る。是の時に當り説いて以て難を犯す、民其の死を忘れ、天下孰れも敢て必死を以て自ら期さず、故に億兆一心、精誠感ずる所、能く風浪を起し、虜海上に殲す、是れ謂う所の死地に置きて後、生くる者也、古人言う有り、朝野をして常に虜兵の境に有るが如くせしむ、すなわち国家の福なり。